鬼灯色の浮気男④
結果、私はアルク様に
目の前には血と思われる液体で
バルディ様が目を丸くして、メイドさんの側にいたルディス様がやれやれ、と言いたげにため息をついた。いやいやいや、そのリアクションはおかしいですよね?
「君さ、そこにいるとわかっていて、何故、覗き込んだ?」
「まさか、本当にいるとは思わず……」
「君は、バカか」
うわっ、ルディス様、はっきり言いましたね、ひどい。本当のことだとしても少しは配慮してほしいです。
バルディ様が一歩前に出て、手を差し出した。
「アルク、その子を離せ。こんなことをしても意味がない。罪が重くなるだけだ」
「う、うるさいっ! 黙れ!」
アルク様は
クラスメイト達と共にご
アルク様の興奮した様子から、どうしたものかと考える。うっかり
幼い頃から野原を走り回っていたし、前世の記憶持ちとわかってからは護身術も習っているが、いざこんな場面に遭遇すると、迷うばかりで良い案が
よしんば拘束を
彼は真っすぐ私を見ていた。
そうして静かに頷く。
なるほどわかりました。つまりは、タイミングを合わせて
私が自力で脱出すればあとはバルディ様がなんとかしてくれる。人質Bはヒーローの活躍を信じて従うのみ。
するとおあつらえ向きに、廊下から話し声が聞こえてきた。
「今日の主役だというのにアルクはどこに行ったんだ?」
「イリスお嬢様がいれば場は持ちますが……」
「まさか本当にあのメイドといるわけではないだろうな」
「さすがにそこまで
「まったく、
いえ、そこまで節操のない愚か者だったようですよ。アルク様を呼び捨てている様子からして、廊下にいるのはフィーター侯爵様のようだ。
会話に気を取られたのかアルク様の拘束が緩んだ。その隙をついて、私は「せーのっ!」っと声をあげ、アルク様のお
思いのほか簡単に拘束が外れたので、反動で前のめりに転がる。
よし、脱出成功!
さすが騎士様。かっこいい。主役はこうでなくちゃ。
……と感激している私に、バルディ様が
「君は、死にたいのかっ!」
「おとなしく待っていればいいものを……」
「いや、だって……、目で合図しましたよね?」
「してないっ!」
「隙をついて脱出しろ、あとは俺に任せろ、という意味だとばかり……」
「ご令嬢にそんな危険な指示を出す騎士がいるかっ。君を安心させるために頷いただけだ!」
えぇ……、頷いただけで安心なんかできないと思いますけどぉ……。
安心できないといえば、アルク様。バルディ様に押さえつけられているというのに何やら
「私は悪くないっ、女に騙されたのだっ。あいつ、金がほしいって……、最初から金が目的だったんだ! 私はただ、あいつを黙らせたかっただけで……」
アルク様の
さらに騒ぎを聞きつけたのか、この場にイリス様までやってきてしまった。
拘束された婚約者、血を流して絶命しているメイド。まさに
気絶してしまった時は足を高くして寝かしたほうが良いのだけど、ここでそのアドバイスをする勇気はない。
わらわらと人が集まってくる中、アルク様は侯爵家の私兵によって連行されていく。まだ喚き散らしていて、異常な興奮状態だ。
そしてイリス様もたくさんの人達に囲まれて心配されながら退室した。
「あれが、普通の貴族令嬢の姿だ」
一部始終をぽかんと
イリス様は普通ではなくスペシャルハイスペックな貴族令嬢ですけど? と言いたかったけれど、たぶん問題にしている点はそこではない。
「ソウデス、ネ? ハイ、ワタシモソウ思イマス……」
棒読みになってしまったけど、否定はいたしません。確かに他の貴族令嬢ならばアルク様にナイフを突きつけられた時点で、
「もっとも、君に気絶されていたらもっと面倒だったとも思うが……」
「気絶してもダメ、気絶しないのもダメって、なんてワガママな……」
またもぶつくさとつぶやいてしまった。
「なんだと?」
ジロリと睨まれる。うぅ、目力が強いです。ポロリと余計なことを言う私も悪いとは思いますが、強すぎる目力も
それこそ普通のご令嬢ならば、ひと睨みで気絶してしまいそうです。もっとも、気絶する理由は「怖い」と「かっこよすぎ」派に分かれそうですが……。
私ですか? 私はもちろん「一刻も早く離れたい」派です。
「何か言いたいことがあるならば、言えばいい。君の失言をいちいち
えぇ……、咎めているように聞こえますけど? 黙っていても
「あの……、か弱い女性に
「君のどこにか弱さがあった。アルクは君の一撃で
「アルク様は
「いいや、絶対に君の一撃が重すぎたんだ。角度といい、スピードといい、体重を乗せたいい攻撃だった。真面目に訓練に取り組んできたのだろう」
あれ、まさか褒められてる?
そこにルディス様がやってきて、「おまえ達、随分と気が合うようだな」などと言われて、バルディ様がちょっと考えるように私を見た。
見ないでください、私はモブです、ただの通行人Aです……とばかりに視線を|逸
《そ》らす。
「兄上、パーティーは中止ですか?」
「ああ。これでは続けられないだろう。私はフィーター侯爵と話をしてくる。バルディにはここを任せたい」
「わかりました。それと、こちらの令嬢ですが……」
私は無関係です、通行人Aです……と、目を逸らし続けていたのに。
「我々と同じ第一発見者だ。もうしばらく残ってもらおう」
「あぁ……、やっぱり……」
第一発見者が重要参考人……は、刑事ドラマのセオリーのひとつ。簡単には解放してくれないか。
仕方ない……とそっとため息をつくと。
「ほら、帰れないと聞いても落ち着いたものだ。普通は家に帰りたいと騒ぐか泣くか……」
バルディ様が言いかけて、ハッと何かに気づいたように私の顔を覗き込んだ。
なんですか、顔、顔が近いですっ。
「な、な、なんでございましょうか?」
「いや……、良かった。
それはバルディ様のお顔が近いせいです! うぅ、美形、心臓に、悪い。
また余計なことを言いそうになったが、今度は堪えて「遠目で見るには眼福ですが、今後半径十メートル以内に入ってきませんように」と心の中で念じたのだった。
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