第6話 アニキとヤス

ここは、無人のお寺の本堂……の筈であったが……



「ヤス! マズイ事になったぞ!」



「アニキ、あいつら肝試しなんて言ってますけど…」



アニキとヤス……どこかで聞いた事のある名前である。



『チャリパイ・スピンオフ~テロリスト羽毛田尊南~』

https://kakuyomu.jp/works/16818093074479496628 を読んだ事のある諸君なら、もうおわかりだろう。完成間近だった新型発毛剤『ノビール』の開発者の鶴田教授を藪製薬から誘拐し、一億円の身代金を要求するが、その発毛剤の完成を心待ちにしていたテロリスト集団『尊南アルカイナ』の代表での羽毛田尊南の怒りを買い、コテンパンにやられて警察に逮捕された二人組がアニキとヤスである。


2人は、一度警察に捕まったものの、刑務所から脱獄してこの『六つ墓村』に逃れてきたのである……


ここまで書けば、もうおわかりであろう。この幽霊騒動は、この2人組の仕組んだヤラセなのであった!


この無人の寺を隠れ家にして寝泊りをしていた二人にとって、ここに人が住んでいる事を知られてしまうのは非常に都合が悪い。その為、寺に人が寄り付かないように幽霊騒ぎをでっちあげていたのだ。


「仕方がねえ! とするか……」


本堂の中には、まるでお化け屋敷の舞台裏のように様々なお化けの衣装や被り物が、所狭しと置いてあった。


「じゃあ、アッシは今回はこれで行きますか」


ヤスは『のっぺらぼう』の被り物を被り、アニキは『ドラキュラ』の格好をしていた。


「あの…アニキ……前から思ってたんですが、お寺でドラキュラってのはどうかと……」


「怖けりゃ何だっていいだろ! ほらっ行くぞ!」



          *     *     *



その頃、子豚とひろきはと言えば……


「ひろき……そんなに速く歩かないでよ、もっとくっついて歩かないと……」


「コブちゃん! もう少しでお寺に着くよ! 頑張ろう!」


見かけによらず怖がりな子豚とひろきは、懐中電灯を照らしながら精一杯の勇気を振り絞って真っ暗なお寺までの道のりを歩いていた。そして、もう少しでお寺にたどり着くと思った、その瞬間。二人の目の前にドラキュラの格好をしたアニキが現れた!!


『お前たちの血ィ~を~よ~こ~せぇぇ~~!』


「ぎゃああああ!ドラキュラだぁぁ~!」


子豚とひろきは、今来た道を一目散に逃げる!


「コブちゃん! んだね!」


「知らないわよそんなの! 早く逃げるのよ!」


しかし、逃げる2人の前から追い討ちをかけるようにヤスの『のっぺらぼう』が現れ、二人の逃げ道を塞ぐ。


『ケタケタケタ!』


「ひえぇぇぇ~!」


「こ……腰が抜けたわ……」


「コブちゃああん!」


「血をよ~~こ~~せ~~」


「ケタケタケタケタ!」


クラッ……


旅館での仲居の話が効いたのだろうか……ドラキュラとのっぺらぼうに挟み討ちにあった子豚とひろきは、あまりの恐怖にその場で気を失ってしまった……


「ありゃ……この2人、気を失っちまいましたぜ……」


「しょうがねぇな……その辺に転がしておくか」


冷静に考えれば寺でドラキュラはどう考えてもおかしいと思うのだが、非日常のこの雰囲気に飲まれてしまったのだろうか、子豚達二人はそれにも気づかないくらいの『超ビビり体質』になっていた。


一方、そんな事は少しも知らないシチローとてぃーだはスタート地点で二人の帰りを待っていたのだが……


「遅いな……コブちゃん達……」


「じゃあ、そろそろこっちも出発しましょうか」


「そうだね、そのうち帰って来るだろ」


アニキとヤスが待っているお寺へ、今度はシチローとてぃーだの2人が歩いていった。



          *     *     *




「ホントに幽霊が出そうな雰囲気だな…」


真っ暗な道の周りには荒れた墓地があり、どこから幽霊が出てもおかしくない雰囲気だ。そんな状況に、シチローも背筋がゾクゾクするような感覚をおぼえていた。


しかし、一方のてぃーだはいたって落ち着いていた。


「幽霊なんている訳ないでしょ」


やがて、そんな二人がやって来るのを見たアニキとヤスは、また二人を驚かせようと画策する。


「おい!来たぞ、まずは『人魂』からだ……」



ヒュウゥゥ~


「ティダ~!あれ見て! 人魂だよ!」


シチローが指をさし驚いていると、てぃーだが冷静にそのタネを明かす。


「シチローよく見てよ。あれ、ワイヤーで吊ってあるじゃない」


てぃーだに言われて確かによく見ると、人魂の上に光る縦筋が見える。


「ホントだ……って事は、誰か『脅かし役』がいるって事か?」


「もしかしたら、旅館のサービスなのかもしれないわね……」


本当はアニキとヤスがやっているのだが…ともかく、幽霊が本物では無いとわかれば怖くも何ともないのだ。


「そうと分かればもう怖くないぞ。幽霊でも何でも出てこい~」


そこへ、少し離れた所からアニキのドラキュラが現れた。


「お~ま~え~た~ち~血ィ~をく~れ~!」


「ギョッ!!」


(見ろ……威勢のいい事言っても、やっぱり怖いだろ)


にびっくりだわ!」


「ついでにそのノリで、マイケル・ジャクソンも出せばいいのに」


(クソッ!)


