物語収集士 一矢見獄
K0壱
目隠しの話
これは僕のある夏の出来事。
僕が住んでいたところのある地区には昼間外に出る時はその地区に住む長男は目隠しして表に出ないといけなかった。
その地区を出たら目隠しを外してよかったのに、この地区に長男は10歳
まで目隠しをして表に出ないといけなかった。
なぜ目隠しをしないといけないという理由もよくわからなかった。
ただ昔からこの地区に住む長男は10歳まで目隠しをして過ごす。
目隠しを外して外を見るなんてもってのほか。大人たちにキツく怒られる。
時には今の時代なら折檻というくらいのきついお仕置きを食らうのだ。
さて。子供の世界は大人が絶対だ。
いいも悪いも含めて大人に縋って生きるしかない。
僕も家族という大人に縋って生きるしかない。
たとえどんな疑問を抱いても縋って生きるしかない。
その夏の日。いつにもなく蒸している日だった。
僕たち家族は夏の日は昼間は表に出ないように暮らしていた。
だが、その日は急な用事があって、否応なく昼間に表に出ないといけなかったのだ。
僕は父が運転する車で出かけることになった。
母と姉で僕を手を引いて、表に出た瞬間。一気に蒸せる気温で目に汗がたまる。
「暑いわよね・・。ゆうちゃん。でもダメよ。目隠しを外したらダメよ。」
「わかってるよ。ママ。でも目に汗が溜まって気持ち悪いよ。」
「そう・・そうよね。ごめんねゆうちゃん。気持ち悪いけど我慢してね。」
「ねえ・・。ママ。パパ。なんで長男だけ目隠しをしないといけないの?
ゆうちゃん。可哀想・・。」
「そうよね・・。でもね昔からずーっと言われていてることなの。
パパもママも詳しいことはわからないわ。ただ長男は10歳まで目隠しをして過ごす。その目隠しを外してしまったら、その外した子はとても酷い目に遭う。
それだけしか聞いてないの。パパもそうよね?」
「ああ・・。そうだな。」
姉は父と母の話を聞いてふーん。そうなんだと言ってつまらなさそうに外を見た。
「なんで私の目からこんなに綺麗な景色が広がっているのに、ゆうちゃんは見れないんだろう?」
「本当にね。ママにも綺麗な景色が見えるわ。」
「ああ・・。パパもだ。でも、パパは小さい頃この景色が見られなかったからなぁ。
小さい時我慢したからもっと景色が綺麗だと思うんだ。」
「それもそうね・・。だからゆうちゃんもう少しだけ我慢してね。後少しで目隠し外してもいいからね。」
僕は早く外したくて仕方なかった。外さなかったけど。
だがそんな気持ちが通じたのか、はたまた運命の悪戯か。
車が急ブレーキかかって止まった瞬間。目隠しが取れてしまったのだ。
「「「ゆうちゃん!!」」」
車が止まった瞬間。目隠しを外れた僕を見てすかさず姉が僕に覆い被さって外を見ないようにする。
だが、一瞬遅かった。僕は外を見てしまったのだ。
そこには・・・・。
僕は恐怖に震えてあああああああああああああっっっって叫んで、急いで目を取り出さないといけないという義務感が襲われてきた。僕はそのまま自分の眼球を抉り出そうとする。
「ゆうちゃん!ダメよ!ダメダメダメダメ!!!」
姉は覆い被さりながらも必死に僕が眼球を抉り出そうとするのを止める。
僕は早く眼球を抉り出したくてたまらない。
その状況を見て母親も急いで後ろの席に移動して僕の体を押さえる。
「あなた!!早く車を出して!!」
「あ・・ああ。」
父親は急いで車を出して地区を出た。
その地区に出るまでたった10メートルくらいだった。
地区を出たら目を抉り出そうとする感覚がなくなった。
そして、僕たち家族はその夏の日にすぐにその地区から逃れるように引っ越した。
「・・・。なるほど。あなたはそしてその夏の日以来その地区へ戻っていないんですか?」
「ええ・・。ですが戻っていないのですが、あの日以来僕が見た景色が脳裏に焼き付いて離れないんです。」
「一体あなたは何を見たんですか??」
「僕が見たのは・・・。」
私の仕事は人の話を聞くのが仕事だ。
というと、カウンセラーか何かと思うだろう。
言っとくが私はカウンセラーではない。
物語収集士というべきか、ある理由があって物語を収集している。
今日ある地区に住んでいた青年の話を聞いたのもそのある理由からだった。
「どうだった?あの青年は。」
「うん。面白かったよ。まさかあの青年が見たのが・・。」
私はパートナーのタケルに青年が見た景色の話をした。
「そっか・・。だが君が探しているものとは違ったんだね。」
「うん。違っていた。でもまだ諦めてはいないさ。だが共通点はある。
それは青年が住んでいた地区だ。」
「そうなのか!!それは一つ前身だな。」
「ああ・・。」
私はタケルの首に絡んでキスをする。
僕は今日ある人に話を聞いてもらった。
聞いてもらったらスッキリするかと思ったからだ。
カウンセラーではないのだから、スッキリしないのは当たり前だ
僕は誰にでもいいからあの景色を共有したかった。
でも、誰にでも話せない。
僕は話す人を吟味した。そしてネットで探した『物語収集士 一矢見 獄』というホームページを見つけた。
ホームページの内容を確認して、藁にもすがる勢いでその一矢見 獄の事務所に向かったのだ。そして話した。
ずっとずっとあの恐怖を抱えたまま生きないといけないのだろうか?
そんなの絶望だ。
僕はそんなのは嫌だ。
そうだ一つこれを見ている人に言っておこう。
僕が見た景色は『地獄』だった。文字通りの『地獄』の景色だった。
物語収集士 一矢見獄 K0壱 @honobonotoao
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