第6話 お茶会と謎の会
「そうですか、では五十嵐くんもお茶をどうですか?」
「いえ、僕は遠慮して……」
「なぜです……?」
なぜってそれは男子の視線が痛いからです。今、接客中でしたよね……?あなた目当ての男子たちが僕を鋭い目で見てくるんです……!
「お客様も全員集まって頂けば問題ありません」
「はいはーい、みんなボクの指示に従って机とか椅子とかの移動よろしく〜」
「何よ、わざわざ移動しなくちゃいけないの?別にあんたとお茶飲むためじゃないんだからねっ」
「智くんとティータイム〜♪」
「あ、あの!え、ええ……?」
僕が困惑している間に準備は着々と進んでいく。男子たちも自らの推しの頼みとあらばと言った感じで机やら椅子やらの移動に勤しんでいた。そして、ものの一瞬でお茶会会場が出来上がる。
脳内お花畑って言うんだろうか……。僕は騒がしいのは苦手だし、人の中心に立つのも苦手だ。静かな場所に行こうとしたら、逆に人との関わりが増えてしまっているじゃないか。
「雪白さんらしくないな。こんなの性にあわないだろうに」
「え……」
ちょうど僕の横に座っていた先程の冬花さんの常連さんらしい男子が言った。そういえば彼は移動してみんなの輪に入ろうとしていない。くす、と笑う姿は余裕そうだった。
「気にしないでくれ、君には関係ないから」
「そうですか。はい、そうします」
「五十嵐くん、お茶が入りましたよ」
突き放すような言い方をされたけれど、それにもさして興味はなかった。給仕係は僕のはずなのに、気づけば僕の分のお茶まで入っていて冬花さんに呼び寄せられる。僕は呼ばれたのでそちらに行くことにした。
「皆さん、五十嵐くんを待っていたのですよ」
解決部の部員はもちろんのこと、何故か男子たちまでキラキラした目で僕のことを見ている。いや、なんでだよ……。若干引きながらも、冬花さんの隣に用意されていた席に座った。
好奇心に満ちた目で見られて、困惑する。というか、そういう視線は晒されているだけで疲れる。僕は視線から逃れるように俯いた。
「こんなことをしてたら客が離れていくんじゃないですか」
「ご心配には及びません」
さっきから客のことを放棄しているような行動が見える。いつか愛想を尽かされるんじゃないだろうか。僕なんかに構わなければいいのに。
「私はお客様の隣でこうして時間を過ごせれば幸せなのです。お客様も同じ気持ちでいてくだされば嬉しいのですが……」
「もちろんですっ!!雪白さんと居られればそれだけで幸せですっ!!!」
冬花さんがひとたび目線と喜ぶような言葉を浴びせれば、客は歓喜に打ち震えたように肯定する。なるほど、こりゃ客離れの心配なんて要らなさそうだ。やっぱりどこか信仰心にすら感じるほどの陶酔ぶり。
冬花さんは余裕そうな、いつもの無表情でお茶を飲んだ。その瞳には何か特別な力でもあるのだろうか。1度見つめられると、逸らせなくなる。
「雪白さん、なんか変わったよな。そう思うだろ?流星」
周りがあまりにも騒がしくて気づかなかったのだ。いや、周りが静かでも僕は気づかなかっただろう。気づこうとする気すらなかったはずだ。
「遊んでるだけだろ?俺を差し置いてあんな男に夢中になるはずないんだから」
後ろでそんな会話が繰り広げられていたなんて――。
▼▽
気づけば僕の放課後は解決部の活動時間になっていた。眠れると思って入ったはずが睡眠時間を削られている。
「皆さん、今日は五十嵐くんの心を動かそうの会第1弾です」
冬花さんが大真面目な顔でそう言った。なんだろうか、その意味不明な会は。ていうか、第1弾ということはこれからも続くんだろうか。
「こ、心を動かす……?」
「ここ数日一緒に活動して思いましたが、五十嵐くんは感情の起伏が乏しい。私は、五十嵐くんの心が動く瞬間を目撃したいのです」
だから、それを冬花さんが言うのだろうか。僕は確かに感情の起伏があまりないとは思うけれども。ここ数日で口角を1ミリも動かしていない冬花さんには言われたくない。
「確かにー、ボクも気になるかもー」
「別に私は興味ないわよ」
「だったら別室でやりたいな。他の人に智季くんの色んな顔見られたくないもん」
みんなそれぞれ何か言っているが、この会に関しての疑問はないんだろうか。自分たちが何をやっているのか本当に理解しているのか?というか、絶対におかしいよな?
「大笑い、させたいものですね」
「大笑い……ですか?」
ここに来て初めて星野先輩の声を聞いた気がする……。いつも秋元先輩の傍らにいるはいるんだけど全く話してなかったし。そして、そんな星野先輩が大笑いさせたいとか言う!?
「普通に笑うし、喜ぶし、泣くし、怒りますよ」
「「え、そうなの??」」
双子の声が重なって僕の発言にびっくりしているようだった。僕をなんだと思ってるんだ……。普通に感情はあるし、それを表に出すときだってある。ただ、それが果てしなくめんどくさくて労力を使うから避けているだけだ。
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