第14話 チャラ男な客

「やっぱりみんななんか嬉しそうっすね」


「そだねー、やっぱり王道とはいえメイドはみんな好きってことだよね〜」


 僕は部室内を観察しながらそう独りごちた。それに答える楽しそうな声。声の主は余裕そうにひょうひょうと笑いながらみんなの様子を見ていた。


「冬花センパイに五十嵐センパイもきっと好きだよ♪って吹き込んだボクの作戦勝ちってやつだね〜」


 彼女の名前は春峰 彩芽。中等部3年で、唯一高等部の生徒ではない解決部員だ。そして、最年少ながら1番この部の頭脳役な気もする。


「紅音ちゃん、もう犯罪級の可愛さだよ……!」


「えへへ、そうかな///そんなこと言われちゃうと照れちゃうな♡」


 男子生徒の叫びのような声が聞こえて視線をそちらに向ける。そこにははにかんだような表情が可愛らしい女子が1人立っていた。衣装はもちろんメイドで、頭には猫耳もついている。


「やーよーいー!」


 猫耳ツインテール少女がクール女子に向かって走っていく。クール女子も意外にノリノリでメイド服を着ているのだから、よく分からない……。まあ、形はクラシックメイドっぽいけれど。


「えいっ!」


 猫耳ツインテール少女が、クール少女の頭に何かをつけた。くるっとこちらを振り返ったクール少女の頭にはツインテール少女と同じく猫耳がついている。なんだかギャップで余計に可愛らしく見えるな……。


 彼女たちは、秋元 紅音と星野 夜宵。この部の最年長で高二である。猫耳ツインテール姿からは、ちっともそれを感じないけれど。


「トーモーキっ!」


 部内を見回していると、僕の名前を呼ぶ声がする。僕はビクッとして振り返った。声の主はにこっと笑って僕とお茶を飲む男子生徒だ。


「トモキはメイド衣装着ないのか?」


「ま、まあ僕はまだこの部の見習いみたいなもんですし。制服で十分です」


「ちょっと残念だなぁ。トモキのメイド服も絶対可愛いのに」


 首を傾げて純粋な目で聞いてきた男子生徒に苦笑いを返す。しっかりと僕の分もメイド服は用意されていたのだけれど、まだ受け入れきれなかった。男だという気持ちが先行しているのだろうか。


「にしてもいいよな、こんな美少女たちが自分のメイドなんて……」


「そしたらうんと大切にして、めいっぱい可愛がるのになぁ……」


「なるほど」


 男子生徒たちが悩ましげな声を出す。その脳内では妄想が繰り広げられているのだろうが、幸せそうな顔をしているので放っておく。それに、彼らが本当にこの部のメンバーを大切にしているのがわかった。


「皆さんの彼女になる方は幸せな方ですね」


 そこまで関わりのない人のことをそこまで考えられるのだから恋人なんかになったら大切にしてもらえるだろう。心の底から思って言うと、男子たちの視線が僕に集まった。みんな言葉を失っているというか、なんというか……。


 (男だって分かってるのにめっちゃ可愛い……)


 この時、僕たちを見つめていた男子たちの心の声なんて聞こえるはずもなく。僕は何か変なことを言ってしまったのでは無いかと考える羽目になった。まあ、答えなんて出なかったのだけれども。


「あっはは、みんな楽しそーだね?でもそろそろ俺のツーショットの時間だと思うんだけど〜」


「あ、そうですね。確か、4時からツーショットの予約が入ってたと思います」


 僕は声の方に目を向けた。軽く響く声に振り向くと、そこには茶髪の毛先を遊ばせた男子が1人立っていた。僕の方を見て、にこっと人懐こい笑みを浮かべる。


「2年の阿部 康太」


 予約表を見るのに手こずっている僕にその人は自分の名前を教えてくれた。慣れていない僕のことを微笑ましいような顔で見つめている。僕が恥ずかしくなってお礼を言おうと顔を上げた、その時。


「興味本位で予約入れてみたけど、ほんと女子みたいに可愛いね。気に入った、今月は君に決まりだ」


 僕の顎をくいっと持ち上げてその人は言った。さながら少女漫画のようなシチュエーション。それでも僕はキュンとしたりしない。だって男子だから。


▼▽


「何故でしょうか……」


 冬花さんが惚けた顔で呟いた。その問いに答える人は誰もいない。僕だって何を言っているのか分からないから相手をすることも不可能だ。


「ちょっと、冬花。あなたが新企画考えるって言うから集まってあげたのよ?」


「とうとう男子にも妬くようになっちゃったの?夏澄と一緒だね」


「冬花ちゃーん、ボクのところに戻っておいで〜??」


 双子やらボクっ娘やらがそれぞれ声をかけるが、あまり効果はないようだ。今は部の新企画会議中で、部員全員が集まっていた。それなのに、冬花さんと来たら上の空なのだ。


「男子に妬く……?」


「ほら、阿部先輩が五十嵐を気に入ったみたいだったじゃない?」


 僕は意味のわからなかった文言に首を傾げた。それに夏織が答えてくれる。なるほど、阿部先輩を取られた気がして嫌だったのか。


「月1で相手を変えるっていうチャラ男でおなじみなんだよ〜。ま、常連だから大事にするに越したことないけどね〜」


「ちなみにぃ〜、先月のお相手が雪ちゃんだったの♡」


  

 

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