良くも悪くも、ゲームらしい適当さだぜ
「フーッ、これでようやく進めるニャ!」
「お、流石クロエ。頼りになるな」
通路の罠を一通り解除し終えたのか、クロエがそう言って立ち上がる。それを受けて俺が労いの声をかけると、クロエが得意げに胸を反らしてニッコリ笑った。
「ニャフーン! そうだニャ、クロはすごーく頼りになるニャ! お礼はサバ缶でいいニャ」
「サバ缶なぁ……」
いくつかの例外を除き、プロエタの魔物は倒すと確率でアイテムをドロップする。そしてそのドロップアイテムにはその魔物由来っぽいものもあれば、何でこいつがこんなものを? と思うようなものも多分に含まれており、「サバ缶」はその一つだ。
中世ファンタジー世界にどうして「サバ缶」が? というのは考えてはいけない。材料を集めて料理が作れるシステムがあった関係上、その辺の魔物が何故かジャガイモやトマトの野菜を落としたり、イノシシを倒すとイチゴやブドウが手に入ったりするからな。
いや、それどころか一人分にカットされたショートケーキとかも落としたよな? 魔物が消えた後にそっと地面に置かれたショートケーキとか、個人的には絶対食べたくないんだが……まあいいや。
「特に使い道があるわけでもないし、手に入ったらやるよ」
「やったニャー! ならさっさとこんなところは脱出して、サバ缶を探しに出かけるニャー!」
「いや、わざわざは探さねーけど……もう普通に歩いて平気なのか?」
「クロが歩いたところは大丈夫ニャ。でもそこから逸れると罠が残ってるから気をつけるニャ」
「了解。じゃあ引き続き先導頼むぜ」
「わかったニャ」
俺はクロエの後を続いて、イベントダンジョンを進んでいく。すると程なくしてクロエが足を止め、フンフンと鼻を鳴らし始めた。
「クンクン……何だか近くにお宝がある気がするニャ」
「へー、わかるのか?」
「クロの鼻は特別製なのニャ! 多分こっちに……ニャ?」
何もない壁の前で立ち止まったクロエが、そのままペタペタと壁を触り始める。すると程なくして壁面の一部が幻のように消え、奥に空間があるのが見えた。
「隠し扉ニャ! しかも奥には……宝箱があるニャー!」
はしゃぐクロエについて、俺も小部屋に入っていく。するとそこにはキャンプに持っていくデカ目のクーラーボックスくらいのサイズ感のある、木製の宝箱が置かれていた。ここにあるのは知っていたが、初めて見る本物の宝箱という存在に、俺はちょっとだけ感動する。
「おぉぅ、こりゃ確かに宝箱だな……」
「さーて、何が入ってるかニャー」
「あ、おい!? そんな無造作に開けていいのか!?」
まったく警戒せずに宝箱の蓋に手をかけるクロエに、俺は慌ててそう声をかける。するとクロエは不思議そうな顔で振り返り、クネッと曲げた尻尾で「?」をつくりながら答えた。
「シュヤク、何言ってるニャ? 木と銅の宝箱には罠なんてないニャ。罠があるのは銀より上の宝箱だけニャ」
「ん? あ、そうだった……か?」
「まったく、シュヤクはうっかりだニャー。さて、中身は……フニャー…………」
クロエのワクワク顔が、一瞬にしてしょんぼりする。まああの箱の中身は「うっかり罠を踏んでしまったプレイヤー向け」のやっすい回復ポーションなので、その反応も致し方なし。
「……シュヤクにやるニャ」
「ん? いいのか?」
「いいニャ。一番最初に罠を踏んでたニャ? これを使うといいニャ」
「そっか、ありがとう」
差し出されたポーションを、俺は礼を言って受け取る。その後も罠を解除し、隠し通路を見つけ、宝箱を開けて、というのを三回ほど繰り返したのだが……
「うぅ、ろくなものが入ってないニャ……」
「そう落ち込むなって。むしろラッキーじゃん」
「何言ってるニャ!? ショボショボ宝箱ばっかりで、どこがラッキーなのニャ!?」
「いやだって、宝箱の中身がショボいってことは、ここがダンジョンの浅い場所だってことだろ? 目が飛び出るようなお宝が手に入ってみろ、俺達じゃ絶対ここから出られねーぞ?」
