キューピット編

第13話 メイドな彼女

4月中旬。高校生活にも慣れ始めた今日この頃。僕は寝ぼけまなこを擦りながら廊下を歩いていた。


 今日はなかなか授業に集中出来ずに、午後の授業をサボってしまった。仮病を使って保健室で寝ていたのだ。やっぱり清潔にされたベッドで静かに眠るのは至福の時だ。


 そして、僕は資料準備室に向かっていた。ここまで堕落しているのなら、家に帰ってしまえばいいものを僕は真面目にも部活に向かっていた。まあ、別に部活動にそこまで真剣という訳でもないのだけれど。


 正直、自分的には行く必要も無い。だかしかし、教科担任の先生より誰より怒らせたくない相手がいるのだ。だから僕は今日も部活に向かう。


 ちなみに、僕は女子生徒の制服に茶髪ロングのウィッグをつけてメイクを施している。これも部活動に必要な準備だ。最初は違和感が拭えなかったけれど最近は慣れてきたものだ。


 今日も変ではあるけれど、僕の部活動を全うしよう。午後寝ていたからか、体力はだいぶ回復していた。少し前向きな気持ちで、部室のドアを開ける。


「お待ちしておりました」


 僕を迎えるのは、制服姿の部員たちだと思っていた。しかし、そこに立っていたのは黒と白のコスチュームに身を包んだ少女たちだった。つまり、メイドコスプレ姿の部員たちである。


「五十嵐、遅いじゃないの。みんなもう準備は終わったわよ?」


 そう言ったのは、双子の片割れ(姉)の夏織である。呆れたように言っている彼女もしっかりとメイドの衣装を着ていた。彼女の衣装は少し、肩を露出するようなもので直視出来ない。


「いや、僕は今部室を間違えたのかと思ってもう1回登校するところからやり直してみようと思ってたんだけど 」


「その必要はありません。ここはれっきとした解決部の部室ですよ、智季くん?」


 出ていこうとドアのノブにかけた僕の手を包み込んで止めたのは冬花さん。スベスベとした肌触りにドキッとして僕はドアノブから手を離した。冬花さんの衣装はエプロンを胸の下できゅっと締めるタイプで豊満な彼女の胸を強調している。


「制服での活動をして2週間が過ぎました。そろそろ接客形式がマンネリ化する頃かと思いましてアレンジを加えてみました。新しい試みは取り入れるべき、ですよね」


「は、はぁ……。なるほど……? 」


 語る冬花さんに僕は首を傾げながら賛同した。とても、直視できないその姿に僕は目線を散らすことに精一杯だ。胸を見ているなんてことをバレたくは無いし。


「このような衣装は男性にとっては嬉しいというお話も聞きまして……。その……智季くんも好きだったりするのでしょうか……?」


 上目遣いで聞かれて、僕は急いで目を逸らした。嫌いなわけでは、無い。美少女のコスプレ姿なんて目の保養以外の何物でもないとも思う。


 だがしかし、今の僕には刺激が強すぎた。冬花さんから距離をとる。冬花さんが動く度に漂う甘い香りも僕をクラクラさせるには十分だった。


 解決部、という僕が所属しているこの部活は6人の美少女と僕というなんとも不思議な構成で出来ている。僕の入部の経緯といえば、僕の志願なんかではなく……。まあ、この美少女たちに勧誘されたのである。


 特別な依頼が入った時以外は、主に男子生徒をターゲットにした部活であり主な活動内容は雑談をしながらお茶を飲むこと。男子である僕は給仕係をしていたのに、途中で路線変更。男の娘として、接客側に回ることになったのである。


「今日はいつもとは趣旨を変えて、メイドになってみたのですが……」


 部室内には先程僕と話していたはずの少女の声が響き渡る。少し恥じらったような仕草、それでもよく通る綺麗な声。その全てが洗練され、計算されているように見える。


「私に似合っているかは自信がないのです」


 彼女の武器は、その美しさとスタイルの良さ。それに無表情なクールさというやつだろう。ひとたびその瞳に捉えられれば、逃げることは出来なくなってしまう。


「ですが、ここには魅力的なご主人様が多いので……」


 冬花さんがそっと視線をあげる。周りにいる男子たちの視線が冬花さんに釘付けになっているのがわかった。まぁ、そりゃそうなるか。


「私を雇って頂くことは可能でしょうか」


「喜んでぇぇぇ!!」


 彼女の名前は雪白 冬花。僕と同い年の高校一年生である。1年生ながらに解決部の部長であり、この部の1番人気だ。


「2人ともよく似合ってるなぁ……」


「べ、別にあんたに見せるために着たわけじゃないんだから勘違いしないでよねっ!」


「今、夏織の肩見てたでしょ。ふーん、隣に夏澄がいるのに夏織の方見るんだ。よっぽど監禁されたいんだね?」


 男子が双子のコスプレ姿を見て褒めた。片方は顔を真っ赤にしながら顔を背け、1人は男子の肩に頭を預けながら上目遣いで怖いことを聞いている。このグループの会話はいつも少し過激なんだよな……。


「で、でも褒めてくれたのは嬉しかった……かも……」


「また目が浮気してる。もう許さない、今日から夏澄と2人っきりの部屋でずーっと一緒だよ??」


 この2人は火野 夏織と夏澄。瓜二つの双子で、夏織がツンデレ、夏澄がヤンデレである。挟まれた男子は2人の沼から抜け出せないという噂がある。 


 


  


 

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