第4話 同棲
走り終わって家に帰りすぐにシャワーを浴びて歯磨きをする。
爪も切っておいて……
身だしなみは完璧。
「お昼頃に来るはずだから、そろそろかな」
そわそわ。
ピンポーン。
来た。
家のインターホンのチャイムが鳴り、俺は急いで玄関の扉を開ける。
「初めまして、有栖 唯で…………え、結ちゃん?」
そこには、中学の時と雰囲気は全く変わっていないけれど、少し大人っぽくなった有栖の姿があった。
その黒い漆のような髪をポニーテールにして、背は少し伸びたのか俺の目線のところまで頭があって、相変わらず可愛い。
しかも、名前を呼んでくれて……
「……久しぶり」
俺はそう返事を返した。
俺だけじゃなかった。
覚えていたのは、俺だけじゃ、なかった。
「うわぁ!ほんとに久しぶりだね。懐かしいなぁって…………結ちゃん!?なんで、泣いて、、」
視界が曇って、顎に熱い何かが重力に沿って伝う。
「あ……」
泣かないって決めてたのになぁ。
もうずっと、会えないって思ってたから、本当に、
「ごめん、また会えて、嬉しかったから……」
俺がそう言うと、優しく微笑んで、
「……そっか」
落ち着くまで時間をくれる有栖。
本当に優しくて、やっぱり今でも変わらず好きだった。
いつか、この感情を伝えることができればいいけど、それが堪らなく怖いくて、こんな自分が情けなさすぎて、違う涙が出てきそう。
気分が回復してきていつもの調子に戻ってきたから、早速家を案内する。
「ここが空いてる部屋だから好きに使ってね」
「ありがと!」
あの時と変わらないその笑顔が、やっぱり何よりも綺麗で……
自分が好きになった人なんだって嫌でも気付かされる。
ただ……
有栖は同性だし、
この感情の行き場は、どうしたらいいんだろうな。
まあでも今は、有栖と一緒にいられることが何より嬉しい。
願わくば、また、いなくならないで欲しい……
とりあえず、有栖が部屋に荷物を空いている間にお昼ご飯作るか。
何にしようか。
お昼だしパスタとかそこら辺かな?
晩御飯は天ぷらだし、そこら辺が丁度バランスいいと思うしパスタにしよう。
鍋にお湯を入れて、塩を入れ火にかける。
「あれ、オリーブオイルこんな少なくなってたのか……明日スーパーに買い物行かないと」
とりあえず今ある分をフライパンに敷いておいてと……
ニンニクと玉ねぎの皮を剥き、
冷水で洗ってニンニクを輪切りに、玉ねぎは細かく縦に刻む。
ベーコンを刻み、唐辛子の種を取り出して大雑把にカットし、バジルの葉っぱとジェノベーゼソースを用意しておいて……
カチッと、弱火でフライパンに敷いたオリーブオイルを慣らしてニンニクをいれる。
「包丁とまな板は洗っとくか」
こうしておけば後で不用意な洗い物をしなくて済むからね。
ニンニクの良い香りが、オリーブオイルに溶け出して、いい感じに狐色になったから一旦小皿に取り出す。
そこに微塵切りにした玉ねぎを大量に投入して炒めていると、
「わー、いい香り」
いつのまにか有栖が階段から降りてきていたようで、
「私も何か手伝うことないかな?」
そう言う有栖。
「じゃあ、飲み物を準備してほしいな。冷蔵庫にオレンジジュースとか牛乳とかお茶があるから、好きなもの選んでね。コップはそこにあるやつならなんでもいいよ」
「了解ー!」
あー、可愛い……
小動物のような愛らしさがあって、本当に可愛い。
こんな愛くるしい天然記念物を我が家にお迎えできたなんて……俺は幸せ者だぁぁぁ
「とっ、」
鍋のお湯が沸騰してきたから、パスタを二人前入れて、タイマーを八分にセットする。
玉ねぎもしなしなになってきて、色味もついてきたので、ベーコンと唐辛子、香りを付けるためバジルと先ほど取り出したニンニクを投入!
弱火でじっくりかき混ぜて、もうすぐパスタが茹で上がりそうなのでジェノベーゼソースを加えて……
ピピピッ!
