第2話

 あの後、顔を真っ赤にしたマリナは、無事シモンと合流。

 兄にいつも通りからかわれ、色々と疲れが溜まったマリナ。

 ある程度の交渉を済んでいた彼女は、兄と共に実家へと帰宅した。


 帰宅したのだが、ドレスを脱ぎ捨てると直ぐいつもの服装へと替わっていて、そのままギルドの寮へと走っていった。

 そんな彼女に、幼い頃からお転婆を見てきたはずのシモンですら驚いていた。


 そうして連休を終えたマリナは、疲れを引き摺りつつもまたいつもの受付業務へと向かったのだ。

 


 ◇


 建国祭が過ぎ、いつも通りの日常に戻ったある日。


 ブランチを終えたマリナは、残りの新人の行き先もそろそろ決まるだろうと考えながら、会議室へ業務内容の確認をしに来ていた。

 そこへ、ピョコピョコと耳を動かしながら、マリナに近づく黒猫娘。


「聞いた? ペスカドルの聖女サマ!」

「あー、たしか巡業とかナンとかで今王城アソコにいらしてるのでしょ?」


 ブルーナの言う“聖女サマ”。

 隣国ペスカドルに“急に現れた”らしいと、聞いたマリナ。

 興味がなくてそれ以上の情報を収集していないが、大夜会の帰宅中に兄から近々この国に来ると言う話だけ聞いていた。

 その“聖女サマ”が城に来ているのを知ったのも、いつも通りにマリナへ絡んできたがポロッとまた“お守り”になったと溢していたから。

 ちなみにマリナはその時、盛大に“ざまあみろ”と言っていた。


「建国際の時に来ればよかったのにねー」

「そうしたら“聖女サマ”へのおもてなし(?)が出来ないとかで、ずらしたんじゃないの?」


 ブルーナに応えるケリーの話によると――各国の教会へ巡業(?)中らしい“聖女サマ”は、自分の引き連れてきた教会所属の聖騎士ではなく、訪れた国の騎士――特に見目麗しい貴族金持ち男性――を侍らせて廻っているらしい。

 そうしてチヤホヤされて、豪華な夜会を開いてもらい。

 お姫サマ気分で、国を出ていく――と、うさ耳に届いたそうだ。



 ……もてなされたいのか、聖女サマ。



 全くもって聖女らしい事をしているように聞こえてこない“聖女サマ”の話。

 聖女とは何ぞや? と思うマリナの傍で会話が続くブルーナとケリーの言葉に、ロクでもなさそうな“聖女サマヤツ”が来たのかとマリナは呆れていた。

 関わらないのが吉だと、頭の隅の端まで追いやって“聖女サマ”の事を忘れることにした。



 ◇◇

 

 “聖女サマ”情報を忘れきって、本日もいつものように外受付へと入ったマリナ。

 暫くスッキリと忘れて受付に集中していた所為で、目の前で喚くはた迷惑な女が件の“聖女サマ”だと言うことに、全く気づかなかったのだ。


「そこの貴女、わたくしの護衛としてついてきなさい」

「――ここは、ダンジョンへ入る方が“どの位の期間”“どの階層へ行き”“何をするか”を把握する場所です。パーティー勧誘はギルドで対応してお、」

「わたくしを“誰”だと思っているの!? つべこべ言わずに付いてらっしゃいッ」

「…………どなたでしょう?」


 こんな失礼な女に心当たりがないマリナは、キーキー唸る女の周りをチラッと見回す。

 そう言えば数人見知った顔がいるなと、猿女の後ろへ目を移動させると――ごめんねと謝る気のなさそうな、でも珍しく困った顔をしていると目が合った。

 マリナはそれで漸く、このキーキー猿が件の“聖女サマ”だと理解した。


 手の出しにくいをどうしようか、流石に手を出せないと喚く女を放置して考えていたマリナ。


 瞬間――手元のアラームが鳴った。

 いつも通り、小鳥が鳴くような可愛らしい“ピィピィ”と言う音で。


 目の前の“聖女サマ”御一行を無視したまま、マリナは机の上にあるギルド直の通信魔石へ魔力を流した。


「こちら、外受付担当のマリナです。緊急事態発生のため、業務交代願います」


 間もなくすっ飛んでくる人物を待つマリナは、“聖女サマ”御一行をそのままに、軽く準備運動ストレッチを始める。

 それを見て、黒髪の眼鏡が陰で肩を震わせていた。



 さっき出たのだったけど、この状況見たら……逃げそうよねー。



 喚き声をBGMに待つマリナへ、交代に走ってきたはずの大男が案の定引き返して、代わりにミランが来るまであともう少し。



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【完結】こちらハンターギルドダンジョン管理部、外受付担当のマリナです。 蕪 リタ @kaburand0

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