第17話 先生

「あ、その……えっと、前担任の横野さんが産休で一年間いなくなり……私、あおき 早苗さなえがこの一年二組の新しい担任として務めることになりました。まだ、先生としては未熟者ですが、よ、よろしくお願いします!」


 そわそわと、裾を触りながら緊張した様子でクラスメイトと顔合わせをして、挨拶をするあおき先生。


 黒板に名前を描くが小さすぎてよく見えない。


 青木、じゃなくてあおきなのか……

 翡翠の苗字のくちなしもそうだけど、それと同じくらい珍しい苗字だ。


 


 それにしても

 なんというか、その……


 見た目がとんでもなく若いというか、

 幼女と少女の間にしか見えないというか、


 飛び級したのかと思うほどには、幼女よりの少女で……



「ロリ?」


 そう、誰しもが思っていたことを代弁するかのように、一人の生徒が口にした。


「だ、だれですか!私、こう見えても、22歳です!」


 ほっぺを膨らませながらあおき先生は怒った。


 のだが……

 その様子は、例えるならレッサーパンダの威嚇にしか見えなかった。


「まじかよ……あれで22歳、だと?」


「すごくかわいい」


 うん、22歳には到底見えない。

 この世のバグかな?


「こ、こほん。では、もうすぐ体育祭ですので、皆さんと一緒に頑張れたらなと思います」


 ぴょこぴょことアホ毛が揺れ、胸を張ってそう言った。


 そこにはマナ板しかなかったけれど。


「あ、何か質問はありますか?」


 そう言って、あおき先生は挙手した生徒を指し、


「はーい、あおちゃんは彼氏とかいるんですか〜?」


「あおちゃん……!?」


 あまりにも早いあだ名の付きように困惑した。


「い、いませんよ!」


「じゃあ俺が立候補しちゃおっかな!」


「そ、そんなの、絶対だめです!」


 あわあわと、取り乱しながら怒る小動物あおきせんせい


 失礼間違えた、あおき先生。

 あまりにも、小動物だったので間違えてしまった。


「な、何か失礼なこと考えられた気がする……」


 あれ、もしかして見透かされてる?

 いやーまさか、そんな、ね。

 


「と、とりあえず、皆さんこれからよろしくお願いします。では出席を取りますね。有栖さん」


「はい!」


 檍先生はそう言って出席順に名前を呼んでいく。


 まだ名前も覚えてない中、顔をキョロキョロと動かして、必死に名前と顔を一致させようと頑張る姿に萌えを感じるのは必然だった。

 

「それから、えーと、二葉さん」


「はい」


 名前が呼ばれたので返事をする。


 それから、

 移動教室もあって今日はあまり檍先生とは馴染む機会が無かった……


 わけでもなかった。


 掃除の時間、熱心に掃除する生徒……ではなく檍先生。


 小さいから本当に生徒にしか見えないというか、言っちゃいけないけど、小学生?


 いやいやそんなまさか……

 本当に22歳……なんだよね?


 俺がそんなめちゃくちゃ失礼なことを考えていると、檍先生と目があった。


 そして……


「二葉さんは部活とかやっているんですか?」


 不意にそう聞かれた。


「やってないですよ」


 俺がそう返すと、檍先生は……


「私、夢があって、部活の顧問やってみたくて……だけどどこの部活も空いてなくて、ですから二葉さん、新しい部活立ち上げてみませんか?」


 まさかのオファー

 すっごい目をキラキラと輝かせて顔をずいっと近づけてくる辺り本気度が伺える。


 なんだろう、この断りにくさ……


 俺が沈黙していると、だんだんアホ毛がしょぼーんとなっていく。


「あ、えっと……はい」


「やった……!」


 あれ、この人先生だよな……?

 今んところ成分がほとんど幼女で構成されてるんだけど。




「それにしても、新しい部活と言っても何をやるんですか?」


「それは、まだ、決めて、ないです……」


 あ、またアホ毛が垂れ下がってく。

 檍先生のアホ毛ってなんか別の生物として独立してそう……


「あと、メンバーは四人以上必要ですし」


 いや待てよ?

 有栖も彼方も翡翠も部活には入ってない。


 俺含めればすぐ条件は達成できそう。

 後は活動内容だけど……


 うーん、


「アニメーションとかグラフィックデザイン部とかどうです?」


「えーと……あにめ、ぐらふいっくでざいん?」


 分からなかったか……


「とりあえず人数は集められると思うので、放課後にまた話しましょっか」


「は、はい!」


______

____

__



 私、あおき 早苗さなえが出会った人で、今でも鮮明に記憶に残っている人がいる。

 

 それが弓道部の部活の顧問をしていた林先生という人で、先生としての業務もあるはずなのに、いつも遅くまで私の練習に付き合ってくれて……


 いつの日か、一番尊敬する人はと聞かれたら真っ先に思い浮かぶほどには、慕っていた。


 でも、その林先生は、交通事故で亡くなって……

 

 いつしか私も、立派な指導者になれたらいいなという想いを持ってここまでやってきた。


 先生が生徒を導く。

 可能性の輪を広げる。


 部活の顧問という立ち位置。


 新米の私には厳しいとは思うけれど、やってみたかった。


 あの人の跡を追いかけたかった。


 だから……

 急ぎすぎちゃって……



 

「グラフィックデザイン……あ、ロゴとかパンフレットとか、名刺とか、色々作るみたいだけど、私、全然知らない……」


 どうしよう……


 部活の顧問になりたい一心で、言ってしまったものの、本当に知らない分野で何をすればいいのか全く分からなくなってしまった。



 それに二葉さんはしっかりと三人集めて、やりたいテーマを伝えて承認を貰い、本当に私が顧問になったはいいものの……


 できることがあるだろうか……

 そう不安になってきた。




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