第24話 ボクは純粋無垢な女の子だよ?

「まあ、最初は私が見初めたんだがな」


 僕たちの話題の中心は冬花さんだというのに、なぜだか泰輝さんは馴れ初めを語り始めた。気になるっちゃ気になるけど、誰かが質問した訳でもないのに……。これが惚気けたいってやつだろうか。


「自分のことなど顧みずに人に尽くす姿やら、おしとやかで自分の欲を全く表に出さないところなんかだな」


「「あ、彩芽が……?」」


 泰輝さんが語った彩芽の特徴があまりにも当てはまらなさすぎる。それは僕だけでなく、双子も感じたらしく彩芽を見ながら首を傾げた。当てはまらないというか、真逆じゃないか?


「それって本当にここにいる春峰 彩芽のことですか?」


「「ちょっと失礼……」」


「私の目が見紛うわけがない」


 僕は首を傾げながら泰輝さんに問いかけた。すると、双子が僕を止めるように口を挟んだ。すると、泰輝さんはまたメガネを押し上げながら自信たっぷりに断言する。


「誰にでも分け隔てなく接する清らかな心、心の隅々まで癒してくれるその笑顔。そうさ、僕が大好きなラブコメ漫画――」


 泰輝さんは相変わらず彩芽の良さについて語っている。やっぱりその内容には同意しかねるんだよな……。ん?ていうか、最後なんて言った……?


「俺の幼なじみがこんなに可愛いはずがないのヒロイン、岡崎 菜月にそっくりの君」


 ビシッと彩芽を指さしながら泰輝さんは言った。なるほど、これがオタクというものか。なんとなくこの部の人達よりも僕に近い人種のような気がした。


「ははーん、ボクを2次元キャラに重ね合わせたんだね。謎の発言もこれで一件落着だ〜」


「彩芽。ということはこの方はあなたの彼氏ではないのですか?」


「ん?ボクは清純無垢な女の子だよ?」


 彩芽が納得したようにぽん、と手を叩く。その言動に冬花さんが疑問を持ったのか首を傾げた。うん、そういうのはもっと早く否定して説明しようか?


「私が調べたところによると、彩芽は頭脳派なようだな」


「うん♡彩ちゃんはとっても頭がいいよ♪」


「うむ、やはり私の見立て通りということか……」


 泰輝さんがメガネのレンズを光らせながら調べてきたらしい基本情報を披露した。すると、秋元先輩がうんうんと頷きながらそれを肯定する。それを聞いた泰輝さんは満足気にメガネをクイッと持ち上げた。


「私は共に協力して2人で何かを作り上げるのに憧れていてね……」


「解決部は巻き込まないでちょうだいね?これは天邪鬼でもなんでもなく本音よ!?」


「あー、そうだな。私は決めた」


 泰輝さんは僕たちを置いてけぼりにして、滔々と語る。夏織は珍しく、思っていることと反対のことを言ういつものツンデレムーブではなく本音らしかった。しかし、その声は一切泰輝さんに届いていない。


「私も解決部を手伝ってやろう」


 うん、ほらね。全く夏織の言っていることが伝わっていない。伝わっていないのか、伝わっているのに分からないふりをしているのか。


「あ、彩芽……?」


「彼だって上手く取り込めばお客さんになってくれるかもしれないからね〜。ボクはここで逃がすのは勿体ないと思うなぁ?」


 冬花さんが様子を窺うように彩芽の顔を見た。すると、彩芽はふんふんと頷きながら恐ろしいことを言う。それって、このままこの人を好き勝手させるということだろうか。


「それはそうですね……」


 冬花さん、絆されるの早くないですか?なんかこの人の相手をするのも面倒くさそうだしもうちょっと粘ってくれても……。まあでも相手をするのは大方彩芽だろうから僕には関係ないかもしれない。


「ということで、ご案内は智季くんにお任せします」


 と、心の中で若干安心した僕に冬花さんが言った。へ……?一体何を言っているんだ??


「大丈夫です、智季くん。この間もとても上手く立ち回れていましたし、今回も何も心配することはありませんよ」


 優しく言われたところであ、そうですか、じゃあ頑張ります。とは、言えない。如何せん、この人の相手をするのは面倒くさそうだというイメージは美少女も無関心男子も共通のものだったらしい。


「彩芽……?」


「智季センパイも解決部の一員なんだから頑張ってよ。なんのための男の娘スタイルなの?」


 僕は最後の望みとして、彩芽に視線を送る。すると、彩芽は肩を竦めながら当然のことのように聞いてきた。いや、解決部部員も男の娘スタイルも自分がやりたくてやってる訳じゃないし!


 ▼▽


「五十嵐くん、時間を使わせて済まないな」


 図書室。僕はなぜだか家のベッドの上でも、部室でもなく図書室に来ていた。隣には、メガネをクイッと押し上げるのが癖な泰輝さんがいる。


「どうしても、課題に経営学の本が欲しくてな」


「その気持ちはよく分かります。教科書だけで分からない時なんかは僕もここの本にお世話になってますよ」


 メガネを持ち上げながら本を探す泰輝さん。僕はそんな彼の言っていた条件に当てはまりそうな本たちを彼に渡す。こうして同じ時間を部室でもない場所で過ごしていると、やっぱり落ち着くようなそんな感覚になった。




 


 


 

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