現実ならばいざ知らず、ゲームであれば宝箱の豪華さと出てくる敵の強さは比例する。ここはイベントダンジョンなので例外だが、もし俺が本当に知らない罠で飛ばされ、その先で何百万エター……「エター」はこの世界の通貨単位……もするようなお宝が出てきたら、逆に絶望して泣き叫ぶことだろう。
「……そう言われるとそうだニャ? じゃあクロ達は超ラッキーってことだニャ!」
「そうそう。幸運の女神はいつだって俺達と一緒にいるぜ!」
「ニャー!」
真に幸運ならそもそも謎の強制転移イベントに巻き込まれることなどない、というツッコミを胸の内にしまい込んだ俺の言葉に、クロエのテンションが目に見えて戻る。
うむうむ。惚れられたいとは思わねーけど、元気がないのは寂しいからな。これからもクロエには、是非ともいい案配のお調子者でいて欲しいところだ。
「よっし、クロエ隊員! では脱出という最大のお宝に向けて、二人で頑張っていこうじゃないか!」
「え、突然何言い出したニャ? 怖いニャ。あと若干気持ち悪いニャ」
「ぐっ……そういう素の反応をされるとスゲー恥ずかしいんだけど……」
「ニャフフ! わかってるニャ! じゃあここからは隊長に先に行ってもらうニャ」
顔を赤くする俺にクロエが悪戯っぽい笑みで返し、二人で更にダンジョンを攻略していく。ゲームだったら数秒だった罠解除には現実だとそれなりに時間がかかったせいで、ゲーム的には一〇分か二〇分くらいだった道のりを体感で二時間以上かけて進み……そうして俺達は、遂に最後の部屋へと辿り着いた。
「ニャニャニャニャニャ!? あれは……!」
「おっと、ストップ!」
「ギニャー!?」
ここまでとは一線を画す、しっかりと整地された小部屋。その中央にある台座に乗ったものを見て走り出そうとしたクロエを、俺は尻尾を掴んで止める。
「シュヤク、何するニャ!? 乙女の尻尾を掴むとか、ウチの故郷なら父ちゃんにぶっ殺されても文句言えないニャ!」
「悪い悪い。でもお前が飛び出そうとするからだろ?」
「そんなの当たり前ニャ! だってあれ……あそこにあるのは…………」
怒り心頭の顔から一転、クロエがうっとりした視線を向けた先にあるのは、金色に輝く缶詰。
「『金のサバ缶』だニャ!」
金のサバ缶、それは伝説のアイテム……とかではなく、まあまあのレアドロップ品だ。あれを落とす敵は三〇レベルくらいあるので貴重品には違いないが、そんなものがあんなにあからさまに置かれているのは、当然理由がある。
「クロエの好物なのはわかるけど、もっとよく部屋を見ろ。思いっきり罠じゃねーか」
「ニャ!? そ、そう言われれば……」
俺の指摘に、クロエが猫なのに女豹のポーズで室内に視線を向ける。そう、この部屋は罠部屋だ。ゲームでは
それと同時に室内に大量の魔物が湧くので、それを全部倒して見事クロエを助け出せれば、その後に出現するゲートから二人揃ってダンジョンを脱出。逆に失敗した場合は、強制転移前に組んでいたパーティメンバーが助けに来てくれて、同じくダンジョンから脱出……というのがゲームでの流れだった。
つまり、変化があるのはクロエの初期好感度くらいで、成功しても失敗してもダンジョンは出られる……はずではあるんだが、俺がここに跳ばされた経緯を考えると、ゲームと同じようにイベントが進む保証はない。
何せ、俺が跳ばされた時にいた仲間はヒロイン達ではなく、
その場合、教師が助けにくるのか? あるいはシナリオの強制力で、ロネットやアリサが助けに来てくれるんだろうか? 不確かな部分が多すぎるし、最悪誰も助けに来てくれなくて、そのまま死ぬ可能性も十分にある。
ならば一体どうやってこの状況を切り抜けるのか? その答えは……
「さて、それじゃ最後の詰めといきますか」
俺はニヤリと笑ってから、足下の
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