第9話 見分け方といじめ
「流星さんも、1度五十嵐くんに接客をして頂いたら良いのでは無いでしょうか?」
「俺が雪白さん以外に浮気するなんてありえないでしょう?」
「そうですか、私としては五十嵐くんの良さというものを味わっていただきたいところですが……」
冬花さんの提案に常連さんが肩をすくめる。僕としてもその提案はびっくりだ。だって、その常連さんは明らかに冬花さんに近づく男――つまり僕のことを警戒しているし。
「五十嵐くん、こちらよくいらっしゃる流星さんです」
「あ、はい……」
冬花さんが僕に常連さんを紹介する。流星、と紹介された男子はこちらに人の良さそうな笑みを浮かべた。僕も一応頭を下げておく。
「よろしく、お願いします……?」
僕によろしくお願いされても嬉しくないだろうと思いながらも挨拶をする。冬花さんは美人だけど、無表情すぎて僕は好きになる気持ち分からないしな……。趣味はなんとなく合わない気がする。
「な、なんて可愛いのでしょう……」
首を傾げながら挨拶をした僕に冬花さんが口を押さえて言った。えっと、世間的に言えばあなたの方が可愛いと言われる気がしますが……。僕は男だし、僕は男だし!!
「おーい、雪白さーん?」
僕に夢中になっている冬花さんの前で手を振って意識を戻そうとする流星さん。残念ながら冬花さんの視線は盲目的に僕に注がれていた。そんな様子を双子が呆れた様子で見ている。
「星野先輩、背中貸してください」
そう言って、僕は星野先輩の影に隠れた。何をしても無理そうなので物理的に冬花さんの視界から消えることにしたのだ。星野先輩は意外にも、僕を隠すようにすっと動いてくれた。
「いつも朱音の面倒を見ているものですから、助けを求められると動いてしまいますね」
星野先輩はぼそっと呟いたあとに、僕からそっと離れた。冬花さんはというと、僕が隠れたことが気に食わないのか少し拗ねている気がした。全く、表情がない割には感情は豊かな気がするのは気のせいだろうか。
「夜宵先輩、私は別に五十嵐くんに攻撃を加えようとしている訳ではありません」
「そうですね、失礼しました」
そう言って、冬花さんは僕の腕に自分の腕を絡ませた。そして、ぐいっと自分の方に僕の体を引き寄せる。その華奢な体つきのどこからそんな力が出てくるのか知りたいものだ。
そんな2人に挟まれて、四苦八苦していたからだろう。僕たちを、いや、僕のことを冷ややかな視線で見つめる人物に気づいていなかった。その、鋭い目線に気づけていなかったのだ。
▼▽
「「双子見分けクイズー!」」
双子が手のひらを重ね合わせて、みんなに声を掛ける。確かに、2人とも赤髪をハーフツインにしていて赤い瞳のためパッと見見分けがつかない。まさに瓜二つというやつだ。
「トモキは同じ部員だから分かったりするのか?」
「えっと……」
このクイズはどこに需要があるのだろうかとどこか他人目線で見ていると、客からそんな声がかかる。僕は、双子をしっかりと見て目を合わせた。そしてうん、と頷いてから口を開く。
「左が夏織で、右が夏澄」
「「残念、外れです」」
「別に期待してなかったけど、やっぱり見分けられなかったわね」
「智季くんでもダメか。見分けてくれなかったし、結婚してくれる?」
発言内容は確かに、左右で逆だ。でも、まとう雰囲気というかそれが違うのだ。2人は瓜二つの同一人物のようで、実は全く違う人なのだ。
「いーや、ツンデレとヤンデレを入れ替えようが左が夏織で右が夏澄だよ。なんとなく分かる」
僕は、自信たっぷりに言った。こればっかりは自信があった。昔からこういうなんの役にも立たない能力は発達しているのだ。
「あっはは、五十嵐センパイ大物じゃーん。さすが、冬花センパイ。見る目あるね」
「私の目に、狂いはありませんよ。12年前から、ね」
僕たちを見ながら冬花さんとボクっ娘が何かを話している。ただ少し距離があったためか、内容は聞こえなかった。まあ、別に大して興味もないのだけれど。
「ていうか、トモキ。手の甲、怪我してるじゃん」
「昨日、猫に引っかかれまして……」
1人の男子生徒が僕の手の甲の傷に言及してきた。僕は軽く手の甲を隠しながら適当に誤魔化す。大したことの無い、小さな傷だ。
「男だからって気をつけろよな。顔に傷なんて出来たら大変だぞ?」
心配の声をかけられたので、一応笑顔を返しておいた。本当は、猫に引っかかれた訳では無い。下駄箱を開けたら、取っ手に画鋲が仕組まれていたのだ。
ここ数日、靴の中に画鋲が入っていたり机の中に陰湿なことが書かれた紙が入っていたりした。一昔前の女子のいじめかよ、と思うほどの幼稚さと陰湿さ。でも、そこまで大事になるような怪我はしていないし放っておいたのだ。
でも、間違いだったかもしれない。日直の用事で教室を空けた際に、荷物が全てゴミ捨て場にばらまかれていた。これは悪質だ。拾い集めるのに、体力も消耗する。これは、訴えた方が体力を無くさずに済むかもしれないな……。
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