お洒落には疎いんだが、こっちは別だ
「まったく、酷い目に遭ったぜ……」
「フンッ、自業自得でしょ?」
「今の騒ぎに、俺の自業自得要素あったか?」
「だってアンタ、
「あー……まあ、うん」
何とか店員さんの怒りを収め、周囲の客にもペコペコ頭を下げて騒ぎを収めて一息ついたわけだが、全ての元凶であろうリナの言葉に反論ができない。
そうだよな、俺主人公だもんな。世界からハーレムを約束されてるようなメチャモテイケメンだもんなぁ。実感ねーけど。
「うん。この話題は不毛すぎるから、別のこと話そうぜ。これからメイン……『久遠の約束』を攻略していくにあたって、俺としてはまず装備を調えたいかなって思うんだが」
「いいんじゃない? 確かに装備は更新したいし」
やや強引に変えた話題に、リナがあっさり同調し同意する。何せ俺達は全員が初期装備だ。普通に攻略してるならボス前に稼いで多少いい装備に買い換えているところだったが、今回はこっちの戦力が充実し過ぎてたからな。
「私の装備はまだ力不足を感じてはいないが、確かに貴様等はもう少しいい装備をしてもいいだろう。特にシュヤクとリナは、その装備のまま戦い続けるのは自殺行為だぞ?」
「なら食事が終わったら、学園系列の武具店に行きますか? 残念ながら、うちは武具の類いは扱っていないので」
「クロも一緒に行くニャー。一人だと退屈しちゃうのニャー」
「なら皆で行きましょ。あ、でもお店に関しては、ちょっと心当たりがあるっていうか……ねえ、シュヤク?」
「うん? あー、あれか! 確かにあるな」
目配せしてくるリナに、俺はわずかに考えてから答える。ゲーム的にはまだ序盤も序盤なので店売り装備で何の問題もないんだが、確かにこれだけの面子が揃ってるなら、あのサブクエをやってしまう方がいいだろう。
ということで、俺達は打ち上げという名の食事を終えると、皆で連れ立って街を歩き始めた。通りを進んで職人街的な場所に辿り着くと、赤い屋根のこぢんまりした店に辿り着く。
「ザガン魔導武具店? ここがお二人の心当たりのお店ですか?」
「何だかちっちゃいっていうか、しょぼくれてる感じニャ」
「まあ、ぱっと見はね。大丈夫だから、任せて」
「こんちはー」
訝しげな顔をするロネット達を背後に、理由を知っている俺は挨拶をしながら店の中に入る。すると正面のカウンターのところに、ぱっと見一二、三歳くらいに見える女の子の姿があった。
公式設定では身長138センチ。爆発したみたいなピンク髪のお団子を頭頂で左右に纏める、この店の店主である。
ちなみに、種族はドワーフだったはずだ。なのでこの見た目でも俺達と同い年である。では何故同い年……一五歳の子供が店主をやっているかと言えば、それはイベントを進めていけば勝手に話してくれるので今はいいとして。
「いらっしゃい! おー、そんな美女三……四人も連れてるとか、兄ちゃん随分と色男やねぇ」
「ちょっと待って。何で今三人っていいかけたの?」
「ははは、全然そんなのじゃないですよ。商品見せてもらってもいいですか?」
「ええよー。わからない事があったら気軽に聞いてなー」
「ねえ、三人ってどういうこと!? のけ者はアタシ!? モブは美少女になれないの!?」
「リナ、お店で騒いじゃ駄目ニャ。クロは美少女だからおしとやかにするニャ」
「そうだぞリナ。私のように凜とした態度をとっていれば、自然と美少女と呼ばれるようになるものだ」
「美少女なんて、そんな……恥ずかしいです」
「何でみんな、さりげなく、自分は美少女だって主張してるの!? くぅぅ、流石プロエタのヒロイン達。異論が欠片も出ないわ……っ!」
「ならいいじゃねーか。ほら、装備見るぞ」
よくわからない悔しがり方をしているリナを引っ張って、俺は棚に飾られた武具を見ていく。だが正直、俺に武器の善し悪しなどまるっきりわからない。
だが、それでいい。今の俺の新の目的は別にあるのだ。棚の横に無造作に置かれた樽、そこに突っ込まれた剣に視線を動かし…………
(…………おいリナ、これ、どれが『いい剣』なんだ?)
(え? アタシにわかるわけないじゃない)
こっそり話しかけたリナが、あっさりとそう告げてくる。いやいや、それだと困るんだが?
(アンタ主人公なんだし、適当に掴んだら
(んな無茶な……)
サブクエスト「鍛冶屋の目利き」……それはこの樽のなかに置かれた剣から、一本だけ品質の高い剣を見つけることで始まる。ゲームでは樽のところにキラキラ輝くエフェクトが自己主張しており、調べるだけで勝手に始まるイベントだったのだが……えぇ、この一〇本のなかから当たりを選ぶの? 全部同じにしか見えねーんだけど?
(失敗したらやり直し……は無理だよな? でもこれ、素材から武具を作れるようになる必須イベントだぞ? なくなったらスゲー困るんだけど?)
ゲームなら失敗する余地のないことも、現実なら違う。いっそアリサやロネットに聞いてみるのもありかも知れないが……
「なんや兄ちゃん。その樽の中身がどうかしたんか?」
「ふぇっ!? あ、いや、その…………」
悩む俺を見て、ニヤニヤと笑う店主の少女が俺に声をかけてくる。これを仕込んでいるのは彼女なのだから、当然わかっているのだ。
くっ、これはもう後戻りはできねーな。ならばここは、主人公パワーにて見事に一〇分の一を引き当ててみせよう! ……が、その前に。
「こ、この樽の中の剣、一本だけ随分品質が違いますよね? 全部値段は同じっぽいのに何でかなーって思って」
秘技、いい感じに誤魔化す! 具体的にどれとは選ばずとも、そういうのがあると見抜いてる=ちゃんと目利きができるという証明! どうだ? 通るか?
「……へぇ? 兄ちゃん、なかなかええ目をしとるやないけ。ちなみに、どの剣のことを言っとるんや?」
「ぐっ!?」
どうやら雑な言い訳は通らないらしい。となれば後はもう、実際に選ぶしかない。運を天に任せて……これか? それともこっちか? あるいは――
「…………?」
不意に感じた、あり得ない程のフィット感。他の剣の柄も握ってみたが、その一本だけが他の九本とは決定的に違う。
「これだ……ですよね?」
まさかこんなに違うもんだとは思わなかった。俺は迷わずその一本を樽から引き抜き、ミモザに見せる。するとミモザは満面の笑みを浮かべて頷いた。
「せやな。どうやら兄ちゃんには見所がありそうや」
「いや、そんな……てか、こんなにわかりやすかったら、誰でもわかるんじゃ?」
「そうなの? ねえ、ちょっとアタシにも見せてよ」
「クロも見るニャー!」
「私も見たいです!」
「私も見てみよう。武具の善し悪し多少わかる方だからな」
俺の言葉に釣られるように、他の四人が集まってきて樽の剣を握り始める。だがどういうわけだか、それぞれが違う剣を選んでしまう。
「むぅ? 私にはこちらの剣の方がいいものに思えるが……?」
「ほんのちょっとだけど、クロはこっちの方がいい気がするニャ」
「すみません、私はどれも同じに見えちゃいます。うぅ、商人の娘なのに……」
「アタシも全部同じね。ねえシュヤク、何でアンタそんなにスッパリ見極められたの?」
「えっ!? いやだって……」
「アッハッハッハッハ! それでええ! どの剣がいいかは、人によって違うんや」
戸惑う俺達に、ミモザが笑いながら声をかけてくる。随分と機嫌がいいようで、どうやら答え合わせをしてくれるらしい。
「当たり前の話やけど、人間はみんな違うやろ? 体格、性別、筋肉の付き方、技の癖……そこにある剣は、そういう違いを大まかに一〇系統に分けて、それぞれに合うように打ったもんなんや。
せやから、平均的な造りにしてある数撃ちの剣と違って、自分にピッタリ合う系統の剣は妙にしっくりくる反面、そうでない剣はえらく微妙に感じるってわけやな」
「へー、なるほど。そりゃ凄いっすね」
「ならどれを持っても違いを感じないのはどういうことなの?」
俺が感心するなか、リナがミモザに問う。するとミモザは苦笑を浮かべて手をヒラヒラと振った。
「そりゃ剣の才能がないってことや。というか、そもそも姉ちゃん達は剣なんて振ったことないやろ?」
「それはまあ、そうね」
「護身用の短剣くらいなら持ってますけど、ちゃんとした剣は初めて持ちました」
「ならわかんなくて当たり前や! むしろそれで違いがわかったら、それこそ稀代の大天才やで!
にしても、兄ちゃんは大分剣の才能があるみたいやなぁ。最初はこれの話を誰かに聞いてきただけの冷やかしかと思ったんやけど」
「アハハハハ……」
なるほど、「自分にとっての一本を選べるか」というのが本当の試しだというなら、あの台詞で納得するわけねーよなぁ。というか、今の言い方からすると何回もやってて、実は割と有名だったりするのか? もしそうなら尚更だ。
「よっしゃ、兄ちゃん達ならええやろ。なあ兄ちゃん、ちょっと頼みたいことがあるんやが……」
だがまあ、それらの懸念はもうどうでもいい。そう切り出す店主の姿に、俺は新たな冒険の始まりを感じて気分を高めていた。
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