鬼灯色の浮気男③
ガタンッと大きな物音の後、ドサッと何かが
どこから……?
近くの部屋の
「何か……、人が倒れたような音ですね」
「どうかな」
「急病人の場合、時間が
無意識に漏らした私の一言に、「ん?」と二人が私を見下ろして、そこで初めてしっかりと顔を見た。
うん、雰囲気から察していたけど、お二人とも大変顔立ちが整っていらっしゃる。
紺色コートの男性は海外で
さわやかさもあるのに眼光が
青緑のコートの男性は体格が一回り小さい。と言っても
この二人、顔立ちが似ているような気もするが雰囲気はまるで
紺色コートの男性は
二人とも意思の強そうな目元というか他人を
気持ち的にはズササーッと数十メートル下がりたいが、なんとか堪えた。
両親は「アリシャが一番可愛い」と言ってくれるが、緩く巻いたハニーブロンドと空色の瞳は貴族令嬢の標準装備。純日本人の記憶からすれば確かに可愛いかも……と思っていたが、貴族学園に通うようになってからは
貴族学園って美男美女しか通えないの? と思うほど美しい方々が多く、私の場合は背の低さのせいもあり見事に周囲に
そんな私に比べて、こちらの美男子二人は色合いからして違う。貴族に多い
濃紺の髪に黒っぽい瞳の色はかなり珍しい。
この色合いを持つ貴族男性といえば、おそらくファイユーム公爵家。
以前、「すっごく素敵なご兄弟なの! 雲の上……、そう、女神様が作られた芸術作品のようなお二人なのよ」と、大興奮でクラスメイトが教えてくれた。
確かお兄さんがルディス様二十二歳、弟さんがバルディ様二十歳。ルディス様は王宮で働いていて、バルディ様は騎士団に所属、と聞いたような。
個人的には筋肉ダルマな文官と細身の騎士のほうがギャップ
推定公爵家兄弟の二人は顔を見合わせてため息をついた。
「
「ですね。彼女の言う通り、誰かが急病で倒れたのかもしれない。困っている人がいるのならば騎士として見過ごせません」
そう言って二人は観音開きの大きな扉をゆっくりと押し開いた。
そこは応接間のようだった。テーブルセットに大きな
病人ではない。
メイド服の白いエプロンが血に染まっている。この状況、私――知ってる。
「これ、ドラマでよく見たあの場面……」
――そう考えれば圧の強いイケメン兄弟が急に
メイドさんは心配だし、いきなり始まった刑事ドラマのような展開も気になるし、
男性二人は倒れているメイドさんの側に近づく。
「これは……、と、バルディ?」
あ、やっぱり彼らはファイユーム公爵家のご兄弟で正解だったようだ。しかも肉体派モデルがバルディ様で合ってたみたい。
そのバルディ様が、入り口付近に立つ私の側につかつかと歩み寄って来る。
目の前まで来ると、バルディ様が不思議そうに首を
な、なんですか? まさか、第一発見者が犯人説……をお考えで?
「わ、私は犯人ではありません。女神様に
「いや……、そうではなく」
じっと見つめられて、私には後ろ暗いことなどないのに
「きょ、共犯者でもありません。フィーター侯爵家に来たのは、今日が初めてです。本当です。イリス様から招待状をいただいて……、クラスメイト達も証言してくれるはずです」
「そんなことは言ってない。君が気絶するのではないかと思ったのだが……」
私が、気絶?
……するほどの
頼りになりそうなイケメンバディが捜査に乗り出している。これはもう解決したと言っても過言ではないでしょう。犯人が
あとはイケメンバディがいかにスマートにかっこよく事件を解決するか。
そこを観客として最後まで見届けたい!
なんてことを言えるはずもなく、少しだけ首を傾げて
「ご心配には及びません。私のことはただの通行人Aとでも思っていただければ!」
「通行人A……?」
バルディ様に思い切り不審な顔をされてしまった。
「んんっ、ともかく、私のことはお気になさらずに、早く彼女の様子を」
先ほどからメイドさんはピクリともしないし、出血もかなりしているようだ。兄弟が彼女の様子を確認しているのをハラハラした気持ちで見守っていると、兄であろうルディス様が指示を出した。
「バルディ、フィーター侯爵を呼んでくれ。それと……、警備責任者も」
医者を呼ばない、ということはそういうことなのだろう。メイドさんは事切れているようだ。
残念な結果になってしまった。可哀相に。侯爵家のメイドは下位貴族の娘が多い。
つまり私とそう変わらない
物音がしてから一、二分で部屋に入っているので、そのタイミングで害されたのなら
おそらく他殺だ。ナイフを使っての自殺なら、
そして女性の
「とすると、犯人はメイドさんと親しい男性……?」
「今、親しい
「…………!?」
――また余計なことを言っちゃった? 両親にも調査官のおじさん達にもあれほど気をつけろと注意されたのに……。
待って、落ち着くのよ、私。まだ前世の記憶持ちだと知られるようなことは言っていないはず。ここは白を切り通すしかない!
「私は何も……申しておりません。えぇ、たぶん、言っていないはずです」
「いいや、この耳でしかと聞いた。犯人は親しい男性だと。何故そう思った?」
うっ……。イケメンが顔面力で押してくる……
私はほとほと困りながら、仕方なく自分の考えを述べることにした。
「この部屋の花瓶には花が飾られていませんでした。ティーセットなども置かれていないため、使う予定のない部屋だったと思われます。彼女はこの部屋に呼び出され、殺されたのではないかと拝察しました」
「それで親しい間柄の男性だと何故わかる?」
「皆が
あれあれあれ? ってことは、犯人どこ行った?
窓……は開いていない。植え込みが見えるから窓から逃げれば物音がしたはずだ。入り口は私達が入ってきた観音扉ひとつだけ。
しかも室内には人が隠れられそうな
ソファ、テーブル、花を飾るためのテーブル。あとは……。
「犯人、まだこの部屋にいるかも……?」
大きな観音開きの扉。
推理物の漫画や小説では、たいていこの扉の裏に隠れて、関係者全員が室内に入ってから何食わぬ顔で自分も
そんなドラマみたいな展開あるわけないか、と思いながらも私は扉の裏をひょいっと覗き
バルディ様かルディス様かはわからないけど、「待てっ!」という声が聞こえた時にはもう
目が、合ってしまった。
「動くな! 動いたら、女を殺す!」
結果、私はアルク様に
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