第32話 終盤のさしかかり
『えー、それでは担任障害物競走の時間です』
『よっしゃ、いつもはお綺麗で堅物な先生方の醜態を思う存分見ようじゃねーか!』
『……趣味悪』
『おい!』
競技も残り終盤にさしかかり、担任障害物競走に移る。
「
教員たちがスタートラインにつくと、なんとも言い難い空気感で包まれた。
燈花、この学校『燈花学園高等学校』の教師たちは、モデルや俳優なんて目じゃ無いほどの美形集団である。
「まあ、顔採用もあるからだろ」
「顔採用って、あんな厳選されることあるかよ……羨ましいすぎる、うちの学校にもあんな綺麗で可愛い先生同僚に欲しい」
実際顔採用は無い。
皆顔が良すぎるため、他の学校の教員に誤解されているだけなのである。
「俺は下心丸出しのお前がなんで女子高の教員になれたのか不思議で仕方ないわ、友達やめよっかな」
「え……俺の友達お前と檍ちゃん以外いないからやめられたら困るんだけど」
「そんな悲しいこと言うなよ……」
「まあ社会人で友達が二人いるのは上出来じゃないか?」
「そうかぁ? まあ、忙しいからそうか……それにしてもアオキちゃんって誰だ?」
先ほどから流していたが、自分以外に友達がいることにびっくりした男はそう聞いた。
「高校の弓道部の一個下の後輩だった子で、ほら、あそこでするすると網潜り抜けてる……」
「ああ、あの子。ん? お前の一個下ってことは22歳!? あんなん中学生じゃねえか!」
担任障害物競走と聞いていたが、檍の姿を見て、学生も混合で入るのかと勘違いしていた男は、声を張り上げて驚愕する。
あれはどう見ても中学生の快活な女の子。
まさか、まさか自分と同じ年齢なわけないだろ……
そんなことを思いながら、少し冷や汗を流す。
「おま、あの子に手出してないよな……」
「なわけあるか! 単なる友達だわ」
「よかった、お前が犯罪者になるところだった」
「それ俺にも檍ちゃんにも失礼だぞ」
彼女は曲がりなりにも成人し教職に就いたレディである。
「あ、転んだ……」
『おっと、一年二組の檍先生が転倒した!』
『その後ろについていた
『いや〜これぞスポーツマンシップ』
転倒した檍の元に急いで駆け寄って手を掴む起こす葛城。
どちらも容姿が若く、綺麗な顔立ちをしているため人気が高い。
生物担当、彼女、
檍と同期であり、一年五組の担任を受け持っている。
その容姿として特徴に挙げられるのは、片腕と片脚が無いことだ。
昔、あまりにも毒を持つ生物の研究がしたいために自分の腕で実験をして左腕が壊死してしまい、次は脚を……と、今では義手と義足を付けている。
「さっきはありがとうございます」
「ええよ全然」
全員ゴールし終わり、先生たちの有志が見れて満足する観客たち。
『いやー、なんか最後しれっと校長先生が楽しそうに混ざってましたが、意外と速いんですねー』
『巫校長いつも行事に参加できないってぼやいてたからな……』
『よくそんなこと知ってますね』
『よく朝早い時間に来て巫校長と校門の掃除しながら世間話してるからな』
『え、そんなことしてたんですか!?』
『そうそう』
もはや実況解説ではなくラジオのパーソナリティと化した放送だった。
「お疲れ〜」
私が走り終わると優しく声をかけてくる菅原先生。
「菅原先生は、すごい速かったですね……」
一般的に速いと言われてる男性職員より速かった。
「まあ一応体育教師だしね」
「それなら、私も体育の教師ですけど」
「あ……」
◆
体育祭は終盤に移り、一年生選抜リレーの番になった。
俺は選手に選ばれたから、しっかり胸を張れるように全力で頑張ろう。
何事もやるからには全力でというモットーがあるからね。
「じゃ、行ってくるよ有栖」
「頑張ってね。それと翡翠くんも」
「は、はい!」
スタートラインに立つ。
周りを見渡すとなんだか凄い注目されてる気がする。
結構緊張するもんだな……
アンカーとして一番大事なポジションに置かれたのもあるだろうけど、一番はこういうことに慣れてないからだろうか。
でもコンクールとかはそんなしないのになんでだろうな。
深呼吸をして、青いハチマキを硬く結び直す。
よし……
勝つぞ。
『さあ、体育祭も終盤です。花形を飾って綺麗に締めるのは一体誰になるんでしょうか!』
『うお、可愛い子いっぱい……ぐは!?』
『あ、ごめんなさい。つい拳が』
『おま、明確に悪意持ってやっただろうが……』
いつもながら司会の二人がばちばちやっていて、今更だけどもうちょっと適任いなかったのかと思う。
あれ完全に漫才じゃん。
『こほん、お目汚し失礼しました。では、これから一年生選抜リレーを始めます』
「on your mark」
うちのクラスの先鋒は翡翠。
選手たちは地面に指をつけ腰を落とし位置に着く。
体育祭のガヤガヤとした空気は一斉に静まり返り、そこに視線が集中した。
「set」
各々が腰をあげ、頭を落とし……
空砲が鳴り響いた瞬間、選手たちは地面を蹴った。
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