属性過多な美少女たちに部活勧誘されたので、無関心ながらに頑張ってみたらモテちゃった件

雪宮 楓

入部編

第1話 解決部へようこそ

旧校舎3階。僕は1人になれる場所を探しているだけだった。人けが無いものだから人混みに疲れた僕はただぼーっと歩いていたのだ。学校というものは人が多くて人が居ない時間というものがないのだ。南端に位置する静かそうな資料室。


 ここならば誰もいないだろう。そう思って僕はなんの躊躇もなくその扉を開けた――。それが間違いだったのか、運命だったのか。そんなことは僕にはまだ分からないけれど。


「お待ちしておりました、お客様」


 僕を出迎えたのは6人のエリート美少女たちだった。違う、僕はこんな眩しいものを見るためにここへ来たんじゃない!僕はあまりに急に視界に入ってきた光たちから目を背ける。


「「いつものお客様と違うじゃない」」


 瓜二つの美少女が瓜二つの声で言った。見ていなかったらきっと一人が言ったのだと勘違いしていただろう。


「静かに、たとえ初めてのお客様でもお客様には変わりありません」


 こつこつと僕に近づいてくる1人の女子。僕はその姿に目を奪われたまま、立ち尽くした。


「解決部へようこそ。何かお悩みをお待ちですか、2年A組五十嵐 智季くん」


 その人は冷然と、僕を見あげた。見上げられているはずなのに、まるで見下ろされているかのような冷たさに肌が包まれる。そのくらい、彼女の瞳には熱というものがなかった。


 月の光を溶かしたような銀髪を顎先で切りそろえたボブヘアに、海の水を固めたような碧眼。あまり高くは無い身長には見合わない大きな胸も、その威圧感のひとつの原因だろうか。


「なんで、僕の名前を……?」


 あまりに焦りすぎて出てきたのはそんな言葉で、胸にやっていた視線をバレないように逸らすことに僕の神経は全て使われていた。こんな美少女がなぜ僕の名前を知っているのか、そんなことはこの状況からして些細な疑問に過ぎなかった。


 噂には聞いたことがある。他人にも、身の回りで起きている事象にも興味のない僕だけれどこの学校でまことしやかに囁かれているある部活のことを。その部活にはこの学校の有名女子6人が所属し。


 その6人がなぜだか、悩みを聞いて解決してくれるそうだ。だが、その扉は誰にでも開く訳ではなく選ばれた者にしか開かない。本当に助けを求める選ばれし者にのみ。


「部長が絶っっ対に来るって断言するからさ、ボクも調べちゃったよね〜。だって、仲間になるならある程度の情報は知っておきたいじゃん?」


 ボブにカットされた艶のある黒髪に、白のカチューシャが印象的な少女が片目をつぶりながら言った。先程の銀髪少女よりも小柄で、こちらは全体的にスラリとした印象だ。つまり、胸はそこまで豊満では無い、ということでもある。


「ま、大した情報はなかったんだけどね〜」


「へぇー、ご苦労様です」


 自分の情報を調べられていたというのに全く興味がわかなかった。別に相手が誰であれ、僕はこういう性格なのだ。基本的に、何にも興味を抱かない。全てにおいてどうでもいいが基本的スタンスだ。


「そして、五十嵐くんは予想通りに来てくださいましたね」


 銀髪少女が無表情で言った。その表情は僕が来たことを喜んでいるのか、迷惑がっているのか。迷惑ならば、僕も1人になりたいし帰らせてくれてもいいんだけど。


「成績は中の下。部活動は帰宅部。運動神経もそこそこ。そんな目立たぬあなたの名前をなぜ私が知っているのか、ですよね」


 銀髪少女が僕に顔を近づける。鼻を石けん系の柔らかい香りが掠める。彼女はやはり、ひと笑いもしなかった。


「ですが、それは秘密です」


 ぴとっと彼女の人差し指が僕の唇に当てられる。唇に当たった柔らかい感触は直ぐに離れていって、彼女はすっと僕から視線を逃がす。でも、たったそれだけなのに僕は言葉を封じられてしまった。


「この部は各種の性癖に答えられる女子を有しています。クールもいれば、ロリもいる。もしくは……」


 銀髪少女は僕と彼女の動向を見ていた部員たちを指さして言った。クールとかロリとか、まるでギャルゲーだ。そして、最後の言葉の行方は彼女に吸い込まれた。


「私、という手もありますよ?」


 ずいっと近づいてきた彼女が僕の制服のネクタイを掴む。そのまま彼女に引き寄せられ、鼻先の距離はわずか数ミリしかなかった。


「僕は、人がいない場所を探してただけなんだ――」


 彼女から離れて、呼吸を整える。彼女の瞳には、何かを吸い取る力でもあるみたいに1度視線が交わると離れられなくなる。近づいた時に感じた柔らかい胸の感触も悪影響を及ぼされている気がした。


「智くぅん、智くんはなんのお悩みを持ってるの?紅音、智くんのお話聞きたいな♪」


 ぴょん、と隣に飛び出してきたのは栗色の髪の毛をツインテールにした女子。身長は平均的なはずなのに、雰囲気やら口調やらで幼さが増している。


「勝手にあだ名を付けないでください!!」


 無関心だったはずなのに、できるだけ力を使わずに生活していたはずなのに。どうして僕は声を張り上げているんだろうか。この扉は選ばれた者にしか開かないんじゃなかったのか?

 

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