第27話 お狐さん

「有志競技って有栖入ってたよね」


「うん。パン食い競争!」


 次パン食い競争か。

 有栖お弁当めっちゃ食べてたけど入るのかな……


「お腹いっぱじゃない?」


「まだ入るよ〜」


 入るのか……

 

 俺も普通に一般的に見たら結構食べる部類だけど、有栖の方がよく食べるんだよな。


 なのにあの体型っておかしくないか?


 早朝に一緒に走ってるとはいえ、何かがおかしい!


「あ、有栖って今体重どのくらいだっけ……」


「うーんと、たしか31キロだったかな」


「……っ!?」


「私、体重あまり増えないんだ、沢山食べてるのに身長もあまり伸びないし……」


 有栖の身長は149cm、それで31kgってまじ?


 今158cmで44kgだから誇ってるけど、有栖の方がすごかったわ……


「有栖さん、今、全世界の女性を敵に回したわよ……」


「え、なんで!?」


 有栖が彼方に猛抗議。

 さあレフェリーの判断が委ねられます。

 


 あれ、でもよくよく考えたら彼方フェアじゃなくね?


 彼方も相当痩せてる方だし、自分のこと完全に棚に上げてるじゃんか!


 ジトっとした目で彼方を見つめる。


「な、なによ……」


「まあ、体重なんて運動と食事に気をつけてれば増えないだろ。ね、翡翠?」


「え、なんでそこで僕なんですか!?」


「うんうん、翡翠も賛同してくれてる」


「え!?」


 翡翠、君は地雷の解除班の見込みがあるよ。


「言ってることは理解できるけれど、あんまそういうこと言わない方がいいわよ。正論で人を傷つけることもできるんだから」


 そう言う彼方の言葉が一番効くんじゃね……?


 なんかクラスの女子からの視線が厳しくなった気がする。



「くそう、うらやましい!」


「ちゃんと運動してるから対抗できない……!」


「正論は、人を傷つけるんだよ!」


「暴力、今のは言葉の暴力!」



 ああ、荒れてらっしゃる。

 この話題は辞めよう。


 前世でも禁句禁句言われてきたから、言ってこなかったけど、本当に反応するんだなぁ……


 そういうネタかとずっと思ってた。


「今考えてること、言わないでよ?」


 うわ見透かされてらぁ……


 彼方たまに心の声読んでくるから下手なこと考えられないな。



 とりあえず他の話題に変えよう。


「有栖の他にパン食い競争出る人いる?」


「私も出るわよ」


「あとは佐渡先輩とかも」


 彼方と、柊先輩の手綱握ってる黄組団長の人か。


「それと、多分結は面識ないだろうけど、私と同じクラスのりんって子が出るわね」


「へー、どの子?」


「あの狐のお面つけてるサイドテールの女の子」


 なにそのおもしろ生物。


「極度のあがり症らしくて、顔を隠さないと駄目らしいの」


 なるほど……

 それは、気の毒だなぁ。



 凛と呼ばれた子は、どこかきょろきょろとして何か探してる様子。


 何探してるんだろって思ってたらこちらを見て駆け寄ってきた。



「あ、ああ、えと……その、あの、柳瀬さん」


「どうしたの?」


「や、やっぱり、柳瀬さんの隣、おちつき、ます」


 ピタッと彼方の腕を抱きしめて、話し始める凛という女の子。


 懐いてる猫みたい。

 狐だけど。


 いや狐じゃなくて人だ。


「えーと」


 困惑しながらも、彼方の方を見ると満更でもない様子。


「あ、あ、すみません……うあ……っかわいい」


「かわいい?」


 ああなんだ俺のことか。

 可愛いよね。

 分かる。


 自画自賛ここに極まれり。


「ああ、その、えと……うぅ、あ、わっち、さかき りんって、言います……!」


 わ、わっち……?

 一人称変わってるなぁ。

 

 彼方の影に隠れながらも、なんとか自己紹介を終え額を拭う榊さん。


 凄い可愛いのでこれからは親しみを込めて凛ちゃんと呼ぼう。


「自分二葉 結って言います。好きに呼んでね」


「あ、え、あ、ご丁寧に、ありがとう、ございむす、あ……ます」


「どうどう落ち着いて」


 なでりなでり。


「ん……う、あわわ、きゅぅ……」


「わ、ずるい、私も結に撫でて欲しい!」


「よしよーし」


「なにやってんの、早く準備するわよ」


 残念、もっと撫でたかった。


______

____

__

 



 変な子。

 私の周りには変な子が多い。


 圧倒的な天才だけど、自分を低く見積りすぎてる結。


 天然で、ナチュラルに愛嬌を振りまく絶滅危惧種のような有栖さん。


 そして、女の子よりも可愛らしい梔くん。


 最後にクラスメイトの凛。


 特に凛とはクラス内ではべったりで、寮生だから一緒に帰ることはあまりないけれど、私の祖父のカフェに連れていったりとかしている。



 何故そういう関係になったかというと、クラスの輪に溶け込めるように、私が学級委員だったから先生にお願いされて話すようになったのだけれど……


 最近ではどんどん依存されてるような、そんな感覚に陥った。


 あの子には悪気とかは無いんだろうけれどね。



 まあ、交友関係を広げる為に結たちと合わせてみたけど、成功したみたい。



「あわ、あわわ……」


 成功した、わよね……?



「大丈夫だよ、そんな緊張することないから」


「あ、え、あ……」


「あそっか、私有栖 唯っていうんだ。あっちにいる結と読み方が同じだから、有栖ってよんでね」


 圧倒的光属性。


 コミュニュケーション能力が凛が一だとしたら、有栖さんは、千?


「う、ま、まぶしい……!」


 太陽を見て、ではなく有栖さんを見て言ってる凛。


 太陽みたいな人よね……有栖さんって。



『さて、今年の有志はパン食い競争です。有志は得点に影響はありませんが、正々堂々戦い、凌ぎ合い、削り合い、高め合いましょう!』


『おお実況さんが珍しく真面目に実況してる。珍しい!』


『誰が珍しいじゃこのアホ解説!』


『ちょ、なんで聖書!? なんで聖書の角で殴ろうとしてくるの!?』


 相変わらず漫才を繰り広げる実況と解説の人たち。


 よく放送おーけーもらえたわね……


『えーと、夫婦喧嘩を始めたあの二人は気にせず、選手の皆さんは頑張ってください。それでは……スタートです!』




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