八分経ったのでパスタを取り出しフライパンに入れてよくかき混ぜる。
そうして完成したものをお皿に乗せて、お箸を使って綺麗に盛り付けていき、余ったバジルを添えてブラックペッパーを振りかけた。
「よし、上出来。有栖、できたよ」
「凄い、結ちゃん……もしかして前世シェフだったりとか!?」
残念、幸薄いイラストレーターでした。
でもこう褒められて悪いからしないなぁ……
えへへ
そんな明らかに調子に乗る俺。
とりあえず、リビングのテーブルに一緒に運んで席に着く。
「じゃあ、いただきます」
「いただきます!」
食べる所も可愛い……
どうしよう俺の命日は今日かもしれん。
これ以上は持たんぞ……尊死する。
「んー美味しい!」
「よかった……」
最近は、一人でご飯食べることが多かったからなぁ……
なんていうか、こう、グッとくるものがある。
一人より、誰かと食べる方が美味しいや。
「そういえば、有栖は高校どこ行ってるの?」
「高校は……行けてないんだ」
やっちまった。
「あ、その、ごめんね……」
くそ、何か気の利いた言葉はないだろうか……
「うちのお父さんが、その……ううんなんでもないよ!それにしても結ちゃんのスパゲッティ本当に美味しいなぁ」
少し、有栖の顔が曇った気がしたけど、直後に先ほどの明るい笑顔に戻ってそう言った。
それでも、何か隠そうとしているのは、伝わった。
有栖の父というと、俺のお父さんの兄、叔父さんになるけど……
一度も会ったことないんだよな。
うちは放任主義のような家族だったし、自分がやりたいことはやらせて貰えたため、それに集中してたから、親について知らないことが多い。
何の仕事をしているとか、一度も聞かされたことはないし、
自分が親に何かを聞くということがあんまりなかったからなぁ……
この際、お父さんに色々聞いてみるか、
俺はフォークを口に運びながらそんなことを考える。
「ねえ、有栖。相談したいことがあったら、いつでも聞くからさ……ね?」
「……ありがと、結ちゃん」
「それと、呼び捨てでもいいんだよ?」
「わかった……ありがとう、結」
ゆっくりと、少し恥ずかしそうに言う有栖を見て、なんか胸が高鳴り始めてきた。
鎮まれ、心臓の鼓動……
ここで顔を崩したら今までの頼り甲斐のあるお兄さんのイメージが損失してしまう!
あ、今はお姉ちゃんだったか。
冗談はさておき、やることは決まった。
色々と調べてみないと。
______
____
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「あ、お皿洗うよ!」
食器を台所の流し場に運と、有栖がそう言ってきたので、一緒に洗うことにした。
皿洗いってこんな楽しかったっけ?
お皿を拭いて、棚に戻す。
これで、よしっと……
時間もあるし、何か有栖とできることがあればいいんだけど……
「そうだ有栖、また、一緒にピアノ弾かない?」
また会ったら……これがしたいって、一番上に書いてあったやつ。
「うん!」
防音室の中に鎮座し、黒く光るグランドピアノ。
俺が転生して三歳の時に、買ってもらった宝物だ。
いつも念入りに掃除したり、調律師に直してもらったりで、ずっと長く残ってる。
実家から移す時は大変だったなぁ……
そんな思い入れのあるピアノで、有栖と一緒に弾けるなんて、夢みたいでさ……
一人なら充分だけど、二人では少し小さいピアノの椅子に、一緒に座る。
嗚呼この感じ、本当に懐かしい。
「私、パッヘルベルのカノンを弾けるようになったんだ」
ポツリと、有栖がそう言った。
そう言う通り、両手で、ちゃんと弾けている。
その旋律は、曲も雰囲気も全く違うけれど、この前の彼方の演奏に映し出された有栖と同じで……
とても綺麗だった。
俺もその音に馴染ませるように、ゆっくりと、深く呼吸して……
合わせていく。
「懐かしいね……」
うん、懐かしい。
二年。
誰かにとっては経ったの二年かもしれないけれど、俺にとっては前世で生きた月日よりも長く感じた二年。
「私、昔にこっそり彼方ちゃんにピアノを教えてもらっててね、いつか結を驚かせられたらなぁって」
嗚呼、だから……
似ていたんだ。
「凄い、驚いてるよ」
「ほんとぉ?凄い笑顔だけど」
ぷくーと頬を膨らませる有栖。
毎度のことながら本当に可愛いから心臓に悪い。
ずっと俺の中では特別で、やっぱりとことん、有栖のことが好きなんだなって……
いつか俺も、心の底を……
打ち明けられたらいいなあって、思うんだ。
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