第二章 清めの儀式

第1話 帰還

「おかえりなさいませ、殿下」



 ノワールの声が、夜の静寂に溶け込む。柔らかく、そして深く。まるで暖かな風が頬を撫でていくような響きだ。


 それは私にとって、どんな癒しの言葉よりも心に染みる旋律だった。疲れ切った体と心が、その一言でまるで水の中に溶けていくかのように軽くなっていく。


 彼女の黄色みがかった白い髪と、清楚なメイド服の裾がそよ風に揺れる。黒いリボンが胸元に映え、その優雅な装いは、彼女の気品と献身を象徴するかのようだ。


 そのボブカットの髪は、夜の闇に包まれながらも、まるで微かな光を放っているように見えた。


 琥珀色の瞳が私をじっと見つめる。言葉以上に、彼女の忠誠はその瞳と仕草から伝わってくる。何も言わなくても、彼女のすべてが私のためにあるのだと感じさせる。


 ノワールの猫耳がほんのわずかに動くたび、その忠義が静かに私の心に染み渡っていく。その身に纏うメイド服は、その忠義をさらに際立たせていた。


 黒と白の繊細な生地が織りなすコントラストは、彼女の気品と献身を象徴しているかのようだ。逃避行の最中でも、彼女はこの装いを崩すことなく、私のそばで忠実に仕えてくれた。


 思えば、あの魔王城が崩れ落ちたとき、どれだけの者たちが私を見捨てたことか。名前さえ思い出せないほど多くの者たちが、次々と倒れていった。


 それでも、ノワールだけは違った。彼女だけは、最後まで私の側にいてくれた。


 彼女は私を守り続けてくれた。そして今、この瞬間も。私がここにいるのは、彼女の存在があったからだ。私は、闇の中で光を放つように見える彼女の髪を見つめながら、短く言葉を返す。



「今戻ったわ」



 その一言に、特別な意味が込められているわけではない。だが、私の声を聞いた瞬間、ノワールの瞳が微かに揺れるのを感じた。


 彼女の耳がぴくりと動き、彼女が私の言葉を深く受け止めたことがわかる。私たちの間にあるのは、ただの言葉以上の絆だ。言葉の裏に潜む感情や意図を、彼女は鋭く読み取る。



「ご首尾のほどは?」



 冷静な問いの中には、確固たる信頼が込められていた。彼女は、私を絶対に疑わない。私の計画が成功することを信じているし、私もその信頼に応えるつもりだ。



「勇者が現れるなんて、少し予定外だったけれど、まあ、だいたい想定通りよ」



 私は肩を軽くすくめて、答える。すると、ノワールの金色の瞳に安堵の色が浮かぶのをはっきりと感じた。彼女は私の成功を、自分のことのように喜んでくれる。それが、どれだけありがたいことか。



「では……?」


「ええ、転移の門は確かに聖女に仕掛けてきたわ」



 私の言葉に、ノワールの口元にほのかな微笑が浮かぶ。それは、これまでの長い戦いの中で幾度となく見てきたものだ。いつだって、彼女は私の勝利を共に喜び、私以上に誇りに思ってくれる。



「おめでとうございます、殿下。これで魔王様ご復活に――」



 彼女の言葉には、深い喜びと感謝が込められている。しかし、その言葉の途中で、私はふとした思いつきを口にしてしまった。



「でも、今日は疲れたわ。あなたも遠見の水晶で見ていたんでしょ?」


「はい、初めからすべて」



 その声には誇りが込められていた。すべてを見届けた者としての自信と、私に対する変わらぬ忠義。それに応えるように、私は彼女に感謝の念を抱いた。



「ほんと、あの勇者の斬撃、躱せてよかったわ。準備していなかったら、きっと切り伏せられていたもの。それにしても意外だったけれど、聖女の舌使いがすごく良かった」



 軽い口調でそう言った瞬間、ノワールの耳がぴくりと動くのが見えた。まるで、小さな鐘が警戒を鳴らすかのような反応だ。その反応を見ていながら、私は何も気にせずに続けてしまう。



「柔らかくて、暖かくてね。口の中に差し入れたとき、ほんとうに溶けてしまうんじゃないかって思ったわ。あれが勇者に仕込まれたものだなんて、少し驚いたけれど」



 言葉が口をついて出るその瞬間、ノワールの瞳がいつもの優しさから鋭さへと変わり、強い光を帯びるのを感じた。だが、すでに遅い。言ってしまった言葉は引き返すことができない。


 彼女の表情がほんのわずかに変化し、その内に潜んでいた感情が静かに姿を現し始める。



「……そんなに、よろしかったのですか? 聖女の、舌使いが」



 その声には、冷たさがほんの一滴混ざっていた。その冷たさが、嫉妬という感情の色を帯びていることに気づいた瞬間、私ははっとしてしまう。


 ノワールの忠誠心の裏に潜む、深く、そして時に強すぎる感情――それが、今まさに溢れ出そうとしているのだ。虎の尾を踏んでしまった。今、彼女の怒りは静かに燃え始め、私を巻き込もうとしている。



「ん? あ、いや、ただ正直に感じたことを言っただけで……」



 私の口から出た言葉は、言い訳にもならない言い訳。だが、その瞬間にはすでに遅い。


 ノワールの瞳には決意が宿っており、その決意はまるで剣を握る手のように、私を逃がすつもりはないのだ。彼女が次に何を望んでいるかは、痛いほどに理解できた。



「さようでございますか――……今日はお疲れだと思いましたので、このままお休みいただこうかと考えておりましたが……気が変わりました。そんなにお好みだったのであれば、感覚が薄れぬうちに、後学のためどのように良かったのかを詳しくお教えいただきたいですわ」



