第1章 第3話 豹変

 私が同調しようとしたその時、教室の扉が、私のときとは全く違う、まるで開き慣れているかのようなスピードで、勢いよく開く。


先程の私のときと同様に、全員の視線が扉に向く。


そこには…先程の人だかりの中心人物である、あの少女がいた。


まさか同じクラスとはな…


とは言ってもこの学校人学年人クラスしかないんだけどね

(上の学年とか、御曹司とか校長の娘かと思ってた。)


ここまでは先程の私と同じ状況だったが…


『あ!古明地さん!』


『おおー!古明地さん!本物だ!やべー!』


たちまちクラスは大盛りあがり。私のときとは大違い。


みんなが古明地?というひとに擦りついている間、柏木が喋りだす。


『やっぱり、あの人はすごいよねー』


『あの古明地?って人何が凄いんですか』


『えっ?お前知らないってマジか?マジか…』


なんかやけにイラツくが、ぐっと堪える。


『あの人は…なんかよくわからないけど、めちゃくちゃ

 可愛いんだよねー本当に!』


どこかアホらしいと思ったのは私だけだろうか。


しかしまあ、いわゆる絶世の美少女ってやつか…


確かに、見る限り顔はその名にふさわしい者だと思うが、何故か全肯定することができない私がいる。


原因はこれだけかは不明だが、先程囲まれていたときも、とても冷たい塩対応に見えた。

(それのせいかもな)


『やっぱ、めっちゃかわいいなー古明地さん。

 クラスメイトとかめっちゃ運いい!最高だぜぇ!

 狛枝もそう思うだろ?』


ここでの質問…究極の二択である。


正直に言えば、このクラスいや学校単位で浮いてしまうことが確定するが、嘘をつけば今後の友情関係や、会話に支障が出る…


ここで取る私の選択肢は…


『私は、あんまりかな』



『…』


その言葉を発した瞬間空気が凍り、静かな目で皆がこちらを見つめてくる。


『やべっ…!じ、じゃあまたな!狛枝!』


柏木には逃げられた。(まあ構わないが…)


しばらくの沈黙の後、取り巻きが一人声を上げる。


『まあ、古明地さん。あんなやつ無視して俺らの席の近く

 来ません?絶対楽しいっすよ!』


それに引っ張られるように他の奴らも声を上げる。


『いやいや、絶対ウチのところ来たほうがいいって!』


『ここはやはり彼から一番遠い、私の席の隣に!』


…みんな必死なんだなー。


ああゆうものを見せられるのをきついし、当事者も大変そうだな…と思うが、少女は当然の塩対応。


『…どいて。もともと席は教室に入ったときから

 決まってる』


(ほー怖い怖い。あの人だからこそできる塩対応だなー…

他の人がやったら絶対に嫌われるけど…彼女に限ってはそんなことないんだろうな…)


そんな風に、他人事のように考えていると、例の古明地がこちらに歩いてくるように見える。


(気のせいかな?やけに真っ直ぐとこちらに歩いてきてるような…さすがにね?あんな態度とっておいてくるわけ…)


ストン


少女が私の隣の席に座った。


『???』


『…』


そしてなぜか私の方を黙って見つめてくる少女。


頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされる。


当然目など合わせられるわけもなく、話せるわけでもなくただただ気まずく感じる空気が続く。


仲良く慣れそうだったクラスメイトの視線が痛い…


とてもつらい 


じっと窓の外を眺めているが…それでも少女とクラスメイトからの視線は止まらない。


(…!どうして…!どうして…

私は、ただ静かにしたかっただけなのに…!

うっあっあーうぁー…)


しかし、願っても効果はない。


『…』


こいつ…ずっとだまりっぱなしで…ふざけるなよ…


今にも死にそうな空気を打開したのは…


ガラガラッ バン


扉の開く音だった。


扉の方は見れないが、誰かが来て、また視線をかっさらったと思いう。


助かったと思い、ほっと胸をなでおろすと、聞こえてくるのは絶望の声。


『あっ!こいしちゃん!久しぶりー!』


こしいという単語…


この状況で新たに人が入ってくるのは非常にまずいと思い、前の扉からそそくさと外へ逃げる。


ちらっと見えたのだが、入ってきた人は、金髪の深紅の瞳を持った、古明地と同じくらいの身長の美少女だった。


…そういう人は惹かれ合うのかねぇー…




 しばらくして、集合時間少し前に教室に戻る。


入ってすぐは冷たい視線が痛かったが、この後にこれが可愛く思えるほどのものが目に入る。


私の席を見ると、先程と同様に隣に古明地。

ここまではいいのだが…


その古明地の前に先程の金髪少女が楽しそうに古明地と話している。


さらに私の席の前に柏木がいる。


(なんで…柏木とあの少女が…)


古明地は先程からなのでおいておくとしよう。

なにも良くはないのだが。


(…なぜ…柏木と金髪少女が…)


冷たい視線にさらされる中で必死に考えるも結論は出るわけがない。


そうして放心状態だった私に初めて声をかけたのは


『お、拍ーやっと帰ってきた。こっちこっちー!』


(いや、こっちこっちて…もともと私だけの席なんだけどな?)


そんなことを強く思うが、当然口に出せるわけもなく、渋々その言葉に従い、彼らのもとの席へと向かう。


『お前いいよなー。何やらこの2大美少女に近づかれるな

 んてなー!』


(こちらとしては勘弁してほしいことこの上ないのだが。)


これもまた、口には出せない。


私は席に座るが、意地でもその美少女とやらには振り向かない。


『席は近くだけど、狛枝君、あなたと仲良くする気は今の

 ところはないから。そこのところ勘違いしないでちょう

 だい。』


柏木の言葉に反応するように、古明地が言葉を張り上げる。


(こちらこそ…)


古明地の発言によって少し安心したような視線を感じ、思わずそんな声が漏れそうになるが、ギリギリで抑える。


『拍…頑張れ…』


(こういうところでしっかり言えないあたり、私はいつまで経ってもこうなんだろうな…)


そんな悲壮感に包まれたまま、隣に古明地がいる生活が1週間過ぎる。


それはもう地獄のような1週間だった…



ペアワークでは無視をされ…



『あの…古明地さん?ペアワークを…』


『…』


その間常に冷たい視線が弱まるのを感じた。


(こんな形で安心したくはなかったのだが…)


『狛枝!ドンマイ!俺もフランちゃんに無視され続けてるか

 ら!』


『それでどうしろってんだよ…』



いま思い出しても辛すぎたな…




 そして週末の休みが明け、またあの生活が始まるという憂鬱に打ちひしがれながら、学校へと向かう。


教室につき、いつもどおりただただ外を眺めていると…


『はくー!おっはようー!』


そんな私をの名前を呼ぶには高すぎる声が聞こえた…



そこを見ると、笑顔で手を振りこちらに向かってくる古明地の姿が…

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