第2章 スタープロジェクト編〈序の章〉

第19話 スタープロジェクト開幕!


 「レディースアンドジェントルマン! さぁ、始まったぞー、スタープロジェクトが!」


 高らかな声で宣言するのはレミー・シドラ。スタープロジェクトを企画し、開催までこぎつけた張本人。


 四年に一度の祭典とあってか、彼にとってもこの大会は特別なもので、心が高揚してくる。だから、いつもの癖が出てしまい……


 「前回大会の優勝者──アロマグリーン。彼女達の演奏は全てが超越されていたね! ギターのソロパートなんか見せつけるような熱いものを感じたし、ドラムの彼女、スティック回したりしてちょっと変わった叩き方もしてたよね! 今でもそれは健在なんだー! もうバンドとして完成された物だって言っても過言だよね! それに……」


「レミーさん、そのあたりりにしてください。視聴者の皆さんビックリしてますよ。時間も押してるんです。ですから、早く本題を」


「あぁ、悪い、悪い。熱くなるとつい口が勝手に動いてしまうんだ」


 アシスタントの女性に指摘され、他所道よそみちれた話を戻していく。


「この日を楽しみにしていた諸君! 私も次世代を担うバンドマンの誕生が楽しみだ! だから、今大会も全力で奮闘してくれよ!」


『当たり前だ!』『私たちが優勝!』『それは俺たちだよ!』など、彼の言葉ひとつでコメント欄が賑わう。


 一息つき、咳払いをした後、レミーはスタープロジェクトの概要を語り出した。


「スタープロジェクトは一次予選、二次予選、本戦と三つに分かれている。そして、一次予選のみは、毎年恒例の動画配信で行われるんだ! 理由は簡単。参加人数制限がないから、一般人にも審査員を務めてもらおうと思ってね! だが、動画を公開するサイトは運営が用意した特設ページの動画投稿サイトにアップしてもらうよ。このサイトでは、独自のAIを搭載しているから、君たちのポイント数に応じてランキングが自動で作られる。そして……」


 またも咳払いをし、言葉を紡ぐ。


「上位百位に入ったバンドのみが二次試験に到達できるってわけだ!」


『うおぉぉぉぉぉ!!』


 ここでもコメント欄が盛り上がる。


 だが、よくよく考えれば、言っていることは残酷だった。


 何千万、下手をすれば億という参加人数の中から、たったの百組に入らなければならない。


 それがどれだけ修羅な道のりか……数字を見ただけで素人でも理解できる。しかし、コメント欄で盛り上がっている者たちは溢れ出るアドレナリンのせいで、その事実に気づけない。


静粛せいしゅくに! 静粛せいしゅくに!」


 レミーは熱狂しているコメント欄を落ち着かせた後、言葉を続ける。


「あっ! それと、最後に。今伝えても意味ないから、二次予選、最終予選に至っては突破した人にのみ、また概要を伝えるよ! GOOD LUCKグッドラック! Byバーイ!」


 最後にそう言い残し、レミー・シドラの出番は終わった。ここからはパレードのようなものが始まったのだが……


「俺たちが見るのはここまでだな」


 スタープロジェクトの概要のみが知りたかった美月みづきたちは、ライブ配信を閉じる。


「たったの百人……」


「まさかそんな鬼門になっていたとは思わなかった」


 美月みづきの呟きに春樹はるきが自分の爪をかじりながら、焦りの表情を見せる。


「どういうこと?」


「兄貴が参加した四年前は千人は突破枠があった。それを削ったってことは……」


「最初から振るい落とそうって魂胆こんたんだろうな」


「あぁ、多分気軽に参加できるようになっちまったのが原因だな」


 翔兎しょうとの言葉に春樹はるきが答えを出す。


 ネットでエントリーでき、気軽に参加ができるスタープロジェクト。


 だが、気軽にできるということは競争率が高くなることを意味していた。それどころか、演奏レベルが一定に満たないものですら参加できるのだから、次世代をになうバンドマンを欲しがっている彼らにとっては、これくらいしないと割に合わないのだろう。


 この大会の厳しさは理解していたつもりだが、概要を聞いたことにより、それをより痛感させられる。


「でも、頑張って練習して、勝てばいいだけだよね! せっかく春樹はるき君のお父さんがスタジオ貸してくれたんだから!」


 念願のスタジオに来れた美月みづきは、楽しそうに言う。


 あれから一ヶ月。


 なかなか春樹はるきの父親から連絡が来なかったので心配だったが、二週間を過ぎた頃、連絡が来た。


 結果はあっさりとOKしてくれたので、彼女たちも驚いたが、望んだ結果になったので、嬉しいの一言に尽きる。


 しかも、春樹はるきが音楽を再び始めることに泣いて喜び、復活祝いに春樹はるきにドラムもプレゼントしてくれた。しかも、そのドラムは春樹はるきが楽器屋で見ていた黒色のドラム。


 ここまで太っ腹な彼の父親。美月みづきが聞いていた本家の人間とは正反対の人物だった。


 念願のスタジオにウキウキの美月みづき。だが、


「浮かれてるところ悪いんだが、動画配信って時点でこの大会が既に平等じゃねぇってことに気づいてるか?」


「どういうこと?」


「簡単なことだよ。配信ってことは、必然的にインフルエンサーが優位に立つ。それだけで集客効果があるからな。つまり……最初の時点でポイントの優劣は顕著けんちょに出るだろうな」


 春樹はるきがこの大会のシビアな点を説明する。


 司会者はそこには触れていなかったが、おそらく自分で気づかせる点か、それとも、あえて触れないことで大会参加へのハードルを下げているのか……


 春樹はるきが気づいてしまったため、裏の事情を知ってしまった三人たっだが……


「確か美月みづきって動画投稿してたよな。それも意外とフォロワーも多かったような」


 翔兎しょうとがふと思い出す。彼の言葉に美月みづきは少しだけ遠慮気味に「まぁ、一応ね」と言葉を返した。


 翔兎しょうとにチャンネル名を聞いて春樹はるきは有名な動画サイト──MYTVマイ・ティービーで検索をかけた。馬鹿正直な美月は、ハンドルネームなど使用しておらず、本名で動画投稿を行なっていた。しかし……そのサイトを見て春樹はるきは目を見開いた。


「三万!」


 想像以上にフォロワーがいた。しかも再生数のアベレージは五千前後。ちょっとした有名人だった。


「いける! これは使わない手はねぇよ!」


「そう?」


「当たり前だろ! 美月みづきのファンってだけで、集客効果は期待できる。俺たちもブースト組になれるんだよ!」


 他のバンドより一歩前に出れる。それが、スタープロジェクト予選を勝ち上がる上で、どれだけ有利なことか。


 あまりの嬉しさに三人のやる気はさらに跳ね上がる。


 盛り上がっている三人だっだが、急にスマホに通知が来る。開いてみると、特設動画サイトへの登録が開始されたことをお知らせするものだった。


 早速、三人は登録。


 エントリーした時に、もらったパスワードを入れ、事前に入力していた誕生日などの情報とバンド名が登録される。そのバンド名を見て、


「そういえばよく思いついたなこのバンド名」


「えへへ、なんかむず痒いね」


 翔兎しょうとの言葉に美月みづきは照れる。


 BIGBANGビッグバン。だが、実際この名前には目を見張る。


 目指すスケールも大きいが、名前のインパクト

も大きい。


 この名前を思いつき、口に出した時は翔兎しょうと春樹はるき唖然あぜんとしていた。そう、名前を決めた一ヶ月前。スタープロジェクトのエントリーが始まり、バンド名もなく、漠然とした目標があっただけの日。あの日、この。それが今明らかとなる。

 


 

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