第18話 カードゲームな催し

「ていうか、五十嵐の接客練習は良かったのかしら?」


「僕はずっと言ってたのに誰も相手にしなかっただろ」


「大丈夫、今度は夏澄が2人っきりで教えてあげるね?」


 夏織が今思い出したように言った。僕はずっと訴えていたつもりなので、少し拗ね気味に答える。すると、夏澄が僕の腕に自分の腕を絡めながら言った。


「「薄田先輩も私たちくらい積極的になれたらいいのにね」」


 いや、それはあまりにも積極的過ぎるのではないだろうか。夏澄に至っては恐怖を感じる時だってあるし。なんでも、程々がいいのだ。


 ▼▽


「本日も解決部にお越しいただきありがとうございます」


 冬花さんの声が響く。その凛とした声はただ挨拶をしているだけでも、人を惹きつける。僕も部員ながらその1人だったりする。


「我々解決部はこれからも皆様のご期待に添えますよう尽力して参ります。どうぞ本日もお楽しみくださいませ」


 所作の一つ一つが洗練されている。彼女が礼をしただけでさらさらと垂れる銀髪や目を引くボディラインに魅了される。彼女はなにか、魔力でも持っているんじゃないだろうか。


「本日も特別仕様ですよ?」


 そう言って小首をかしげる彼女は今日はバニーガールだった。おい、学校の部活でそんな格好していいわけ?メイドより何倍も露出激しいんですけど??


「「うさぎな私たちに勝てる?」」


 双子がトランプやらウノやらを取り出して、テーブルに置く。うん、カードゲームどころじゃないんじゃなかろうか。双子はそこまで胸が大きくないけれど、バニーガール姿で見事な美脚が顕になっていた。


「「ただのカードゲーム大会だと思ったら大間違い。この大会な優勝者には特別なご褒美が待ってる」」


 双子が周りに集まっている男子たちに人差し指を振って見せる。特別なご褒美……?まあ、僕は何も話されてないし無関係なことなんだろう。


「「優勝したら冬花からなにかあるかもね?」」


 双子が意味深な雰囲気で言うと、部室の雰囲気が高まった。冬花さんの名前が出たことで俄然やる気が出た、ということだろうか。僕はただ見ているだけでいようと端に立つことにした。


「智季くんはお混ざりにならないのですか?」


「はぁ、あんまり人数が多すぎても決着つきづらいと思うし。見てる方が案外楽しかったりするので」


「智く〜ん?ノリの悪い女の子はモテないぞ♡」


 冬花さんが端に立っている僕に気づいて声をかけてきた。僕はスポーツにしろ、なにかゲームにしろ観戦の方が好きなのでそのままを伝えた。すると、秋元先輩がぷくっと頬を膨らませて謎の理論を展開する。


「いや、女の子じゃないですし」


「こんなに男の娘姿も板に付いてきたというのにまだお認めになっていないのですか?」


「「潔ぎの悪い女はモテないよ」」


「いや、だから女じゃないんだって」


 僕は解決部の活動上、この格好を受け入れているけれど心まで変えようとは思わない。女、女と格好をしているだけで男だと言うのに。だから、普通にみんなの格好にチラチラと視線を奪われているというのに。


「男性であることにこだわりを持ち続ける智季くん。それはつまり、私を女として見てくださる日も近いということでしょうか」


「えっと、それは無いかもです」


 冬花さんが輝く目で見てくる。僕はそれを丁寧に否定しておいた。そりゃ、魅力的だとは思うけれど僕が特定の人物に必要以上の興味を引かれることはないと思う。


「せっかくの催しも、五十嵐は不参加なのね」


「今日はラフに楽しむのがコンセプトだから、ソファにいいクッション置いてあるよ?それでうたた寝するくらいなら、バレないんじゃないかなぁってボクの見解〜」


「いいクッション……」


 夏織が呆れたようにため息を吐いた。そんな僕に魅力的な耳打ちをしてきたのは彩芽だった。僕は思わず復唱するくらいにその響きに心を奪われていた。


「ま、まあ、ソファに座るくらいなら……?」


 僕はきっと彩芽の狙い通りソファへと足を進めた。そんな僕を見て、冬花さんや双子たちが着いてくる。彩芽は思惑通りとでも言いたげにくすっと笑った。


「もちろん、智季くんは私と同じテーブルで参加なさるのですよね」


「あら、私たちと一緒じゃないのかしら?私が、一緒にやりたいわけじゃないけどねっ」


「違うよね、私と紐で手首結びながら2人でひとつになってやるんだもんね」


「え〜?紅音と一緒にやりたいよね!ね、智くん♪」


「なんか面白そうだから、ボクのとこ来てみる?」


 冬花さんが僕の右手を引っ張ったかと思えば、夏織が僕の左腕を引いた。すると、夏澄が制服の裾を掴み進行方向で跳ねるように歩く秋元先輩にも勧誘される。なんか、面白がってる彩芽にまで誘われたし。


「あ、阿部先輩!」


「あー、トモキ。俺とやってくれるの?」


「こちらこそ、お相手していただけると助かります……」


 あの中から1人を選ぶという修羅場展開を迎えそうだった僕は阿部先輩を発見した。そこに駆け寄ると、阿部先輩は快く席を空けてくれた。僕は、その向かいに座り阿部先輩とゲームを始めることにした。


 

 

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