第6話 お泊まり

「こういうのが配信なのね、初めて知ったわ」


 そう言う彼方。

 

 なんでも、教育に悪いと親から教わってきたからYouTubeなどのSNSを使ってこなかったらしい。


「それにしてもよくあんな長時間ピアノが弾けるわね……二時間ぶっ通しだったじゃない。しかも一切ミスしなかったのが相変わらず化け物だわ」


 あれから鐘続きで、リストのラ・カンパネラからラフマニノフの鐘、ショパンの前奏曲プレリュードOp28-24という感じで、確実に指を殺しにきてる。


 ほんと、なんであんな鬼畜な視聴者たちになってしまったんだろうか……


 俺がハードル上げ続けたからか。


「演奏本当に凄かったよ!」


 有栖は弾む声でそう言う。



 最近配信してなかったし、ピアノは毎日休憩挟みながらの一時間くらいしかしてないから、流石にきついな……


 汗だくで、水を浴びたみたいに髪が濡れてるし……


 でもまあ、二人が褒めてくれるので疲れが吹き飛んだけどさ。



「ありがと」


 聴いてくれた二人に感謝する。


「ちょっとお風呂入ってくるね……」


 とりあえずゆらゆらと、部屋の外に出ようとして……


「私も一緒に入るわ」


 彼方が、爆弾発言を投下した。


「え、え?」


 俺、人生最大の困惑。


「お泊まりと言ったらこれでしょ?」


 あ、そういう価値観の方でしたか……



 いや、ちょい待て……


 危うく納得しかけたけど、俺前世男なんですよね。


 今は外見超絶美少女だけどさ!


「え、もしかして裸見られるのが恥ずかしいの?見られても減るもんじゃないのに」


 それ普通さ、おじさんの言い分じゃね?


「せっかくだし、三人で入りましょ?」


「!?」


 ダメだ。

 爆弾どころの騒ぎではない。


 こいつ……核を投下しやがった!



「わ、私はあとで入るよ……二人は先に入ってて」


 しかし有栖がそれを颯爽と回避。


「まあ仕方わないわね、それじゃ結、行くわよ」


 くそ、やんわりと断るはずだったのに先手を取られた。


 この場から逃げる方法は、

 無かった……

 

 仕方ない。


 腹を、括るしかない。



 体育の着替えに水泳の授業、林間学校、修学旅行、今までなんとか見ないように立ち回ってきたのに、こんなところで終わってしまうのか……



 とうとう脱衣所に来た。


 もう逃げられないので、俺は借りてきた猫のように大人しくしていた。


「とりあえず、そこのタオル使っていいよ。

着替えは、自分のやつ使う?」


 俺はタオルの場所を指差しながらそう言った。


 幸い身長が殆ど変わらないし、俺のでも充分着れると思う。


 まだ一度も使ってない服もあるし丁度良いと思う。


「ありがと……それと、一つ聞いてもいい?」


 とりあえず脱衣所で色々説明し終えると、彼方がそこはかとない含みを持たせてそう言ってきた。


「いいけどなに?」


「もしかして、下着、今まで着てなかったりしない?」


 なんか尋常じゃない目で見られるんだが……


「いやまあそうだけど」


 俺がそう言うと、絶対に買いなさいと凄い形相で言われた。



 下着のシャツとか、ブラとか分かんねえし、俺Bカップだから正直なところ無くても困らん。


 と、言いたい所だったが、なんか怖いのでやめておく。



 というかなんで彼方は俺が着替えるところマジマジと見てくるんだ……?


 いつも自分の裸をデッサンしたりして羞恥心欠けてるとはいえ、人に見られるのは少し恥ずかしいんだけど……


「よかった、ショーツは履いてるのね……」


 俺がそう言って安堵している彼方。



 家にいる時、普段ノーパンブルマだよって言ったらどうなるんだろ……


 私気になります!

 


 とまあ、冗談は置いておいて……


 本当にどうしよ。


 彼方は俺の理性の葛藤なんて知るはずもなく大胆に脱ぎ始める。


 デッッッ

 こほん、何でもないです。


「それにしても、結って綺麗な身体してるわね……」


 くそ、こっちは見ないようにしてるのに、彼方は余裕で此方を凝視してくる。


 フェアプレイ精神じゃないよこれ!


 審判、ファールを要求する!



 いくら俺が美乳で色白で、華奢で、目が吸い込まれてしまうのも分かるが、これは流石に擁護できないぞ……


「あの、彼方さん?」


 めちゃくちゃ見てくる彼方に思わずさん付けする俺。


「何?」


「人の身体をそんなマジマジ見るもんじゃないよ……」


 言ってやった。

 言ってやったぞ!


「女同士だから別にいいじゃない」


「……」


 俺は、敗北を喫した。


 どうやらレフェリーはフェア精神を兼ね備えていなかったようだ。


 無念……




「とりあえず先シャワーするから、お風呂入ってて」


「え、洗いっこはしないの?」


 さも当然のようにそう言う彼方。

 

「……しない」


 彼方はどこまで俺の理性にKOパンチ喰らわせば気が済むんだ……


 


______

____

__




 普段は結構長い時間お風呂に入るとはいえ、流石に気まずすぎて俺は早々にお風呂場を出た。


「はあ、妙に疲れた」


 お風呂って疲れを癒す場のはずなのに……

 凄い精神的に疲れた。



「よいしょ」

 

 着替えのパジャマを着て、ドライヤーで髪を乾かす。



 あ、そうだ……

 

「彼方、着替えとタオルはすぐそこにあるからね」


「分かったわ」


 まだお風呂の中にいる彼方にそう声をかけて、リビングに戻る。


 あー冷房が効いてて涼しい。

 火照った身体に染み渡るわぁ……


「有栖、出たよー」


 リビングに居るであろう有栖にそう言うが反応はない。

 

 少し探してみると、ソファに、天使ありすがすーすーと寝息を立てて、横になっていた。


 あかん、寝てる姿も可愛すぎる……


 無性に、有栖のほっぺを突っつきたくなるのは何でだろう。


 

 周りを見回す。

 よし、誰もいないことを確認!


 それでは指を少し失礼して……


 ぷにっ


 やわらか!?

 何だこれ、無限に触ってられるぞ!


 ぷにぷに


 あー、俺の身体中にある悪玉菌が浄化されていく……


 そんなわけで、俺は有栖のほっぺに病みつきになっていた所、



「結……なにしてんの?」


 背後から、彼方の声がした。


 俺はおそるおそる後ろを振り向くと、やっぱり、彼方がいた。


「こ、これは……その、あの……」


 な、何か上手い言い訳は……


 唸れ俺の三枚舌!

 

 捲し立てれば大抵の物事は誤魔化せるって辞書にも書いてあったしいけるはず……!

 





 この後めちゃくちゃ言い訳した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る