第19話 魔改造
それから俺は桜田を連れてようやく本来の目的である買い出しに向かうことにした。
大型スーパーで一週間分の食材やトイレットペーパーなどの日用品を買い込んで高級車に載せていく。
買ってきてと書かれていたコンドームを除く全ての日用品を買い終えた俺たちは車に乗り込んで薄暗くなり始めていた。
そして、助手席の桜田は俺の肩に頭をもたげながら小さく寝息を立てている。
どうやら夕方になって一日の疲れがどっと来たようだ。
どちらかというと俺の方が精神的に色々と疲れているような気もするが、寝るわけにも行かないのでスースーするガムを噛みながら安全運転に努める。
「はぁ……眠っていると素直そうで可愛いんだけどな……」
なんて冬眠中のリスのように縮こまって小さく眠る桜田を見ながらそんなことを思う。
「大好き……」
なんて口にする寝言を聞きながら、俺は少し微笑ましい気持ちになった。
どうやら家族の夢でも見ているようだ。
まあ、まだ高校生だもんな。べたべたと親に甘える年齢ではないものの、親元を離れて生活することは本人が自覚している以上に心細いに違いない。
別に桜田に限ったことではないけれど、心細さを感じる生徒たちに俺たち教師はなにができるだろうか?
もちろん親の代わりなんてできるはずはないけれど、できる限り生徒たちに寄り添ってあげて孤独を与える隙を与えないようにしなければな。
やっぱり生徒たちをよく観察して積極的に声かけだろうか。
なんて考えれば桜田や深山先生の言うように女慣れしていないことを生徒たちに悟られないようにしないとな。
ま、まあ、だからといって彼女たちに手を出すのは持ってのほかだけど……。
なんて色々と教師としてのことを考えている間に、車は山道を進んでいき学校付近までやってきた。
さすがに助手席にこのまま桜田を乗せておくわけにはいかなかったので、彼女を起こして後部座席に隠れてもらうことにする。
体を揺すって彼女に声をかけるとなにやら寝ぼけた様子で目を擦りながら後部座席に移動してまた寝息を立て始める。
スカートが捲れ上がってパンツが丸見えの彼女のスカートを下ろしてやると、行くときに彼女が被っていた毛布をかけて彼女を隠した。
桜田を隠蔽してなんとか敷地内に帰ってくることができた俺は「おい、着いたぞ」と彼女を起こして寮へと帰してやる。
「バレたら俺の人生終わるからくれぐれもこっそりと帰れよ」
と一応忠告しておいたが、彼女は寝ぼけているのかいないのか「は~い……」と生返事をしてとぼとぼと寮の方へと歩いて行った。
まあ
なんて考えながら俺もまた大量の荷物を持ってボロアパートへと戻った……のだが。
「ん?」
いつもと変わらぬ質素な六畳間。ぱっと見は朝出るときと変わらぬ光景な気もするが、部屋に上がった直後、妙な違和感を覚えた。
いや、なにも変わってないはずだよな……。
いつものように六畳間にはベッドと小さなテーブル、そして壁には見覚えのない扉。
ん? 見覚えのない扉?
5秒ほど考えて「いや、なんでっ!?」と叫んでしまった。
いやいやなんで壁にドアがついているのっ!?
どう考えても今朝はなかったよね? ってかうちの六畳間、玄関とユニットバス以外にドアなんてなかったはずだけどっ!?
突然現れたドアの存在に我が目を疑いつつも、荷物を下ろしてドアの方へと歩いて行く。
いや、なんだよこのドア……。
なんとも嫌な予感がするが、この意味不明なドアを無視して生活ができるほど俺の心は強くない。
ということで恐る恐るドアノブへと手を伸ばすと、それを捻ってみる。
そしてゆっくりとドアを引くと俺の視界にありえない光景が広がっていた。
「え? ここ……どこ……」
そこは俺の六畳間を二つくっつけてもまだ足りないほどの広さのだたっぴろいリビングだった。
リビングには巨大テレビと5人は腰掛けられそうな巨大ソファとその横に観葉植物。
そして、リビングの端にはあきらかにシステムキッチンらしきカウンターキッチンが設置されていた。
ピカピカのフローリングに反射したおしゃれなシーリングを眺めながら、俺は目の前の光景が現実だと受け入れることができないでいた。
え? 俺、亜空間にでも飛ばされた?
