第21話 OCEAN(オーシャン)
── 一緒に練習しないか?
思いがけない招待に驚きを見せた三人だったが、
海沿いで海風もとてもいい感じに吹いている。自然に囲まれており、
「ここか……」
温かみのある木造建築。特別大きいわけではなく、部屋は二、三部屋ある程度。しかし、佇まいは
二人の感動をよそに、
遅れて二人も後に続いた。
内装も綺麗に整えられており、生活に必要なもの以外は一切置かれていない。
定期的に掃除がされているのか、家の中もとても綺麗だ。
フローリングの床を歩いていく三人。
この別荘で一番広い
「おー、来たか!」
扉の開く音を聞いて、
その声に
「そんなにビックリしなくてもいいよ。僕に至っては初対面じゃないんだから」
「そうは言われましても……」
テレビやライブで見ていた面々だ。だが、生で──しかもプライベートでの
急な
「悪い、アンタらのファンなんだコイツ。許してくれ」と
「大丈夫だぜ! あーしらも慣れてるし、ファンは大事にしないとな」
そう言ったのは、このバンドでギターを担当している
橙色に染めたミディアムボブ。ファッションは白色のオフショルダートップス、黒色のスキニーデニムでちょっと大人っぽいコーデをしており、色気を感じる。
「で、コイツはあーしの一番の親友──
隣で
「よろしく……お願いします」
小さな声で一言だけ呟き、恥ずかしそうに顔を逸らす。そんな彼女とは裏腹に、
「次は俺だな! 俺の名前は……」
「どいて」
張り切っていたところをゴスロリ衣装の女に押し倒され、自己紹介の機会を失う。
割り込んだのは
髪型は赤と黒のミディアムパーマ。服装は姫がテーマのゴスロリ衣装を着用しており、今回は紫を基調としたものを選んだようだ。
無愛想に名乗った後に、自分専用の椅子に腰をかけ、スマホの世界に入っていく。やることはやるが、無駄は嫌い、コミュニケーションは必要最低限しかしない。そういう考えの持ち主だ。
「おっと……次こそ俺だな! 俺の名前は……」
「コイツは
「おーい!
ツッコミを入れる金色の長髪男──
メンバーの中には好みの子がいない(無愛想、根暗、ギャル)ので興味がない。
「まぁ、一応、僕、
「光栄です! 光栄です!」
涙を流しながら
「そこまで言ってくれるなんて、招待した甲斐があったね。ところで君、可愛いね。今度お食事なんて……」
「コラ! 彼女困ってんだろうが! それに未成年だぞ。ちょっとは考えて声かけろや!」
「あぁ? 俺の眼中に入らねぇからって、イライラしてんじゃねぇよ、このアバズレ!」
「テメェに言われたくねぇんだよ! このヤリチン野郎が!」
「はぁ? テメェのイメージで勝手に決めつけんなよ! 俺はそんなに女と遊んでねぇよ!」
いつものお約束通り、
「ファンの前だぞ。見苦しいところは見せるなよ」
呆れながら、いつも通り口論を止めていく。
で……連絡先だけでもと言い、自分の電話番号を渡してきた。
どう対処していいかわからず、困っている
「痛て!」
いきなりの行為で、
だが、彼女に取ってはそれがデフォルトで……
それどころか、「さすがにキモいよ。それは」と冷たい視線を向けながら言葉を吐き捨てる。
その後、
「受け取らなくてもいいから。それよりごめん。アイツの代わりに私からお詫び」
そう言いながら、急に頭を下げて謝られる。
「アイツ、見境なしだからさ。気をつけなよ」
「はい。わかりました」
そんな彼女の後ろ姿を見て、
「あのー、サインください!」
「サイン?」
振り返り、疑問を浮かべる声を出す。
「はい! 私、
上手く言えないが、このバンドで一番推しているメンバーだ。彼女のキーボードに惹かれ、
「いいよ。ウチのサインで良ければいくらでも書いてあげるよ。君可愛いしね」
無愛想ながら初めて見せる笑み。
それが自分に向けられたと思うと、心臓が跳ね上がりそうで、はち切れそうで、幸せの境地だった。
この後も合同練習というよりかは、親睦会みたいになってしまった。
残りの四人は女子同士、ファッションやコスメなどの話をしていくのだが、
「どうしたんだよ兄貴」
「
「なんだよ急に」
「いや、あの二人があんなに積極的なのって珍しいんだぜ。メンバーでもあれだけ話したことはないかなー。彼女、何かを惹きつける魅力でもあるんだろうな。お前を再び音楽の道に歩ませるよう火をつけたのも彼女だろ?」
「厳密には違うけど……まぁ、キッカケではあったかな?」
決めては
そういう意味でも
「まぁ、長話しててもしゃあいないし、そろそろ練習始めるか」
両手を叩き、音を鳴らす。
「練習開始っすか!」
「いや、俺たちの演奏はまだだ。まずは、
突然の申し出。しかし、これはチャンスでもあった。なぜなら、審査を務めるのは伝説と呼ばれる超一流バンド。
この評価で見えてくるだろう。彼女たちの進む道の険しさや現在抱えている課題などが……
「わかりました! よろしくお願いします!」
最大のチャンスを活かすため、
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