第1章 第4話 執着

 入学から1週間後、外を眺める私のことを呼ぶ、甲高い声の正体は…先週私のことを散々苦しめた古明地だ…。


改めて、あの人について説明しよう。



彼女は古明地こめいじこいし。



才能は魅了:相手を無差別に魅了する事ができる。

      効果は近ければ近いほど強くなるって

      やつらしい。


それのお陰で彼女は昔から恋愛に関しては困ったことがなく、そのせいで今のような塩対応な彼女が出来上がった。


彼女の塩対応っぷりは世間でもこのあたりでは有名なそうで、たとえどんな対応をサれようとも、皆彼女を推し続けているそうな。


彼氏はもちろんいたことはなく、気を許す相手はクラスにいる金髪少女、フランドール・スカーレットのみ(多分)。


勉強面及び運動面でも上位に食い込むれレベルであり、まさに、完全無欠で不落の城、才媛という名がふさわしい少女


のはずだったのだが…


なぜかその少女は、こちらを見ながら笑顔で手を振り、

私の名前を呼んでくる…現実か?これ。


さすがになにかの間違いだと思い、依然変わらず外を眺める。


『はくー、どうして無視するのさー!私たちの仲でしょ!』


『…』


どうやら、なんの間違えでもなく私はあの不落少女に名を呼ばれたらしい。


冷静を装ってはいたが、さすがに困惑は隠しきれず、言うこともないので、私は黙り続ける。


それでも、古明地はいつも通りのことをするかのように私に話しかけ続ける。


『あのねー今日登校中にね猫を見てねー!すっごい可愛かっ

 たの!まあ、私には敵わないけどね!』


この人…こういうキャラだったのか…


フランドールとの会話をあまり聞いていなかったせいか、

この人の人物像があまり掴めていない。


『…』


最初に名を呼ばれた時は、私含めクラスの皆困惑していて

反応が何一つ無かったが、ある程度時間が立って、お互い状況の深刻さに気づく。


『…』


私はさらなるコミュニティの縮小の危機に、彼らは、どこの馬の骨かわからない男に、自分たちのアイドルを取られるかもしれないという危機に。


同じ危機でありながら、同じ危機として一括りにしてはいけないほどに異なっている。


 私は彼らの視線にも立って、一時的ではあるがそのヘイトをなんとか逃れようとし、咄嗟に立ち上がり教室の外へと向かおうとすると…


ガシッ


『はくー?どこ行くのー?私がいるからどこにも行く必要な

 いよねー?』


腕を掴まれそんなことを言われる。


この人…実はメンヘラなのか?とても恐ろしい。


いや…今はそんなことより、そいつに腕を掴まれ、 それをクラスメイトに見られている状況がまずい。


必死に振りほどこうとするも、意地でも離さないという信念を感じざるを得ないほどの力量を感じる。


『いやー…狛枝にもついに春が来たかー…』


クラス中にどよめいたこの気まずい空間を打破したのは我らが友、柏木大樹。



いや、もしかしたら今からでも友人でいることをやめたほうがいいのかもしれない。


打破の仕方は何であれ、とりあえず助かったと思っていた。


柏木により、より混乱したクラスの中、なんとか収束をつけようと必死に自分の席へと戻る。


大人しく席についたと思ったらすかさず古明地が

話しかけてる。


『それでねー?…』


『いやー…俺も狙ってたんだけどなー…』


『ザワザワ』


あたり一面から聞こえるざわつき声…こんな形で

知名度を上げたくはなかったのだが…


その場では周りのざわつきもあり、なんとかその場を乗り切ることはできた。


柏木にはずっといじられているが…



 


 その後はまさに地獄そのものだった。


どんなときでも、何があろうと古明地は意地でも私に話しかけてくる。



私は全て無視しているにも関わらずだ。

その精神力は褒めるべきなのだろうか。


授業間休憩、授業中、休み時間…いついかなる時でも、古明地は話しかけてくる。


…全て無視しているのにもかかわらずにだ。




 

 そんなこんなで、冷たい視線がより一層強くはなったが、なんとか1日をしのぎきれた。


辛く苦しい時間であったが、学校を出ればこちらのもの。


外はまだ夕方で、街灯が不気味に感じるような明るさで道を照らす。

そんな中、古明地のことを必死に忘れようと別の思考を手遊びをしながら考える。


私は即座に家に帰り、少しダラッとした後、今日のことを振り返る。


脳裏に映るは鬱陶しく話しかけてくる古明地のみ…


普通の人相手であれば言葉…下手したら手が出るかもしれないレベルであったが、そこはさすがの才能といったところか、いくらかイラつきが緩和されている気がする。


私は考える。普段はありえない思考スピードで、

古明地はなぜ、今日のような豹変ぶりを見せたのかということを。


しかしながら、学校の後で疲れ切った私にそんなことを思考できるはずもなく、結局は気まぐれだろうという結論にいたり、力尽きた私はベッドに倒れるように寝る。


もし何かあっても、きっと未来の私がなんとかしてくれると、私の望む学校生活を託して、床につく。




 それから1週間後、古明地の態度は






一切変わっていない。





というか、余計距離が縮まっている気がする…


それに伴い増加する視線…


うっぁ…


おい見てるか過去の私。

やっぱり、お前の望む学校生活なんて送れないのかもしれない。


結局今でも原因は不明で、解決策も無視をするくらいしかない。


対策がほぼない状態でこれ以上は私の心が持たない。


とはいってもこの学校に来てまで不登校になるのもあれなので、私は渋々学校に行っている。


今日もわけもわからない話を永遠と聞かさせる。


『でー…なんだよー!すごいよね!』


『…』


当然無視。これしか私にはできない。

わ゛だじは゛…よ゛わ゛い゛!


…そんなな嘆きほどほどに、今日もいつもどおり、話を聞き流していると、耳に入る言葉があった。


『あ、あと今日はくの家行くから、よろしくー』


それはもう耳に入ってK.O.パンチを食らうレベルで耳が痛くなるような言葉。


いつかここまで行くかとは思ってはいたが、想定よりもかなり早い。


予想していたこともあり、私はあまり焦らなかったが、クラスメイトは別…かと思ったが、視線は感じるが冷たくはない。


逆に…どこか生暖かさすら感じる…嫌だな…


この日のために、対策だって考えてきた。


『いや…ほん特に勘弁してください…本当にお願いしま

 す…』


敬語によるガチ拒否。

これによる友人との絶交確率は驚異の100%(実話)。


あまり人を突き放すようなことはしたくない性格なのだが、致し方なし。私の学校生活のためだ…

古明地よ…犠牲になっておくれ。


『おー喋ったー!てかなんで敬語なの!wまあいいけどね、面

 白いし!』


…やはり予想は予想、机上の空論に過ぎなかったのだろうか。

まるで効果がないように見える。


(なっ…なぜだ…これまでのデータではこんなふうにすれば絶交率100%だったのに…

うっあっあっうぁーっ)


最悪のルートに入った。


(クラスメイトにも知られ、否定をしても効果なし…もう、家に連れ帰るしかないのか?

いやいや…それだけは何があってもだめだ…)


ここで私が取った選択は…


『…』


未来の私に託して、窓の外を眺める…



頼んだぞッ 未来の私!


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