 その声は低く、そしてどこか妖艶な響きを帯びている。ノワールの瞳が一層鋭く、そして熱を帯びているのがわかる。


 その変化を察知しながらも、私はただ次に何が訪れるのかを静かに待つしかなかった。ノワールが主導権を握る瞬間を、私はすでに肌で感じ取っていた。



「――ああ、私としたことが、失礼いたしました。あの胸糞悪い聖女に大切なおちんちんをしゃぶられたのですもの。早くお清めしなくては、いけませんね」



 その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが切り替わる。そう、この展開はいつものことだ。ノワールの感情が溢れ出す時、私はいつも主導権を彼女に渡し、すべてを委ねることになる。そして、その結果がどうなるのかも、私はよく知っている。



「えっ、と……ノ、ノワール、さん?」



 言葉に詰まった私を見つめるノワールの微笑が、一瞬だけ深くなる。その微笑には、優しさもあれば、ほのかな怒りの残滓もある。そして私は、その微笑が何を意味するのかをよく知っていた。



「さあ、脱いでくださいませ、殿下。いつものように、このノワールにすべてお任せを……そして、誰が殿下を一番満足させられるか、教えて差し上げますわ」



 甘く、けれどどこか抑えた響きを持つ声が、私を逃さない。私はその声に捕らえられ、これから始まる夜の主導権が完全に彼女の手に渡ったことを受け入れざるを得なかった。



「――お脱ぎくださいませ」



 その言葉が、まるで甘美な毒を含んだ蜜のように、私の耳を通り過ぎていく。ノワールの細い指が私のドレスにそっと触れた瞬間、まるでその布地が彼女の意志に従うかのように、滑らかに肌から離れていく。彼女の指先は柔らかく、しかし迷いのない動きで、私の体を一つずつ解放していく。


 ノワールの猫耳が微かに動き、彼女の瞳が深い満足感を浮かべる。その表情には、すでに勝利の確信が見て取れた。それは、私に対する絶対的な優位を示す笑みであり、次に何が起こるかを知っている者の笑顔だった。



「ふふ、じっとしていてくださいませ、殿下。私がすべて、お世話いたしますから」



 彼女の声には、どこか母性的な慈愛が満ちている。けれど、その裏には一切の抗えない力が潜んでいる。


 まるで、子供を優しくあやしながらも、逆らうことなど考えさせない母親のような響きだ。彼女の言葉に、逆らうという選択肢は消え去り、私はただ彼女の導きに従うしかなかった。


 言われるがままに腕を上げ、ノワールの指が触れるたびに、まるで糸で操られる人形のように、私の身体は自動的に反応していく。ひとつ、またひとつ、彼女の指示に従って動作を繰り返す。気づけば、足元には無惨にも脱ぎ捨てられたドレスが散らばっていた。


 目線を少し上げると、視界に広がるのはノワールの全裸。何度も目にしているはずのその姿が、見るたびに新鮮な魅力を纏い、私の心を掴んで離さない。白く滑らかな肌は月光を受け、まるで夜空の下で輝く露のようにみずみずしく輝いていた。


 私の肌に残されたのは、靴下だけ。他のすべては彼女によって巧みに剥ぎ取られてしまった。


 ノワールの金色の瞳が、飢えた猛獣のように私をじっと見つめている。その視線は、私を逃がさぬという決意に満ちており、私はその視線に絡め取られ、まるで獲物となった気分でベッドの上に転がされていく。


 シーツの上で浮き上がる白い肌。彼女はそんな私を見下ろすと、瞳に深い満足の色が湛えた。その笑みには母性と支配欲が混じり合っており、私はその視線に絡め取られる。



「あら、もうこんなに……殿下、もしかしてご期待に胸を膨らませていらっしゃいましたか?」



 声が、甘く響く。その言葉には冷静な観察と、喜びが見え隠れしていた。彼女の黄色みがかった白色の猫耳がピクリと動き、その小さな仕草にさえ、私は心がざわつく。まるで全てを見透かされたかのような感覚に、心が熱く波打つのを感じた。


 ノワールは私の反応に満足したかのように微笑み、視線を私の身体へと滑らせる。その瞳に映るのは、可愛らしい顔の奥に秘めた私のもう一つの姿だ。



「いつ見ても本当に素敵ですわ。可愛らしいお顔の下に、こんなにご立派なものを隠していらっしゃるなんて、殿下は本当に罪作りな方ですわね」



 勃起した陰茎に目をやり、その先端に大切そうに、そして愛おしそうにキスを落とす。その温もりに、胸の奥がじんわりと熱くなるの。


 唇が優しく離れたかと思うと、ノワールはゆっくりと顔を下げ、今度は舌先で鈴口をちろちろと刺激し始めた。



―――――――――――――


―――――――――――


 あとがき。




 第二章 1話をお読み頂きありがとうございます!

 第一章はお楽しみいただけたでしょうか?


 第二章は猫耳メイドの忠臣ノワールさん登場回です。

 虎の尾ならぬ猫の尾を踏んだアルデュス様はいったいどうなってしまうのでしょう!?


 楽しかった、続きが少しでも気になる思われましたら⭐︎⭐︎⭐︎評価や作品フォローをどうぞよろしくお願いします!



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