1章第13話 描かれる策
作戦会議が始まろうとした時、ベッドで横になっているティナが口を開いた。
「そんなに急ぐ必要ある? 連中の位置は分かっているんでしょう?」
『そうなんだけど、シャードもいずれはアジトへ撤退するだろうし、今攻撃してしまわないと……』
「だから、アジトまで追跡してやればいいじゃない。そうしたらあたしも休めるし」
『そういうわけにはいかないかな〜。アジトまで追跡するのは振り切られるリスクが高すぎるよ』
ドローンの追跡も万能では無い。相手に気取られないような距離を保ちつつ追跡すると急な空間移動で見失うリスクが常に付きまとうことになる。加えて、敵がアジトに戻るとなると警戒も強くなり、追跡の有無に関わらず振り切るような動きをしてくるはずだ。その時、遠隔操作のドローンでは限界がある。追跡を続けるより休息を取っている所を叩いた方が良いだろう。
ティナは眉をひそめて悩む様子を見せる。
「分かったわ、アジトに戻る前に叩いて荷物を返してもらいましょう」
『よし、じゃあ具体的な作戦を話そ〜。まずは地図を共有するね』
ウミが地図情報を共有する。ソラ、ティナ、エマの真ん中に立体的な地図が浮かび上がる。街並みが広がるなか、巨大なショッピングモールが一際目立っていた。地図の中央に位置し、周囲の建物よりも圧倒的に大きな影を落としている。
『まず、うちらがいるのがここ』
ウミは地図のとある1点、小さな家に赤いピンが立つ。そして、巨大なショッピングモールを挟んだ向かい側にある倉庫に2つ目のピンが建てられる。
『そして、シャードはここで足を止めているわ』
「絶妙に遠いな」
エマが視線を2つのピンの間で動かしながら呟く。
『うちらとは逆側に逃げたからね。……まず、最初の関門になるのがここ』
ショッピングモールの周りが明るくハイライトされる。全員、分かっていたがここを超えなければならない。
「ファルターが厄介って話よね」
ティナはベッドから起き上がり、座る。顔色も随分ましになっている。
『ティナさんの言う通り、しかも
「迂回するべきか?」
ソラが地図の詳細を確認する。ハイライトされたエリアは大きく迂回すればそこそこ時間を取られそうだ。
「何かプランはないの?
ティナは腹部の傷を撫でながら尋ねる。
『最速で行くならこことここに安定した空間の連結があるの』
ハイライトエリアの外からショッピングモールの内部に1つトンネルが現れる。そして少し離れた場所にショッピングモールの中から向かい側の外へ出られるトンネルが表示された。そして半透明のラインが今いる場所のピンからトンネルを通ってもう一つのピンへと繋がれた。ショッピングモールの外に出るワープさえ越えられれば目的の倉庫まではかなり近い。
『このルートは1度目のワープの後、2つ目に向かう途中でファルターとの戦闘リスクがあるけどこのルートならワープしてすぐに目的地に到着できる。それに、シャードもまさかこの危険な道を通ってくるとは思わないはず』
「相手の意表をつくわけか」
エマがぼそっと言葉を漏らした。
「分かった、そのルートで行きましょう」
ティナがウミの作戦に同意する。ソラとエマもそれに頷いて肯定する。
『じゃあ、もう1つの関門について。シャードのいる倉庫だけど、入り口が1つしかないわ』
全員の視線が倉庫に向く。大きな口が1つだけ空いている。その場所さえ警戒していれば侵入者に気付ける。そのため、隠密で物だけ盗って逃げるのは難しそうだ。
「つまり、正面戦闘になるって訳ね」
『ティナさんの言う通り。ただ相手は人数差で押してくるはず。開けた場所で包囲されたら
「イーグル、倉庫の詳細はあるか?」
エマが口を開く。
『今、送ったよ』
エマは目を動かして、送られてきた情報に目を通す。
「私に作戦がある。この倉庫にはもう1つ侵入ルートがあるの。ここの換気ダクト、私の身体なら通れるはず」
エマは倉庫の裏手にあるダクトを指差した。そこには小柄なエマであればギリギリ通れるであろうサイズのダクトが存在していた。彼女の提案がなければダクトの存在にすら気づかなかっただろう。
「挟み撃ちで混乱させて、物資を奪って撤退。この作戦はどう?」
エマの存在はシャードにはバレていない。シャードに対して優位に立つなら彼女を生かすべきだ。
エマの作戦にティナが顎に手を当てて何かを考える様子を見せる。
作戦会議はしばらく続き、現在地から倉庫までの動き、そして倉庫に入ってからの配置、予想される敵の動き、離脱方法まで詳細なプランが固まっていく。難易度は高いが決して不可能な作戦ではない。
「よし、これで決まりだね」
ソラが作戦会議をまとめた。
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