第2話 解決部の一員……?

「だから!僕は1人になりたいんです!!」


 視界の隅で涙目になっているツインテール少女。彼女を庇うように高身長の紺髪をハーフアップにした美少女が前に出てきた。僕はそんなことお構い無しに、自分の主張を続けた。


「ということで、帰りま――」


 扉を開こうとした、僕の動きが止まった。入ってくる時は確実に回ったはずのドアノブがビクとも動かないのだ。正直唖然とする他ない。


「べ、別にあんたのこと閉じ込めようとしてる訳じゃないんだからねっ!」


「出ていっても裏切らないって言うなら出してあげてもいいよ?あ、わかった。約束の印に薬指置いていって?」


 ドアの両脇から瓜二つの2人がにょきっと顔を出す。燃え盛る炎のような髪の毛をハーフツインにしていて、可愛らしい印象なのに言っていることが2人とも突拍子が無さすぎる。


「いや、僕は……出ていきたいだけで」


 そもそもこんな部活にかかわり合いになるつもりもなかったのだから。追い詰められたようなこの状況に僕はなぜだか汗が止まらなかった。


「出ていって欲しくないなんて別に思ってないんだからねっ!」


「出ていきたいの?え、私を置いて??嘘だよね???嘘って言って????」


 出ていって欲しくないと思っていないなら出して欲しいんだが……。もう1人の方は、目にハイライトがなくて恐怖さえ覚える。


「えっへへ〜、どうするんだっけ?冬花ちゃん」


 黒髪ボブ少女が銀髪少女に問う。僕はその行方を唾を飲み込みながら見守った。


「五十嵐くん、今自分が置かれている状況をご理解なさっていますか?」


 無表情で問われるものだから僕も頷かざるを得なかった。他の人になら、なんとなく反論できそうなのだが彼女だけは有無を言わせない力がある。


「出迎えた時はお客様とお呼びしていたのですが……。訂正致しますね?」


 いや、訂正する必要は無い。別にお客様ではないのだけれど、今訂正されるとそれ以上に嫌な称号を与えられそうでそれが嫌なのだ。


「五十嵐くん、あなたは今日から解決部の部員です」


 無表情で淡々と至極当然のことのように告げれらた。いや、いやいやいやいや。部員……とかありえないし!?


 なぜだかは全く分からない。この部には伝説級の美少女たちが集まるという噂だったはずだ。そこに新入部員が入るとしても、また新たな美少女というのが妥当じゃないのか?


 それなのになぜだか僕は彼女たちに勧誘されてしまったらしいのだ。


 ▼▽


「雪白さん、夏休みのご予定は?」


「そうですね、今年は読書に集中しようと思っています」


 キャピキャピした雰囲気を纏った声が聞こえてくる。普通、その表現が使われるのは女子の声だと思うのだけれどこの場合男に使っている。


「雪白さんの好きな本は?」


「これから見つけられればいいかなと」


 学校だとは思えないティーセットやら漂う紅茶の匂いやら。コーヒーを飲んでいる人も居て、僕はここがどこだか分からなくなりそうになった。


「雪白さんは料理などなさるんですか?」


「あなたが作って欲しいとおっしゃるのなら、考えてみたいと思います」


「雪白さんは優しいんですね」


 月の光を溶かしたような銀髪に、海を固めたような碧眼。陶器のようにスベスベで真っ白な肌に、制服のシャツの上からでもわかる豊満な体つき。見た目は何も言うことがない。


 だがしかし、彼女は一切笑わない。どんな会話をしても、何が起こっても笑みというものをこぼさない。そんな彼女は解決部部長、雪白 冬花である。


 さっきから会話する男子たちの目にハートが見えて、完全に解決というよりもおしゃべりだった。男子たちも大した問題を抱えていそうにも見えないし、当たり障りのない返答たちはまるで接待のようだ。あの神秘的なまでに語られていた噂は嘘だったのだろうか。


「何よ、みんなさっきから私じゃなくて夏澄のことばっかり……」


 急に声が聞こえてきて、そちらに目線を移した。そこでは2人の女子と多数の男子がこれまた談笑している。


「だって、夏澄みんなのこと独り占めしたいんだもん。私以外の人のこと見てると、手錠をつけて繋ぎ止めたくなっちゃう」


 先程何か怒ったような声を出していた女子とは違う方の女子が男子たちをねっとりとまとわりつくような視線で見ながら言った。あの子、言うこと過激なんだよな……。


「いいわよ、別に私はあんた達に見て欲しいわけじゃないんだからねっ!」


 もう片方が腕を組んで、ふんと顔を背ける。頬はぷくっと膨らんでいて拗ねていることが一目瞭然だった。


「じゃあ夏澄を見て?ほら、こっち向いて??」


 もう片方が横に座っていた男子の頬をツン、と人差し指でつつく。男子は右に左にと視線のやり場に困っているようだ。


「別に寂しくなんてないんだから!で、でも……ちょっとくらいこっち見てくれてもいいじゃない……」


 拗ねていた女子が男子の腕に自分の腕を絡ませる。2人に挟まれた男子は今にも卒倒しそうな勢いだった。


「夏澄、浮気者は嫌いだよ?」


 赤髪をハーフツインにした瓜二つなこの双子たちの名は火野 夏織と夏澄。この2人も伝説の解決部の部員である。

  

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