第6話 1人目
帰路に着いた美月だったが、あの話を聞いて更に
学校からは意外と遠かったのだが、そんな事は美月にとってはお構いなしだった。
彼の家の前にたどり着いたのだが……家の中から急に乱れた服を着ている女が飛び出してきた。
それを見て美月は危険な香りがしたが、
カーテンが完全に閉められており、電気も消されていた。
誰もいない。それが少し怖く、今にでも引き返そうと思ったが、彼の身に何かあったのかと思った美月は、恐怖を押し殺して前へと進んでいく。
ひとつの部屋から声が聞こえてきた。
「テメェ、なんで学校休んだ? テメェさえいなけりゃ、さっきの女と楽しく遊べたってのによ! なに逃してくれてんだよ!」
「あの子はお前の便利な道具なんかじゃない!」
「テメェだって女と楽しく遊んでたじゃねぇか。人のこと言えねぇだろ」
父親の言葉に翔兎は黙り込む。
「まぁ、テメェの方は女の方から求められたやつだけどな。夜な夜なアプローチされて羨ましいぜ。イケメン君」
美月は声の聞こえた部屋を覗き込み、二人のやりとりを見る。
そんな痛々しい姿を見て美月は無意識に名前を呼んでしまっていた。
「美月!」
なんでここにいるという目で美月の事を見る。反対に
「おっ! この前の女。やっぱ
そう言って、翔兎をほったらかして美月へと接近してくる。
完全な男の目をしている目の前の男に恐怖を感じ、一歩も動く事ができない。
「やめろ!」
美月に接近していく男を見て、
だが、それを無視して男は乱暴に美月を突き倒す。
それを見て
「邪魔!」
そう一言だけ言われ、
「黙って見てろよ」
そう言った後、男の手が美月の胸に触れる。
気持ち悪い。やめて……
服の上からとはいえ、好きでもない男に触られた事実に、無意識に涙も溢れてくる。
これほど心が痛む思いはしたことがない。
怖い。怖い。助けて……
美月の感情は男には関係ない。
「小せぇけど結構いいじゃねぇか」
手の感触を確かめ、次は下へと手を伸ばす。
「いやー!」
男の手が伸びていくのを見て、暴れ出し、最低限の抵抗をしていく。
「暴れんじゃねぇよ! もう逃げ場なんてねぇ。俺と楽しもうや!」
「やめろって言ってんだろうが!」
暴れている美月にも暴行を加え、おとなしくさせていく。
「じゃあ、始めようか」
もう終わりだ。なんでこんな目に……
現実を呪う反面、現実から目を背けようと目も
「動くな!」
音の後、たくさんの警官たちが押し寄せてきた。
男は現行犯で逮捕され、警官たちに連れて行かれたが、「テメェら覚えとけよ!」と二人に捨て台詞を吐きいていった。
「よかった! 無事だったんだね」
「
「あのパトカーは
「うん、余計なお世話かもしれないけど、
「カーテンは閉まってたはず……」
「ちょっと空いてる場所があったよ」
偶然に偶然が重なった結果だが、それで美月は救われた。今はその事実だけがあればいい。
「ごめんね。ありがとう」
「しつこい女かもしれないし、
「ごめん……俺は君を傷つけた。だから関われない」
「そんなの関係ないよ!」
「でも……」
自分は気にしていないと伝えていくが、翔兎がケジメをつけないのが嫌らしい。だが、それに対しては、
「
今の出来事を上げ、自分への誠意は見せてくれたと伝えていく。
それでも
「私ね。昔いじめられてたの」
急な美月の言葉に翔兎は目を見開く。
それでも、美月は言葉を続けていく。
「母子家庭が原因だった。『貧乏人なのにピアノなんてやりやがって』とか言われてね。私が他の子よりすぐに上達するから、それを僻んでってのもあるんだけど……
笑いながら過去のことを話していく。
「でもね、私にとっては辛かったんだ。誰も味方がいなかったから。そんな時に
一度は拒否された手をもう一度伸ばす。今度は掴んでもらえると信じて。
だが、差し伸ばされた手は
こんな自分を思ってくれる。あんな最低なことをしたのに……
美月という女性の心の広さに翔兎は涙を流した。
そんな彼を美月は優しく抱き寄せ、頭を優しく撫でるのだった。
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