第23話 添い寝してあげるから
「おい、部活中にゲームとは……」
「べ、別にハマってるわけじゃないわよ!?」
「智季、あんまり怒らないで?大丈夫、今日はみんなが帰ったら夏澄が添い寝してあげるから」
「寝れるのは素晴らしいが、添い寝は――」
明らかに起動されているゲーム機に僕は目を細めた。すると、夏織が焦ったように言い訳する。その焦り方で、肯定しているようなものなんだけどな。
「添い寝も、いいかもな……」
「トモキ、意外と添い寝とかされたい派なのか!?」
「いや、そういう訳では……」
夏澄の提案を否定しようとして、思い直した。ぼそっと呟いた言葉に男子生徒たちが反応する。うん、別に添い寝自体に魅力を感じている訳では無い。
「最近、抱き枕を買ったのですが寝つきがいいので添い寝でも同じ効果があるかなぁと……」
僕は家での快適な睡眠ライフを思い浮かべながら言った。すると、男子たちが何故か静まり返る。あれ、何か変なこと言っただろうか。
「私が、是非とも抱き枕の代わりは私が務めさせていただきたいです」
冬花さんがずいっと僕に顔を近づけながら言ってくる。ここで何故その役割を申し出る……!?智季は部室の沈黙の理由がその場にいる誰もが自分が抱き枕の代わりになりたいと思ったからであることも、男子生徒たちがでも美少女達が抱き合って眠ってる姿も見たいと思ったことも知らないのであった。
「あら、見ない顔ね?別に入ってきてもいいわよっ!」
「夏織、入るのを躊躇われているのですからもっと入りやすい雰囲気を作らなくては」
夏織がドアの外から部室内を覗く人影に気づいたらしく中に招き入れる。すると、冬花さんがその対応に少し不満があったようだ。部長直々に迎えに行くらしい。
「どうぞ、お気軽に中にお入りくださいませ」
冬花さんが綺麗な礼をしながら、男子を招こうとする。普段ならその対応は男子の心臓を射止めるだろう。そして、必ずと言っていいほどこの部のリピーターになるのだ。
「解決部にようこそ――」
「悪いが君に興味はないんでね」
冬花さんの決めゼリフはなぜだか今回は不発に終わった。冷たい拒絶の言葉で、遮られたからだ。正直、冬花さんにそんな対応をする男子生徒を初めて見た。
「ふむ、噂では聞いていたが本当に君が1番人気なのかい?」
その男子は静かに部室に足を踏み入れたかと思えば品定めをするように冬花さんにゆっくりと視線を向けた。そして、カチャリとメガネを押し上げる。彼が言ったことは紛れもない事実だった。
「私にはまるで良さが分からないね。女子というのはコロコロと表情を変えて、時折照れたように頬をほんのり赤く染めるものではないのか?」
男子がさも当然のことを話しているかのように自信に満ちた表情で語り始めた。その知識はその知識でだいぶ偏っている気がするんだが……?冬花さんの属性であるクーデレには少なくともそんな特徴はない。
「無邪気な笑顔で私たちを癒すべきなのに、君からは全くそれを感じない。エースなはずがないんだ。まるで男子が求める女子像というものをクリアしていない」
男子はそんな言葉で冬花さんを追い詰めていく。急に入ってきてなんなのだろうか。そして、彼はトドメを刺すがごとく口を開いた。
「私にとっては需要はないな」
冬花さんはいつもの無表情ながら、いつもよりも表情がない気がした。そして、部室の端っこにそそくさと向かったかと思えば紅茶をカップに注ぎ始めた。どうやら、僕たちに背中を向けて拗ねているらしい。
「「あらら、冬花拗ねさした」」
冬花さんの様子を見て、双子が肩をすくめる。はて、何やら弾丸トークだったけれど彼は一体何者……?まさか、言うだけ言って何でもないなんていうオチはないだろう。
「あれ、えーと……?」
彼の顔を見て、彩芽が首を傾げる。その疑問げな顔は来たことのない人がいるからだろうか。それとも知り合いだったりするのだろうか。
「彩芽さん……!」
男子の目の色が変わった。メガネの奥の目が光ったようなそんな気がする。そして、とても嬉しそうにしながら彩芽の名前を呼ぶ。
「会いに来たよ。私が焦がれさせた君にね」
男子は彩芽に近づくとその顎をクイッとあげる。真面目そうな高身長男子が、低身長気味の黒髪美少女を顎クイ……。うん、少女漫画にありそうだけどね?
▼▽
「「彩芽の……彼氏……」」
双子の声が部室に響く。それでも、その声はその場にいた全員の声を代弁したように思う。誰もが、その瞬間驚いていた。
「そうだ、大阪 泰輝という。彩芽の1個上の高校一年生だ」
突然の新事実に呆然としている僕たちに彼は自己紹介を続ける。そして、そこは彩芽の一個上ではなく僕や冬花さんや双子と同い年と言えばいいんじゃないんだろうか。って、そんなことどうでもいいや。
「まだ、拗ねてるわね。一応1番人気としてのプライド傷つけちゃったし」
「うーん、ボクには難しいっていうかめんどいって言うか?」
まだ部室の隅で、こちらに背中を向けている冬花さんを見て夏織がため息を吐く。すると、彩芽がうなりながら言った。そこはせめて、本音を隠してやれよ……。
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