知識無双! ってはしゃげる歳でもねーんだよなぁ
「お、ちょうどいい群れがいますね。それじゃ皆さんには、あれを相手にしてもらいましょう」
ヴァネッサ先生の視線の先には、五匹のプニョイムがプニョプニョしている。こっちも五人なので、確かにちょどいいだろう。
「それじゃ先生はここで見てますので、戦ってみて下さい。ああ、勿論危ないと思ったら助けますから、大丈夫ですよ」
「じゃあシュヤク君、どうする?」
「え、俺?」
「うん。だってシュヤク君がこの中で一番強いでしょ?」
ミリカの言葉に、他の三人も頷いて同意する。キールとハンスはちょっと不貞腐れてはいたが、さっきの「痛い目」が聞いているのか、もう軽口は叩かない。
「ふーむ、そうだな……」
ということで、戦闘方針を任された俺は、プニョイムを前に軽く考え込む。
勝つだけならば簡単だ。まず俺が先制攻撃で一匹減らし、迫ってきた四匹のうち三匹をキール達四人で引きつけてもらっている間に、残る一匹を俺が仕留める。そうしたら次は二匹を四人で引きつけている間に俺が一匹を……とやれば、一切危なげなく勝つことができるだろう。
が、これはあくまでもクラスメイトとの共同作業だ。協力することの素晴らしさをわからせたいわけだろうし……なら、これだな。
「よし、なら今回はエマとミリカに先制攻撃を任せよう」
「えっ、私達!?」
「ちょっとシュヤク君、何考えてるのよ!?」
「待て待て、話を聞けって。ほら、二人って基本的に後衛だろ? でも後衛だからって敵に狙われないってことはないと思うんだよ。
だから今回はあえて二人にタゲを……あー、プニョイムに狙われてもらって、それを俺達で守りつつ敵を迎撃するって形にしようかと思ったんだ。プニョイムなら万一俺達が失敗しても大怪我とかはしないだろうし、守ること、守られることの難しさを経験しとくのに丁度いいかなって」
「それって、シュヤク君が私のこと、お姫様みたいに守ってくれるってこと?」
「いや、俺だけじゃなく、キールとハンスも守るんだけど……一応そう、かな?」
「なら、私やる! ねえエマちゃん、やろうよ!」
「むぅ……シュヤク君以外の二人が頼りないけど、ミーちゃんに頼まれたら仕方ないか」
「チッ、何だよシュヤクばっかり!」
「俺だって、守るならエマみたいな女じゃなくて、もっと可愛い子を守りたいよな」
「なんですってー!」
「あーほら、そのくらいで」
また言い争いが始まりそうだったので、慌てて俺が仲裁に入る。まるで俺が引率の教師になったような気分だが、実際中身の年齢は俺が一番年上……ヴァネッサ先生は二四歳……だから、そういうこともあるだろう。
「エマとミリカは、俺達に守られつつ前衛がどうやって自分達を守ろうとしているのか、その動きをよく見といてくれ。で、キールとハンスはそんな二人をどうやったら守れるのかをしっかり意識すること。
いいか? 守るのは勿論、『きちんと守られる』ってのも難しいんだ。単に魔物から逃げりゃいいってわけじゃなく、どうやったら守りやすいのかを意識しないといけない。
今までは一対一で自分と魔物だけだったけど、今度はそこに仲間……第三者が加わるんだ。まあ最初はどうせ上手くいくわけねーから、失敗前提で経験積んでいこーぜ」
「おう! てかシュヤク、お前妙に詳しくねーか?」
「ほんとー! シュヤク君、先生みたい!」
「へ!? いやいやいやいや、ちょっと聞きかじっただけだから! すまん、なんか偉そうに……」
「いいって。まあとにかくやってみようぜ」
「「おー!」」
曖昧な笑みを浮かべて言う俺に、クラスメイト達が合わせてくれる。いかんいかん、ゲーム時代の糞みたいな護衛依頼の知識に引っ張られてしまった。
いや、あれは本当に糞だった。てかゲームの護衛ミッションは、その九割方が糞だ。何で守られてる立場なのに好き勝手動くんだよ! 勝手に進むなよ! 敵を倒し終わるまで待てよ!