自信満々に出てきたアニキは、バカにされてまた引っ込んでしまった。


『ケタケタケタ』


「今度はのっぺらぼうか……何か迫力がイマイチなんだよな~」


「どうも、リアリティに欠けるのよね……」


「一つ目小僧だ!」


「う~ん……どうもな~」


「唐笠お化けだっ!」


「50点ってところかしら……」


アニキ達は、次々と衣装を変えて出てくるが、シチロー達はまったく怖がらない……


「もうちょっとリアルな幽霊は居ないのかね……」


その時、ふと墓場の隅に視線を移したてぃーだが何かを見つけて言った。


「見て!シチロー、あれなんか結構リアルじゃない?」


そこには、ぼんやりと青白く浮かび上がる女の幽霊が立っていた……


「なんだ、やれば出来るじゃないか。今までで最高の出来だよ」



フッ……



「スゴイ! 消えたわ! どんなトリックなのかしら?」


「後で旅館の人に聞いてみよう」


するとその直後、シチローの背後からで男の怒声が聞こえた。


「おい! お前らいい加減にしろ!」


シチローが振り返るとそこには、どんな格好をしても二人が怖がらないので既に扮装を諦め、そのままの恰好で立っているアニキの姿があった。


「ん? あれは、か?」



「誰が子泣きじじいだ! 誰が~!」


「もしかして、旅館の人?」


「ちがうわっ!俺達が旅館の人間に見えるか!」


「まあ、言われてみればそうだけど、じゃあ~アンタ達こんなところでなにやってんの?」


まるで『不審者』を見るように、怪訝な表情でアニキとヤスを見つめるシチロー。否定などせずに誤魔化していればいいものを、とんだヤブヘビである。


「なんか怪しいなぁ、この二人。もしかしてアンタ達、どこかから逃げてきて見つからないように隠れてるんじゃないの?」


「ギクッ!!」


シチローがアニキ達をからかうつもりで言ったでまかせの言葉が、まさに図星であった。


「なんかシチローが言った事、図星だったみたいよ。もしかしてりして」


「ギクギクッ!!」


シチローに続いて、てぃーだまでもがアニキ達の企みをズバリと言い当てる。まるでこの作品の作者ではないかと思うくらいだ。


「クソッそこまでばれてたんじゃ、お前たちを生かしておくわけにはいかねえな。悪いがお前たちには死んでもらうぜ!」


『死んでもらう』とは穏やかじゃない。そもそも、この寺に隠れていた事は自分から喋ったようなものなのに。


「『死んでもらう』って言うけど、アンタ達二人で何が出来るんだよ。こっちはオイラ達二人の他に、もう二人、仲間がいるんだぞ!」


見たところ、アニキとヤスの二人はそれ程強そうにも見えない。実際にやりあえば、人数が多いこちらの方が有利だとシチローは言うのだが。


「もしかしてその仲間ってのは、かい?」


「あっ! コブちゃんとひろき!」


二人とも、昼間この横溝旅館に来るまでに散々歩いたせいもあり、最初は肝試しで気絶したのだが、今は二人とも寝息を立てて眠っていた。


「なんでこんなところで寝てるんだよ?この肝心な時に!」


「お前の言う仲間ってのは、その二人の事か?……そりゃあ、ずいぶん頼もしい仲間だな。あ~はっはっはっ」


「おのれ~~っ!かくなる上は、ティダ、やっておしまいっ!」


「アンタもたまには戦え~っ!」


「いや、オイラ争い事はあんまり得意じゃなくて……」


「なに都合のいい事ばかり言ってるのよっ! そんな情けない事で、チャリパイのトップが務まると思ってるの!?」


「まあ、それは一応コメディだから……」


「またそんな事言って! そんな事だから、この作品は10んじゃないのよっ!」



そりゃあ、悪かったな。(作者)



目の前のアニキ達を殆ど無視して、大声で言い争いを始めるシチローとてぃーだ。そんな事をしている間に、さっきまで眠っていた子豚とひろきが目を覚まし始めた。


「あれ?シチローとティダじゃないの。そこにいるのはかしら?」


「誰が子泣きじじいだ、誰がっ! もう、アッタマキタ!お前らぶっ殺ス!おいっ、ヤス!持ってこい!」


「へ~~い、ただいま」


そう言ってヤスが持って来たのは、どこで手に入れたのか38口径のリボルバー拳銃だった。













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