第5話 提案
教師って色々と難しい……。
そんなことを痛感する初日だった。
聖桜学園の生徒たちは見たところみんな真面目で素直な子たちが多い印象なのだが、それでも大変だと感じるのだから、俺もまだまだ力不足である。
一日でも早く生徒たちと打ち解けて童貞臭いと思われないような頼りがいのある先生にならなきゃ。
なんて一人反省しながら校舎を後にすると、すっかり陽は落ちていた。
グラウンドの照明だけがあたりを照らしている。
学校の周りには民家もなく真っ暗だ。まあ学生寮や教員寮と学校さえ照らしてくれれば何も困らないしな。
校舎を出るとそのまま校舎裏の教員寮へと向かう。左手には煉瓦造りの4階建ての立派な建物が建っている。
こっちは生徒たちの学生寮である。なんでも明治時代に建設された歴史的にも価値のある建物らしい。
そして右手に見えるのはプレハブに毛が生えたようなアパート。
資材置き場? と言いたいところだけれどこっちが教員寮である。
ボロボロで悲しい……。
が、家賃は光熱費込みで一万円だと聞くと超優良物件に見えてくるから不思議である。ということでポッケから某国民的名作RPGに出てきそうな鍵を取り出すと一階の角部屋のドアに差し込む。
我が城である。
玄関にあるスイッチを押すと、6畳間が姿を現した。
部屋には大きな段ボールが3つ置かれており、それを見てまだ引っ越しの片付けが終わっていないことを思い出す。
そういやこの後深山先生が部屋に来るんだった。それまでになんとか片付けておかなければ……。
なんて考えながら部屋の片付けを始める。
と言っても大した荷物があるわけでもないので、片付けを始めて一時間ほどでほとんど終わった。
片付けが終了してシャワーを浴び終え、畳でぬくぬく状態になっているところで誰かがドアをコンコンとノックする。
残念ながらインターホンなどという最先端家電は備え付けられていないので「は~いっ!!」と返事をしてドアへと歩いて行く。
ドアを開けると俺の予想通り深山先生……だったのだが。
「こんばんは~。引っ越しの片付けはもう終わりましたか?」
なんてニコニコ笑顔で尋ねてくる深山先生からは甘い匂いが漂ってくる。
どうやら彼女は風呂上がりのようでうさぎ柄の薄ピンク色のパジャマを身につけた彼女の肌は薄ピンク色に上気しており、わずかに湯気も立っている。
そして、彼女の右手には。
「見て見て~ピザですよ~。良い匂いがしますよね? 冷凍のピザをトースターで焼いて持ってきました。ビールと一緒に食べましょ?」
なんて言いながら上機嫌そうにピザの箱の入ったビニール袋を上げてふりふりさせた。
うっすらと缶ビールが入っているのも見える。
どうやら飲むつもりのようである。
「とりあえず上がってください」
そう言って彼女を招き入れると「細川先生のお部屋はどんなお部屋かなぁ~」なんて言いながら部屋に入ってくる。
別に面白みもなんもない部屋だけどな……。
「引っ越ししたばかりでまだごちゃごちゃしていますが、どうぞおかけください」
ということで座布団を置くとそこに座ってもらう。
「お茶でも淹れますね」
と提案すると「ビールありますよ?」と袋から出した缶ビールを両手で俺に掲げてきた。
どうやら早く飲みたいらしい。
2-Bの生徒のことで引き継ぎをしてもらうだけなんだけどな……なんて思わないでもなかったが、飲む気満々のようなので俺もまた座布団を敷いてそこに腰を下ろす。
先生から缶ビールを受け取るとプルタブを引いた。
ぷしゅっという音ともに泡が飲み口からわずかに漏れ出す。
深山先生もまた缶を開けると「わぁ~」と宝石でも眺めるように溢れる泡をキラキラした瞳で眺めていた。
掴んだ缶を俺の方へと差し出してくるので「「かんぱーい」」と言ってビールをごくごくと喉に流し込む。
うむ……美味い……。
ということで俺はビールとピザを頂きながら、先生から2-Bについて色々と話を聞くこととなった。
引き継ぎなんて言われたので身構えていたが、これといった問題はなさそうである。
2-Bの生徒はどの子も品行方正で真面目な子が多いらしく、さすがはお嬢様学校という感じである。
俺の予想通り素直な子が多そうで良かった。
「ありがとうございました。大変参考になりました」
とお礼を言うと深山先生は「いいえ、どういたしまして」と笑みを浮かべる。
そして、なぜか前開きのパジャマのボタンを上から三番目まで外し始めた。
いや、なんで……。
「み、深山先生?」
「ごめんなさい。私、お酒を飲むと体が火照っちゃうんです……」
なんて言う先生の胸元からは豊満な谷間と、わずかに黒色のブラが顔を覗かせている。
そんな刺激の強すぎる光景に思わず顔を背けると、深山先生はクスッと笑う。
「細川先生って本当に女性に耐性がないんですね」
「…………」
なんて言って立ち上がると座布団を持って俺の隣にやってきた。
ビールを片手になにやら俺を背もたれにするように腰を下ろした。
「深山先生っ!?」
唐突なスキンシップに困惑する俺だが、先生の方は気にしていない様子で顔だけこちらに向けてニコニコしている。
「深山先生、酔ってませんか?」
「そんなことないですよ。ほら、まだビールも半分弱残ってますし」
「まあ、そうですけど……」
風呂上がりのせいなのか、お酒のせいなのか先生の顔は相変わらず薄ピンク色に上気している。
そして、わずかに視線を落とすと同じく薄ピンク色に上気した谷間が蛍光灯の光をわずかに反射させてつやつやしているのが見えた。
「なにか面白いものでも見えますか?」
「え? あ、いえ……なにも……」
どぎまぎする俺にまた先生はクスクス笑う。
「先生はやっぱりもっと女性に慣れた方がいいみたいですね」
「慣れるもなにもこんなに接近されたら誰だってドキッとします」
それに深山先生はかなりの美人さんである。胸も大きいし短パンのパジャマから伸びる太腿も少々俺には刺激が強すぎた。
「先生、このままだといつまで経っても女性に慣れるなんて無理ですよ?」
「そ、そういうものなのでしょうか?」
「だって学園には可愛い女の子がいっぱいいるんですよ? そんな子たちに誘惑されて先生は平常心でいられますか?」
「いやいや、さすがに誘惑なんてされないでしょ……」
「はぁ……先生は甘いですね。ここは世間から隔絶された閉鎖空間です。そんなところに新卒の男の先生が入ってきたらみんな目の色を変えるに決まってるじゃないですか。もしもそんなときにムラムラしちゃったらどうするつもりなんですか?」
「む、ムラムラって……そんな気持ちにならないですよ。それにいくら新卒でも俺みたいな地味な男に靡くようなことはないでしょう」
「それも甘いです。それに先生は自分で考えているほど悪い男じゃないと思いますよ?」
「そ、そうでしょうか……」
少なくとも俺は自分を男としてそこまで評価していない。
が、俺レベルでも深山先生の言うように誘惑をされるのであれば、それはなかなかに困った事態である。
敵意をむき出しにされるぶんには問題ないが、好意を向けられてその気持ちをかわすのはなかなかに大変かも知れない。
深山先生からの警告に困惑していると、彼女は右手を俺の頬に伸ばして俺の顔を自分の方へと向けた。
「先生、女性慣れができるいい方法があります」
「いい方法ですか?」
「はい、同僚として私が必ず先生を女性慣れさせてみせます」
そう言って彼女はにっこりと微笑みかけてきた。
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