1章第6話 侵入路
物資の奪還作戦当日、ウミは侵蝕区域の近くの駐車場にキャンピングカーを止めて、ソラを合流場所へ送り出した。ソラが外に出てすぐに目に入ったのはグリッド122の街をいくつも飲み込む、巨大なクローシュが外界との内部を分断している侵蝕区域だ。銀色の膜に覆われていて外から中の様子を伺うことはできない。ストレイは何十年も昔、ソラが生まれる前から存在している。そんな圧倒的存在を見ながらソラは合流地点へと歩いて向かった。
合流地点では先に来ていたティナがヘッドホンで音楽を聴きながら、ハンバーガーにむしゃぶりついていた。彼女は曲のリズムに合わせて軽く足踏みをしている
「ティナ、待たせちゃったかな?」
ソラの存在に気付いた彼女は急いでハンバーガーを平らげる。そしてヘッドホンを軽く操作した後
「別に、あたしが早く来てただけだし」
とつれない態度で答え、ハンバーガーの包装紙を丸める。彼女の腰にはカフェで会った時にはなかった2本の短めの剣が据えられていた。
「じゃあ行こうか、区域内までの道案内は頼むよ」
そうソラが言う。この前のカフェでの交渉で侵蝕区域へ入るまではティナが道案内することになったのだ。今から向かう侵蝕区域、ストレイはA.E.Rも注視している区域であるためどうしても侵入手段が限られてしまう。ここに来るまでにもいくつものA.E.Rによる哨戒無人機を見た。無人機とはいえあれに見つかれば厄介ごとは避けられないだろう。侵蝕区域に入った後は
「この近くに古い排水路があるわ。そこならA.E.Rの監視を避けて侵蝕区域内に入れるわ。ついてきて」
ティナが自信満々に先導する。ソラは周囲を警戒しながら彼女の後に続く。しばらく進むと古びたフェンスが見えた。そのフェンスの金網は切断されており容易に出入りできそうだ。
なるほど多くの人がここから侵蝕区域に向かっていたのだろう。
ティナは暖簾のようにフェンスをめくってくぐる。ソラはそれに続く。するとフェンスの先に排水路が見えてきた。湿気漂う空気がひんやりと肌を撫でる。この排水路が侵蝕区域内部まで続いているなら確実にA.E.Rの目を盗んで入ることができる。
「ここを進めば侵蝕区域に入るわ。ただ暗くていつ侵蝕区域に入ったか気付かないことも多いから、早めに対侵蝕剤を打つのを忘れないように」
ティナは忠告しながらプリーツ付きのスカートのベルト部分に取り付けられたショットシェルのような見た目の
ティナはポケットから黒の革手袋を取り出す。彼女の血色が良く美しい手が手袋に吸い込まれていった。
ソラも同じようにフィンガーレスグローブを装備する。
「こっちは準備オッケーよ、ここから先はあんたが案内して」
「了解、イーグルは準備できたか?」
ソラが話しかける。ウォッチアイの通話ウィンドウ上にはイーグル、ホークに加えてティナの名前が浮かんでいる。
『あーあー、こっちからの声は聞こえている?』
「ああ、良好だ」
「同じく」
2人がウミの問いかけに肯定を返す。
『よし、じゃあドローンを飛ばして』
ソラはカバンを開いて、観測用ドローンを解き放った。
『うちは作業に入るから、ホークはしばらく道案内よろしくね』
ストレイは前回の依頼で赴いた侵蝕区域とは規模が違う。侵蝕区域のシミュレータを動かすのに必要なデータ量、作業量が範囲を絞ってなお桁違いになる。彼女はしばらく作業にかかり切りになるだろう。
ソラもウミに劣るとはいえ
ウォッチアイ上に地図を展開する。侵蝕区域の辺境は空間の連結は多くない。少なくとも排水路を通る間は別の場所に飛ばされてしまうことはないだろう。
「さあ、行こうか」
ソラは先へ進み、排水路へ一歩足を踏み入れた。
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