第26話 ランチ

 段々と気温が高くなってきて、汗がベタついてくるこの頃。


 風も吹いてくれないから本当に暑い……

 日陰でこれだから、騎馬戦やってる人たちはどんだけ暑いんだろか。


「あの人たちもよくやるよ……」


 騎馬戦も終わり、ボロボロになりながらも退場していく様を見て少しながら感動を覚える。



 いやあ、青春だね(現実逃避)

 

 

 というわけで騎馬戦でも振り返ってみるか。


 男子騎馬戦。

 結果から言うと、青が一位だった。


 執拗に狙われたけどなんとか立て直して、勝ったのは感動的だったよほんと。


 ただまあ、女子騎馬戦はうちが一番点数が上だったから最初から狙われて序盤に負けたけど。



 そんなこんなで、午前の部は青組が優勝候補筆頭である。


 しかし……

 



「さっきのずるいよ……」


 有栖はまゆを寄せて分かりやすく凹んでいた。


 さっき、というのは多分騎馬戦のことかな。


 全力で“頑張れ”って声を張って応援してて癒された。


「まあそれも戦法だし、仕方ないんじゃないかな」


 点数表示されてるから、一位の青を狙うのは当然だと思う


「でも……」


 不服そうな有栖。

 ぷにっとしたほっぺを指で摘みたくなるなこれ……


 手が勝手に伸びて、ほっぺに……

 とみせかけて有栖の頭を無意識に撫でる。


「よしよし」

 

「ふぇ?」


 いやぁ、ムキになってる有栖が可愛すぎて手が頭の上に吸い込まれたなぁ(すっとぼけ)



 有栖の髪、めっちゃさらさらで、きめ細やかさが凄いよこれ……


「ゆ、結?」


 だめだこれ、病みつきになりそう。

 このまま撫で続けたらトリップするかもしれない。


 名残惜しいけど、手を離すかぁ……



「あんたら、平然といちゃいちゃするわね」


 そんな声が聞こえて、振り向くと彼方がジト目でこちらを見ていた。


「あれ、彼方いつのまに」


「さっきから普通にいたわよ」



 全然気が付かなかった。


「全然気が付かなかった」


「心の声漏れてるわよ」


「ソンナコトナイヨ」


______

____

__

 


「とりあえず、午前の部が終わったからお昼にするけど、彼方はこっちで食べる?」


「そうね、お邪魔するわ」


「私、おなかぺこぺこ〜」


 午前の部が終わって、今はお昼時。

 結構お腹すいてくる。


 今日のために頑張って作ったお弁当を荷物から取り出して、芝の上にレジャーシートを敷いてと……


「よし」


 綺麗に敷きおわって、お弁当を包んでいる布を取り外す。


「はいこれ有栖の」


「ありがと!」


 有栖と一緒に作った渾身の特性弁当を開けて中身を確認する。


 崩れてないかなと思ったけど、身長に持ってきたおかげで、お弁当は綺麗なままだった。


 よかった……



 ほっと息をつき、いったん水分補給をする。

 ほんと暑いわ……


 特別な日だから値段なんて気にせず俺と有栖が好きなもの沢山入れてたんだけど、作りすぎちゃったから全部食べ切れるか心配。


 とくにこんなに暑いと、ピチピチのJKの身体でも流石に胃もたれしそう。


 いざとなったら、誰かにお裾分けしにいくか……


「……すごい多いわね」


「いやぁ、作りすぎちゃったんだよね」


 そう言いながら天むすを口に頬張る。

 食べてくれてもいいんだよ?


 なんせ沢山作ったからね。

 

「ん、こきゅ」


 お茶を飲み、次は梅おにぎりを取り出して一口。


 米が甘くていいわぁ……

 



「これ具材なんだろ」


 有栖がお弁当箱から取ったおにぎりを見つめていた。


「たぶん、マヨチキンかな」


 場所的にマヨチキンのはずだけど。



 有栖が大きな一口で手に持っていたおにぎりを頬張る。


 そして少し咀嚼して、飲み込んで……


「あ、ほんとだ」


 どうやら合ってたみたい。

 


 そんな感じでおにぎりの具材、何が入ってるかゲームをしながら楽しんでいると見慣れたシルエットが目の前に現れた。


「美味しそうだね」


「ん、あ……柊先輩こんにちは」


 赤組団長その人、柊 蒼葉先輩がそこにはいた。


 なんかすごい表情がにこにこしてる……

 不気味だ……


「やっほー私の後輩ちゃん」


「自分、柊先輩のじゃないです」


「うそぉ……!?」


 そんなオーバーリアクションしながら、俺の背後にまわる柊先輩。


 何か企んでると思ったら、どさくさに紛れて胸触ってくるし、いつか捕まるんじゃ無いか……?


「おー、なかなか着痩せするタイプかな?」


「……」


 ふにふに。


 なんか他人に触られんの新鮮。

 変な感じ。


 そんなことを思っていたら、凄い剣幕で有栖が俺の背後にいる柊先輩に迫ってきた。


 これに効果音がつくとしたら“ズイっ”みたいな。



「ひ、柊先輩、め!」


 そう言いながら有栖が柊先輩の手を掴んで静止させる。


 今の有栖の駄目って言い方と上目遣いの破壊力やば……!?


 何この可愛い生き物……

 天使かもしれない。

 


「あ、あれ……柊先輩?」


「死んだ……か?」


 人差し指でツンツンしてみるけど一向に動かない。


「彼方、この人どうすんの?」


「放置でいいわよ。どうせ後で復活するから」



 同じ赤組で柊先輩と交流が多い彼方。


 何回もナンパ&セクハラされて、度々彼方から愚痴を聞かされた。


 故に、最高学年の先輩であろうとこの扱いは妥当なのである。



 お弁当から唐揚げと春巻きを口に放り込みながら、柊先輩の奇妙な生態を観察する。


 見れば見るほど美人なのに、なんでこんな残念な人になったんだろ……


「もったいない」


「もったいないわね」


「もったいないねー」


 有栖だけは何がもったいないのかよく分かってなさそう。


 ポカンとした顔してるし、多分俺と彼方が言った言葉をそのままおうむ返ししただけかな。



 まあ何はともあれ、勿体無い人である。




「はむ、んぐ」


 タルタルソースとレモンをかけてアレンジした唐揚げを頬張り、よく噛んで飲み込む。


 さっきは柊先輩のせいでじっくり味わえなかった分、しっかりとこのサクサク感と肉汁を味わうのだ。


 有栖も美味しそうに食べてるし、今回のお弁当の出来栄えは相当良かった。



 一緒に外でお弁当を食べるのもたまには良いかもしれないな。


 揚げ物は少し手間がかかるけど、それでも有栖の幸せそうな顔を見れるならば全然苦じゃない。


「有栖、頬にごはんつぶ付いてるよ」


 人差し指で米粒を取ってからそう言う。


「ん、ありがと」


 少し照れたように、有栖は小さくはにかんだ。


 

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