「アインシュタイン先生曰くには。」

 地球は太陽のまわりを回ってるんじゃない、落ちてるんだ。そういう話を聞いて、なるほど、と相槌を打った。僕の中、何かがすとん、落ちたのだ。僕はベッドの上、手の中のスマホを枕に落とす。いや、スマホから、僕が落ちた。僕だけでなく、スマホ以外の、ベッドも、部屋も、家も何もかもが? 頭の悪い僕だから、まだちゃんと理解出来ていない。腑に落ちない。僕はベッドから落ちて、着替える。袖の中、腕を落とした。ズボンに足を落とした。洗いざらして色の落ちたジーンズのお尻のポケットに財布を落とす。これは落とすと困る。玄関のドアノブを落としてドアを落とし、表に落ちると、昨夜、雨粒を落とした空は気持ちの良い秋晴れで、僕は腕を空に落とし、うーん、と背伸びをした。ここのところずっと忙しく、なんだか落ち着かないし疲れもなかなか落ちない。昨日、目を落とした小説、可愛い女の子の襟首から苺を落とす話で、苺畑の土の香り、甘い苺の果汁の匂いが頭の中に落ちてきて、とても心に深々落ちた。でも、コメント欄に落とされた感想は「女の子が男に都合よすぎる」とか、「男の子ががっつきすぎで通報案件」とか、本当に地に落ちたようなくだらないものばかりで、心底うんざりして、僕はため息を落とした。似たような事、身近にも落ちていたので尚更、気分が落ちた。そういった気分も、今日の清々しい秋晴れに、上向きに落ち、何か良いことでも落ちて来るんじゃないか、そういう勘のようなものが、ふっ、と落ちてきた。そうして、足を左右交互、アスファルトに落として歩き、コンビニにお金を落としに行こうとしていた途中の辻󠄀、パンを咥え走って落ちて来る女の子と僕はぶつかった。女の子はふたつのおさげ、両側の肩から前に落とし、細身の黒縁眼鏡は少し顔からずり落ちかけていた。「すみませんすみません」と女の子は頭を何回も落とし、そのまま道の向こう、猛スピード、落ちていった。ここで、僕と女の子、恋に落ちたとお思いでしょう? でも、実際は僕の手の中に、彼女の咥えていたパンが落ちていただけだった。そういったオチ。

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