雨の夜、また君に逢いたい。

第1話

今日は、雨だ。

たくさんの水の粒が地面に打ち付けられている。

太陽が沈んだこの街には、まだ光があった。

街灯、自動車のライト、家から零れる光。

とても、綺麗だ。

それに比べて、水たまりに映る自分――朝宮あさみや 黒亜くろあは何とも不細工だ。

痩せこけたほお、みすぼらしい服、そして生気のない顔。

――そんなこと、もうどうだっていいんだ。

だって、もうあと少しで僕は死ねるのだから。

疲れたのだ。

ここで生きることに。息をすることに。

それならもう、死んでしまおうと思った。

だから、僕は死ぬ。

雨は光に照らされて煌めいている。

そんな中で僕が死ぬ姿はどの位の人に見られるだろう。

自動車を運転する人や歩行者には見えてしまうだろうか。

――考えるだけ無駄だ。

その時、もう僕は生きていないから。

もう、この世にいないだろうから。

確かめることが出来ないことを考える必要は無い。

ここの道路は車の往来が激しい。

まぁ、死ねるだろう。

もう、何にも考えたくない。

この身を、投げ出そう。

フラフラっと車道に出る。


「……え、と……て。」


くぐもった声が聞こえる。

でも、僕には関係ない。

そもそも、大切な人なんてもうこの世には居ないんだから。

憧れのあの人が死んだ場所で、僕も死のう。

車道の真ん中に立った。

慌ててブレーキを踏む自動車がどんどん近づいてくる。

近づくにつれて光が増して、僕の前で煌めく。

――もう、良いんだ。

目を閉じようとした、その時だった。


「バンッ!!!!!!!」


目の前で、大きな音がした。

それこそ、人と自動車がぶつかったような。

そして、目の前には少女がいた。

――怪我をして。

どうしたらいいのか分からなかった。

まず、この状況が分からない。

何故だ?

僕はもう、死んでいるはずだろう?

なのに、何故?

頭がキーンとして、言うことを聞かない。

なぁ。何故僕は死ねなかったんだ?

誰か、教えてくれよ。

雨の夜、僕はただただ呆然としていた。

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