なんてだだっ広いリビングで呆然としているとリビングに取り付けられた遠くのドアがガチャリと開く。
「あ、龍樹くん、お帰りなさい」
なんて言いながらドアから姿を現した深山先生は笑顔を俺に向けながら手を振っている。
そんな笑顔の彼女は胸元の大きく開いた黒いドレスのようなワンピースを身につけており、こちらに歩いてくる度にスカートのスリットから彼女の健康的な生足が垣間見えていた。
「いや、お帰りなさいじゃないでしょ……」
「どうかしたんですか?」
「どうかしたんですか? じゃないですよ。なんなんですか、この部屋は……」
「え? あ、あぁ……だってここのアパート狭いじゃないですか。だからここに勤めることになったときに開いていた一階の5部屋を借り上げてリフォームしたんです」
「リフォームってここまで形を変えたらとんでもない費用がかかりそうですけど……」
「パパが出してくれました。可愛い娘をおんぼろ六畳間に住まわせるわけにはいかないって」
駐車場の高級外車を見たときから思っていたが、深山先生の実家はかなりの大金持ちのようである。
「あ、でも家賃はしっかり5部屋分払ってますよ?」
「いや、5部屋分って偉そうな言い方ですけど、たった5万円ですからね」
とても光熱費込み5万円で住めるような部屋ではない……。
と、その高級マンション顔負けの光景に呆気にとられていた俺だったが、一番大切なことをまだ聞いていないことを思い出した。
「ってか、なんで俺の部屋にドアが付いているんですかっ!?」
「え? だって、毎回外から先生の部屋に入ると誰かに見られるかもしれないじゃないですか。だから部屋の中から移動できるようにしただけです」
「だけです……じゃなくて……」
これ、退去時に原状回復しろとか言われねえだろうな……。
なんて不安になる俺だが、深山先生の方はピンピンした様子で俺の元へと歩み寄ると俺の首へと手を回す。
ニコニコと俺を見上げる彼女の首にはハートのチャームの付いたチョーカーが巻かれていた。
「先生、おかえりなさい」
と言うと彼女は背伸びをして当たり前のように俺に口づけをしてきた。
「いや、さらっとキスするの止めてくれませんか?」
「でも嫌じゃないですよね?」
「…………」
嫌……ではない。けれども同僚と当たり前のようにキスをするのはいかがなものかと……。
なんて返事に困っていると先生は両手を俺の手に絡めてきて「で? どうでした?」と首を傾げる。
「え? あ、あぁ……一部を除いて頼まれた物は全て買ってきましたよ」
「そうじゃなくて、桜田さんとえっちはした?」
「いや、するわけないでしょ……。ってか、やっぱり先生の仕業だったんですね」
「なんのことですか?」
「いや、その質問をしておいてとぼけるのは無理があるでしょ」
予想通りではあったが、車に桜田を潜り込ませたのは深山先生の仕業だったようだ。
が、彼女は俺の手をぎゅっと握ったままピーピーと下手な口笛を吹いて誤魔化してきた。
「ってか、桜田を車に忍び込ませてなんのつもりだったんですか?」
「なんのつもりって先生を女性慣れさせるために決まってるじゃないですか。私同様に彼女とも女性慣れの訓練をすることになっているんですよね?」
「いや、一方的にそう言われただけでなっているわけじゃないですけど……」
深山先生、あんたともですよ……。
なんて冷めた目で彼女を見つめてみるが、彼女はそんな俺にまたキスをして誤魔化してきた。
なんだろう。最近、彼女のキスに慣れつつある自分が怖い……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます