解説してみました。

 スマホに書いた文章を、もう一度部長と見返した。


 風がふっ、と燕子花の頭を揺らし、そのまま僕たちを通り抜ける。切り揃えられ青々とした下草に、敷いたラグがぱたぱた捲れ、先輩が両手でそれを押さえた。それを見越して僕は、先輩の被ったつばの浅い帽子を軽く押さえる。藤棚からは、小さな花びらがぱらぱらと降って、薄紫色の雨粒みたい。薄く雲の張った空は湿気を孕んでいて、眩しくもないのに僕たちは、目を細めて見合った。

 風が去ると、先輩は皺になったラグを優しく丁寧に撫でて伸ばす。同じように帽子を押さえた僕の手で、先輩の髪ごと撫でてもいいのだろうか。

 結局動かせずにいると、先輩が「ありがとう」

と口の端をにっ、と上げ、僕はゆっくり手を降ろす。


 今回はこの文章から続く物語を、こんな感じにイメージした。

 

 まずテーマは『失恋』で登場人物はいつもの「先輩」と「僕」。これは最近コレクションに偏りがあったので先輩と僕モノにしようと考えた。

 『失恋』と言うことで、遠くて苦い記憶を掘り起こすと、昔付き合っていた人と一緒に行ったとある公園を思い出した。

 なぜその公園かというと、後になって何度か行ってみたけれど、遂にたどり着く事が出来ず、白昼夢みたいに今も頭に焼き付いているからで。

 つまり描写するために映像化がしやすいと思ったのだ。

 

 さらに、その公園のイメージと、その近くにある燕子花が有名な公園のイメージをミックスさせる。その燕子花が有名な公園、なんと伊勢物語東下りの正にその場所だと、今の仕事につくまで知らなかった。

 

 という解説をすると部長がへぇ、と目を輝かす。


「唐衣着つつなれにしつましあれば?」

「はるばる来ぬる旅をしぞ思ふ」


 そうそう、こう言うやり取りができる文芸部とかだとすごく良い。

 

 話を戻すと、馴染んだ服みたいな奥さんを置いてこんな遠くに来ちゃって寂しい、みたいなこの和歌をベースにしようと考えた。

 

 先輩と僕は、着馴染んだ服みたいに気持ちが通じ合っていた。しかし卒業を機に遠距離恋愛となってしまい、今度はお互いがいない事に馴染んでしまう。最後のお別れはふたりでよく来た燕子花の綺麗な公園で、久しぶりに会ったというのにやっぱり落ち着く関係だと気づくけれど、別れてしまわないといけない。


 「なるほど。でも別れの理由が不明瞭じゃない?」

「そうなんですよね。そのへんは書きながら雰囲気で押し切ろうかと。話の筋はいつもだいたい書きながら辻褄合わせる感じですし、理由を明確にするのも野暮かな、と」

「基本はちゃんとした方が良いと部長さんは思います」


 お互いにちょっと苦笑いして解説を続ける。


 今回の最大の見せ場は、気づかれても気づかれなくても良い。

 各パートの頭文字を「か、き、つ、ば、た」にしたいと思った。もちろん、伊勢物語東下りの和歌のパク······オマージュだ。

 「風がふっ、と」で始まり「キミが」、「つまり」、「バイバイ」、「立ち上がり」みたいな感じで各パートの頭を決めその間を埋める。


 そこまで決まれば後はいつも通り、とりあえず最後まで書いて、置き換えられる動作や感情は全部描写に置き換えて、最後に読み上げ機能で変な言い回しや、句読点を調節する。


 でも実際には書き切れずボツとなった訳だ。

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