「シュヤク?」
「っと、何でもない。それじゃ戦闘開始だ!」
前世の怨念が溢れそうになったところで我に返り、俺達は戦闘を開始する。予定通りに女子二人がプニョイムを叩くとそこに全てのプニョイムが殺到したが、まずは俺が通常攻撃で軽く薙ぎ払い、気勢を削ぐ。
「おらっ、当たれ!」
「ふっとべー!」
そうしてできた空間に、キールとハンスが滑り込んで戦闘を開始する。俺が本気を出すとあっさり勝負が終わってしまうので、少しだけ攻撃のペースを落としながら戦ってみたわけだが……
「きゃっ!?」
「ミーちゃん! 何やってるのよ、このっ!」
「あ、悪い! くっそ、これ結構難しいな」
「任せろ!」
所詮は素人の集まり。当然完璧なガードなどできるはずもなく、男子組の隙間を抜けて女子が襲われる。だがそこはすぐに俺がカバーに入ることで解決し、程なくして特に大きな問題もなく戦闘は終了した。
「はーい、お疲れ様。皆さん、どうでしたか?」
「魔物を倒すだけじゃなくて、後ろに通さないのがスゲー難しいのがわかったかも」
「私も、守られるのがこんなに怖くて難しいと思わなかったわ」
「だねー。お姫様って大変だー」
「ブンブン武器を振り回せばある程度防げるけど、それだとメッチャ疲れるもんなー」
「ハハハ、俺も含めて要練習、だな」
「はい、素晴らしい感想でした!」
感想を口にする俺達に、ヴァネッサ先生が掛け値なしの褒め言葉を贈ってくれた。特に俺の顔を見ると、そのままニッコリと笑顔でその口を開く。
「にしても、シュヤク君の着眼点は素晴らしいですね。教師が教えるような内容を自分で思いついて提案するなんて……実戦経験もあるって言ってましたし、誰かに教えてもらったことがあるんですか?」
「まあ、そんな感じですね。ただ知識と経験は違うんで、まだまだ全然ですけど」
「そんな風に考えられることが、もう十分に立派です。シュヤク君なら、卒業後に騎士団入りも狙えるかも知れませんね」
「騎士団!? シュヤク君、すごーい!」
「出世コースじゃない! これは私ももうちょっとちゃんと意識すべきかしら?」
「へへーんだ! いいさいいさ。俺は『冒険者』になりたいしな!」
「偉くなったら、何かオイシーもの奢ってくれよな!」
「あはははは……」
教師に褒められクラスメイトから賞賛の目を向けられ、俺は何とも微妙な気分で頭を掻く。嬉しくないわけではないが、何かこう……ゲームの知識をドヤ顔で振り回す恥ずかしさとか、中身が大人なのに子供の立場で褒められるむず痒さとか、あと少しだけ抜け駆けをしている後ろめたさとか、色んな感情が入り交じって持て余してしまう。
だがまあ、決して気分が悪いわけじゃない。いや、女子二人に恋愛感情を向けられるのは正直ちょっと困るんだが……俺が普通に生活してりゃ、すぐにボロがでて勝手に幻滅するだろ、多分。
「あー、ほら! 今の感じを忘れないうちに、もう一回戦っとこうぜ? 先生、いいですよね?」
「そうですね。まだ時間もありますし、もう一、二戦くらいなら――っ!?」
その瞬間、突如ダンジョン内部が激しい揺れに襲われる。え、何だこれ? こんなイベント心当たりが……
「シュヤク君!?」
「シュヤク! 後ろ!」
「えっ!? うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
言われて振り返ると、俺の背後に謎の黒い渦が出現していた。どうすることもできず俺はその中に吸い込まれていき……
「ぐへっ!?」
「フニャッ!?」
ペッと放り出された先にいたのは、俺と同じく虚空から放り出されたらしい、黒い猫耳と尻尾がチャーミングな、初対面の……だが見覚えのある女の子であった。
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