第11話 心
正直な話、映画を見る気分になれないというのが、彼女の今の心境だ。
「
しかし、それすらも
「嘘。
「ハハ……
「ならいいけど……」
だから、「気分転換に店でも見て
映画の上映時間まで二時間ほどあるので、
店の雰囲気は良好。高級感漂う内観だが、庶民が敬遠しずらい高級さではなく、どんな人が来ても比較的居心地は良いと感じられるだろう。
あくまで時間潰しなので、ウィンドウショッピングに徹するのだが……いつもはそれで楽しめるはずが、今日は店に並んでいる服を見ても気分が乗らない。
そんな
いつもより時間が経つのが遅かったが、無事二時間が経過し、二人は映画館に入っていく。
「もちろん映画はポップコーンだよね!」
「そうだね」
スクリーンに入っていき、十分ほど映画予告を見てから本編に入る。
映画の内容は、音楽に出会った青年が病気を克服し、人生を謳歌するといった感動作。
この手の映画は
無事上映が終わる。そして……
「悪くなかったね。でも、最後のシーン──主人公が自分の経験談を熱く語るところは必要だったかね。私は価値観の押し付けのように見えたよね。ふむふむ」
自称映画評論家の
「そうなんだ。私はそんな感じに思わなかったけど」
正直、集中できていなかったので、半分以上の内容は頭に入ってないが、印象に残ったシーンを懸命に思い出す。
「そう? まぁ、感じ方は人それぞれだからね」
お互いの感想を共有する。あまり覚えていなかった
「時間早いけど夕飯にする? ほら、あのラーメン屋。行きたいっていってたでしょ?」
「──あぁ、あのバズってた店でしょ?」
「そうそう。美味しそうなラーメンだったよね」
ラーメン
つい最近、SNSで話題となっていた店である。
コクの中にマイルドさが感じられ、胃が弱い人でも本格的な豚骨を堪能できるラーメン店。
瞬く間にラーメン店の覇権を握るだろうとラーメン評論家(こっちは本物)が語ってもいた。
今日、念願が叶い、話題の店に足を踏み入れる。
現在時刻五時三十分。夕飯の時間としては少しだけ早いが、既に店には大行列ができていた。
結局、二人が店に入れたのは一時間後だった。
店に入ると活気溢れる雰囲気が店内を包み込み、更には食欲を掻き立てる匂いが
「うん! これは期待できる!」
「そうだね」
話題となっていた特製チャーシュー麺を注文。
独自製法で作られたチャーシューは、異次元のチャーシューと言われており、食べた物を虜にする魅力を放っているらしい。
念願のラーメンが運ばれてくる。
期待に胸を躍らせ、口に運ぶ。
「美味しい! チャーシューもだけど麺も別格だね!」
「そうだね」
「
「そんな事ないよ。ラーメン美味しいし、映画も面白かったし……」
無理やり笑顔を作り、嫌な気持ちを払拭させていく。
それでも、
「やっぱりあの追いかけて行った人のことでしょ? だから私言ったじゃん、深入りは禁物だって。こうみえても美月は繊細なんだから」
「ごめん……」
「心配だから、もう終わりにしてね」
「わかった……」
帰宅した
人のことを放っておけない
「
誰でも自分の手を取ってくれるわけではない。それはわかっているが、手の届く範囲の人には手を伸ばしてあげたいのが
しかし、それが今回は裏目に出て自分が傷ついているのだから、本末転倒ではある。
このモヤモヤする気持ちを晴らそうと、今日は就寝しようとするのだが……眠ることができなかった。
結局、就寝したのは四時を過ぎ、次の日睡眠不足で登校した。
今日も一日が始まる。
教室の扉を開く美月だったが、体も心もボロボロだ。それを見て、
「
「いつも元気すぎるからあれくらいが丁度いいんじね?」
「でも、あれはどう見てもおかしいでしょ」
いつも敬遠しているクラスメイト達が一斉に美月を心配する。
興味がない人が見ても、今の
授業が始まっても上の空で先生に注意される。
授業内容が頭に入ってこない。
ただの抜け殻みたいになってしまった
「
「やっぱり昨日無理してたんじゃない。一体何があったのよ。追いかけていった人に何かされたの?」
「
一度聞いてしまった言葉。撤回などできない。
でも、覚えている内は美月が辛い思いをするだけ。
どうしようもできないこの感情とどう向き合っていけばいいのかわからない。
「ごめんね。風に当たってくる」
「
なんとも言えない後ろ姿を見て、
外に出た
「なんかあったか」
「
「窓から見てたら、
「はぁー、やっぱり
「
親友と同じ言葉を放った翔兎に、
「確かに
「
「だから、自分の心に決めたなら突き通せ。どれだけうざくても、どれだけムカつかれても。それが人の心の奥底に入っていったものの責任だ」
「でも……」
「お前にできることってなんだ?」
「私にできること……」
「そうだ。お前にできることでアイツの心を解放してやれ」
最後の言葉に
それは音楽。
迷わず、疑いもせず、速攻で思いついた答えでもあった。
勇気を、元気を貰えた。心の奥底から凄いと思えた。
なら、今自分が
「ありがとう
「そうか……なら良かった」
チャイムが鳴る。休み時間が終わり、二人は学校生活へと戻っていく。
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