第12話 歌の力
「さて、どういった曲を作ろうか」
まずは作詞だ。
その為に、まずは彼が音楽に抱いている感情を整理してみる。とはいっても、
今ある情報だと
なら、その気持ちを再燃させるのが一番効率のいい方法だと思う。だが……
「あの口調だとかなり根深い恨みを持ってそうだし……」
しかし、心の奥底に根付いたトラウマを払拭させるのは困難を極める。実際、
そんな奇跡的なことは滅多に起こらない。
「だから私が……」
今、自分が彼にとっての
決意を胸に彼女は手を動かしていく。
アイデアが湯水の如く沸き出てきて、手が止まらない。
ここが自分のいいところでもある。一度集中できたら、スイッチが入り、作業スピードが格段に上がる。
「『好きに正直になる』──ちょっと違うかな。なら、『正直な自分を受け入れてみる』──うーん」
ピアノが苦痛になったことがある
だから、肝心なところの『詞』が決まらない。
一時間、二時間と試行錯誤していくが……
「詞!」
ハッとして心地の良い世界から解放される。
外を見るとお
どうやら寝落ちしてしまっていたらしく、歌詞は半分も完成させられなかった。
だが、それも仕方がない。昨日、二時間しか寝ていたいのだから、体が限界を迎えるのは必然だった。
母親に『いってきます』と雑に言い、住宅街を走っていく。
毎朝五時に起床している
ヒヤヒヤしながら、人生初の遅刻をしそうになった美月だったが……
「セーフ!」
「何がセーフなんだ?」
大声を出してしまったせいで
ちょっと恥ずかしくなり、赤面しながら顔を逸らす。
その後、
「おはよう!」
いつも通り、元気に教室に入ると……
「
「昨日のなんだったのかしら?」
「まぁ、関わらないほうがいいだろ」
と、クラスメイトの反応は平常運転に戻っていた。
「おはよう、
「おはよう」
「何か解決策見つかった」
「うん、彼に音楽を届けようと思って」
「そうなんだ。聞かせてよその曲」
「まだ完成してないよ。詞もできてないし」
「そうなんだ。完成したら私に一番に聞かせてよ」
「いいよ!」
「約束だよ」
「うん」
二人で約束を交わし、チャイムが鳴る。
また日常が始まる。
一日学校生活を過ごして帰宅。昨日の続きを始めた。
今日は
予定通り、
「ごめん、そこにギターあるから弾いててくない」
部屋に入ってきた
そんな
急な
「悪い。つい気になってな」
「い、いいよ……」
頬を赤らめさせながら、顔を逸らす。
「どうした?」
全く動かない
「いや、昨日は言葉が浮かんでたんだけど、なんか書けなくなっちゃって……どうしてかな?」
昨日と全然違う感覚に苛まれる
「アイツの気持ちを考えるなんてやめたらどうだ?」
「どういうこと?」
「簡単なことだよ。人の気持ちなんて相手に聞かなきゃ真実はわからないだろ? そんなの考えたって無駄だってことさ。なら、美月が
「ありがとう! また
「そんなことないさ。
「私がいなきゃ?」
「なんでもねぇよ! ほら、早くしないと曲完成させれないぞ」
「そうだね」
後者ならいくらでも書けると思う。なぜなら、
次は作曲。
この『詞』に合うのはバラード調の音だと、音楽経験が長い
「ここをこうして、こうすると……うん、いい感じ」
ちょっとしんみりさを残しながら、勇気をもらえるような音になる。暗さと明るさのバランスの取れており、ここに先ほど書いたバラードな『詞』を合わせれば最高の曲が出来上がるだろう。
慣れた手つきで続きの作曲も軽々とこなしていく。
これまでに作った曲は三桁越え。経験値は伊達じゃない。
「あとはこのコードを作れば……OK! 最後に編曲して終了っと! 明日には完成できそう。
完成して曲の試聴は、いつも
「どんな人でも楽しめるはずなんだよ、音楽は」
それを
翌日学校に登校する。
本日はルーティン(五時起床)ができたので慌てて登校することなく、学校に到着した。
ホームルームが始まるまでに時間があったので、昨日できた曲を
「ふむふむ。なるほどね」
「どう?」
「どうも何も、思いが強すぎるんじゃないかな?」
「ウソ!」
「本当だって。この『たとえ君の運命が残酷でも誰が手を伸ばしてくれる』っていう歌詞、
「そうかなー」
「そうだよ。
「愛って……そんなつもりはないんだけど」
「無自覚って一番怖いね」
人より共感能力が高い
「まぁ、ちょっと歌詞を変えてみたら? あの男にも相談してさ」
「
「そうそう。作曲はできなくても、詞を書くくらいできるでしょ」
「そうだね。で、曲の方は」
「まぁ、そっちは問題ないよ。さすが
「へへっ! ありがとう」
まだまだ改善点のある曲だが、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます