寝ることにしました。

 ここのところ、こんな感じで書き始めるのだが、一向に書き切れないでいた。イメージ解説を聞いた部長は腕組みして、今は文芸部の部室をくるくる歩き回っている。


「なるほどー。ちょっと小細工が過ぎて実力が追いついてない感じなのかな?」


 ぐさり。最初の設定通り、ふんわりしたイマジナリー部長は割と辛口。でもそれが良い。


「ちなみに自分ではどう思う?」

「そうですね。頭文字の『かきつばた』がうまく出来たらすごく気持ちよかったと思います。ちょっとあざといかな、とも思いますが」

「わたしは、そういうあざといのも嫌いじゃないよ」


 そう言う部長に、すぐにお礼を返そうとして思い直す。というのも、会話文が続いてしまうからだ。

 書き始めの頃に、会話文が続くと読む気なくなる、と言う感想か何かを見た。

 だから、ここぞと言う時以外は、会話だけで話が進まないように気をつけている部分でもある。

 もちろん、その感想も個人の意見だろうし、会話文を効果的に使う作家さんもたくさん見ているので、あくまでこれは個人的ルールではあるが。


「ストーリーとかは?」

「薄いかな、とは思います。普段からあまりストーリーのしっかりしたものは書けてないんです。たぶん苦手なんでしょうね。筋を追うのに説明っぽくなっちゃうので」


 さて、ここまでで約500文字。部長と話していたら、意外とすらすら書けていた気がしたが、やはりまだ本調子ではないようだ。


 ······いや、そもそも書けていた時、というのは本来の自分だったのだろうか、と思う。

 ほら、なんとか拳があるじゃないか、駄目だもう10倍くれぇ使ってんだ、ホホホっ逃がしませんよ。みたいな。

 とは言え書いていた事に間違いはないので、どうにかそこまで戻したいところだ。

 

 そういえば、スランプの事を調べている時に「普段と違う視点や書き方で書いてみると意外と書ける」みたいな記事も見た。

 どちらかと言うと、あまりこうして語りとか心情で話を進める事はしてなかったと思う。それはまあ、ホントはそんなに色々考えてないし語彙もない、というのが真実ではあるけれど。こうしてちょっと開き直って書いてみたらここまでで約5000文字。

 もしこのイマジナリー文芸部にイマジナリー部員がいたとして、彼か彼女が書けない、と悩んでいたら経験としてアドバイスしてもいいのかも知れない。なんて、今日入部したばかりのやつに言われるまでもないかな、と考え直す。

 そんな風に、500文字と数えてから悪あがきで書き続けていると、部長がひとつため息を溢す。


「わたし思うに、普通に夏バテなんじゃないのかなぁ。日中エアコンないところで働いてるんでしょ? 書けない書けないって遅くまで起きてて寝不足みたいだし。もう今日は終わりにしよ?」


 なるほど、目から鱗というやつだ。今日はここまでにしよう、と保存ボタンを押した。

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