第20話 バンド名
時は一ヶ月前に
伝説を越えるという目標を立てた三人だったが、練習場所の確保がまだという壁にぶつかっていた。
「親父も忙しいからなー」
「しょうがないよね。今日は
「いや、
スタープロジェクトで演奏する楽曲はオリジナルかつ未発表の楽曲でなければならない規約がある。
この部分がこの大会の厳しいところだ。
オリジナル曲の壁を突破するために、お金でプロの作曲家に曲作りを依頼する者もいるらしい。
だが、美月たちは違った。なぜなら……
「こっちの方が印象を強く残せるだろ? それに、
「そうだね」
どう転んでも、自分達で作詞作曲をしていく方が効率が良かった。
練習開始。
その横で、
わからない単語をスマホで検索……しようとした時、通知が来ている事に気がつく。それを見て、
「
始めたばかりの練習を中断させ、全員をスマホ画面に注目させた。そこには『スタープロジェクトエントリー開始』と書かれていたから。
「今日からだったのか……知らなかった……」
突然すぎる報告に
「開いたついでだ。エントリーしちまっとこうぜ」
「そうだね」
どうせ出場することは決めているので、これを先延ばしにしたところで意味はない。
早めにエントリーできるならそれに越したことはないので、特設サイトへと飛ぶ。
背景は黄色にワンポイントで白が入っている。花火や楽器などのフリー画像が使われているデザインのサイトだった。
会員登録が必須のようだ。
美月は名前、誕生日などの個人情報を入力していく。
全てを入力し、確認画面に飛ぶが、最後にバンド名記載の欄があった。それを見た
「そういえば、私達……バンド名なかったよね……」
その言葉に場の空気が凍る。
────その後、
「安心しろ! エントリーは今日始まったばっかだ。しかも、一ヶ月期間がある。じっくりバンド名を考えればいい」
エントリー期間は『8月23日〜9月23日』の間。
本日は8月23日。まだまだ猶予はあるので、焦る二人を
だが、
それまでは、『ナカノミト』という、メンバーの名前を一文字ずつとった仮の名前で活動していた。
彼らは大会などに出るわけではなかったので、これでも良かったが、スタープロジェクトにエントリーするとなったらこうはいかない。
その名前が正式な名前となるので、彼女達は仮の名前をつけるという選択肢が取れないのだ。
思わぬところで壁にぶつかってしまい、悩みに悩む三人。
ネットで調べたりして、色々な単語を出していくが、しっくりくるものがない。それどころか、
「リトルワールドってのはどうだ? 俺たちらしいだろ?」
「はぁ? 伝説を越えようってのにその名前はねぇだろ? ここはやっぱりリベンジャーズ一択だよな」
自分の世界を奏でたい
お互いがお互いの意見を譲らず、口論は続いていく。そんな時、
「なら……ムーンライトってのはどうかな?」
『それはない!』
困っていたため、助け
その行動に珍しくイラッとした
「せっかく私も出してあげたのに、それはないよ! 私たちは伝説を越えるんでしょ! なら、宇宙関連のワードを入れようと思った……の、に……」
ちょっとづつ話している勢いが失われ……美月は頭の中にアイデアが降ってきた時の形容し難い感覚に襲われる。そして、「
「
あまりに小さい声だったが、
「
「確か意味は……」
簡潔にいえば、宇宙最初の大爆発。そこから、
宇宙創生の意味を持つ単語。それをバンド名にする。海を越え、バンド界に新たな
「でしょ!」
自分の出した答えをまんざらでもないように言う
「まぁ、これが
そう言う
バンド名も無事決まり、『
「
「いや、そんなことないよ……」
「特待生!」
「あぁ、学校違うから
「ありえねぇ」
「なんで! 私って普段どんな風に見えてるの!」
普段おちゃらけている
だが、常識は持ち合わせているので、決して危ない人間ではない。
ちょっとしたバカ話をしていると、突然
「兄貴からだ。なんだろう?」
『おー、
「元気だよ」
『そうか。親父から借りたスタジオを調子はどうだ?』
「良い感じだよ。感謝してる」
『まぁ、親父もお袋もお前が音楽始めることに泣いて喜んでたもんな』
「そうだな。よっぽど嬉しかったんだろうな」
あの日の父親の表情を思い浮かべ、
音楽を始めることを話したら、自分に抱きつき、泣いて喜んでくれた。その姿はまるで子供のようで、どっちが親かわからなくなるくらいだ。
しかし、それも仕方ないだろう。
「ドラムもプレゼントしてくれたし、その想いに応えられるように頑張ってみるよ」
『そうだな。頑張れよ』
そう言った後に、『スピーカーにしてくれないか』と言い、
『あー、あー、聞こえてる?』
「はい! 聞こえてます!」
少しだけ緊張しながら
『久しぶりだね
「はい!」
『ならよかった。ちょっと相談したい事があってね』
「相談ですか?」
『そう、相談。で、単刀直入に聞くけど……来週の土曜って空いてる?』
「空いてますけど……」
『よかった! もしよかったら、俺たちが練習してる別荘に来ない? 一緒に練習しようよ』
「えっ!」
一瞬聞き間違いだと思った。だが、それを修正するかのように今度はゆっくりと言葉を紡ぐ。
『だ・か・ら……俺たちと一緒に練習しよう』
今度こそ聞き間違いではない。
突然すぎる提案。あまりに想定外すぎて、三人の思考は固まった。
なぜなら、自分達が越えるべき壁。そちらから歩み寄ってきてくれたものだったから。
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