第二章 高校生活
第12話 関心
もうすぐ夏休み間際になり、そんな時に季節外れの編入生が来るらしく、生徒たちは教室にて、どんな人が来るのだろうかと盛り上がっていた。
予鈴が鳴り、生徒は席に座る。
どこか、いつもと違う様子で……
そうして担任の先生と、おそらく編入生であろう女の子が一緒に入ってくるのを、生徒たちは見た。
「今日からこの学校に途中編入することになった有栖 唯さんです」
「有栖 唯です。仲良くしてくれると嬉しいな」
軽快で風鈴のように綺麗で透き通った声が、教室中を駆け巡る。
そして、シーンと静まる教室。
クラスメイトたちは彼女の容姿と、声に見惚れていた。
美少女には間違いないのだが……
もはや、精霊が天使の
だが、このクラスにも一人いるのだ。
背丈は163cmと、高校女子の平均よりかは少し高く、細身でしっかりとくびれのあるガラス人形のよう神がかった容姿と体型をしている。
スポーツ万能、成績優秀。
そしてピアノのコンクールで何度も優勝を報じられた天才。
あまり喋らないが、誰よりも印象深い一人の少女。
二葉 結。
いつもはあまり表情を変えず、ノートにペンを走らせることが多い彼女。
だが今は、編入生の顔を見てとびきり笑顔を浮かべていた。
「なんだこの空間、天国か?」
「俺たちは所詮エキストラよ」
男子生徒がポツリと、何かを悟ったかのように、賢者の如き顔を浮かべる。
「何あの顔面の暴力、私があまりに可哀想すぎるでしょ……」
一方女子生徒は、自分の顔や身体を見比べて、落胆し項垂れる者も現れた。
「では、窓側の一番奥、
「はい」
こつこつと、横を通り過ぎていく有栖。
なんだかとてもいい匂いがするのは気のせいだろうか……と、男女限らず有栖に真横を通られた生徒たちはそう思った。
「この空気を缶詰にして売り捌けば儲かるんじゃね……?」
などと、一部の
「よろしくね!」
「あ、よ、よろしく」
有栖の言葉に、どもりながら視線を合わせることなくそう返す
「あいつ羨ましすぎるだろ……」
「なんであんなやつの隣なんだよ」
それを見ていた、男子は“ありえねー”と嘲笑う。
そうして教室中はざわついていく。
「……静かに、まだ休みの時間じゃないよ」
いつもは周りに関心が薄く、興味が向かない限りほとんど関与することのない結は珍しくも大きく凛とした声で、そう忠告した。
◆◇
「はあ、予想通りこうなるか」
休みの時間になり、
有栖の席の周りには男女問わず沢山のクラスメイトが駆け寄る。
そりゃそうだ。
有栖はとびきり可愛いもん。
それは分かるよ。
俺も最初の頃はめちゃくちゃ詰め寄られて、知らない相手からなんか勝手に付き合ってたことになったりと、凄い苦労した。
俺が美少女すぎるのがいけないのだろうか。
そんなことくだらないことを考えていると……
「それにしても翡翠、お前まだそんなキモい絵描いてんのか?」
そんな声が鮮明に聞こえてきた。
声の方向は、有栖の隣の席の、確か
めちゃくちゃ珍しい苗字だったから印象に残っている。
「ほらみんなも見てみろよ!こいつアニメの女の子の絵描いてるんだぜ?キモいよな」
そいつは、
有栖はそんな状況にどうしていいのか分からず、おずおずとしていた。
俺、基本的には音楽室に住みついてるから、クラスメイトのこと、授業でしか知らなのだけれども……
ふざけてんな。
俺は席を立ってそいつの元に近づき、ノートを奪い取った。
「あ、え?」
「え、二葉さん……?」
周りにいた生徒含め、
「ふ、二葉さんも、気持ち悪いと思うよな?」
先ほど
俺はそちらに視線を向けることなく、周りを気にせずノートを見てみる。
「上手いな……」
「え?」
そんな俺の言葉に、先ほどからキモいと連呼していた生徒と、ビクビクとしていた
上手い。
現代と遜色なく、基礎がしっかりとしたアニメ調のイラスト。
すげえな……
服やアクセサリーのディティールもそうだが、ここまでしっかりと目を引くキャラデザは、久しぶりに見た。
それに正面を向いていると、普通は絵の動きが制限されて硬い印象になるけど、髪の動きや手の動きを使って……
柔らかく、まさに“生きている”印象になってる。
はっきりいってプロと遜色ない。
だから、興味が湧いた。
「自分も絵を描くんだけど、
俺は呼びやすい方の名前で彼にそう聞くと、
「あ、えと……はい」
翡翠は視線を背けて、頷いた。
「は?なんでお前なんかが二葉さんと……!」
そんな俺たちのやり取りを見ていた先ほどの嫌味ったらしい生徒がそう言ってくる。
というかこの耳障りな声、どっかで聞いたことあるな……
そういえば告白してきた中の一人がこんな声だった気がする。
まあ、そんなことどうでもいいか。
俺はそいつのことなんか一切目もくれず翡翠に面と向かってこう言った。
「今日うちにこない?」
関心が向かないものには、とことん向かないのだが……
一度でもその関心が向いてしまえば、足跡をつけたくなるのが俺の
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