第4話 幼馴染に告白する

 情けない話をした。


 人目が気になりすぎて、自分磨きをしていたこと。

 でも本当は、怠けに怠けて、誰ともかかわらず、誰かに養われて暮らしていきたい夢があること。


「俺にとって『監禁される』という状況は本当に理想で、だから、どうにか、監禁して養ってもらおうと思って悪あがきをした。

 でも、悪あがきしてる場合じゃなかった。


 俺は、お前のこと好きかどうか、わからない。

 こんなに思い詰めてたことを今初めて知ったぐらいだし……


 でも、お前の気持ちが色々限界なのはわかったから、告白するよ。


 お前が素敵だと思ってる俺は、実際にはいないんだ。

 本当の俺は、お前が幻滅しちゃうぐらい情けない、怠けものなんだよ」


 恋の病という表現は聞いたことがある。

 でもまさか、本気で病院で診察受けて薬の処方をされるぐらいのものだとは思わなかった。


 それに、檻が十五万?

 大金だ。一円も使わなかったとしたって、合計で三十日分ぐらい働く必要があるんじゃないか?


 そんな努力をして買うのが、檻?

 両親になんて説明したんだろう……犬でも飼いたいとか言ったんだろうか。


 俺は犬になりたいが、犬ではない。

 そしてヒマワリも俺も一人暮らしではなく、両親と一緒に住んでいる。


 だから、俺たちの監禁生活はたぶん、『外』からの力によって、すぐに終わってしまうのだろう。

 冷静に考えれば俺も馬鹿なことをしようとしたもんだ。でも、目覚めていきなり檻の中で、元気で素直で裏表なんかないと思ってた幼馴染が暗い表情でたたずんでれば、馬鹿にもなるか。


「……そうなんだ」


 ヒマワリは幻滅したのだろうか?

 彼女の想っていた『素敵な幼馴染』が、そういう仮面を被った実在しない誰かだと知らされて、正気に戻って、俺に愛想を突かしたのだろうか?


 それならそれでいい、と思う。


「ヒマワリが深刻な状態だって教えられて……いや、気付かない方がどうかしてたけどさ。でも、思ったんだ。助けたいって」

「……」

「お前が思い詰めるほどの『素敵な幼馴染』なんか、いないんだ。だから……楽になっていいんだよ」

「いるよ。『素敵な幼馴染』」

「いないんだよ。『それ』は……」

「いるよ。だって、ここまでされて、それで、私のこと、まだ助けようとしてくれる」

「……それは、」

「でも、それは、私が『目の前で困ってた』から? ……それとも、『私』だから?」


 答えようがなかった。

 結果的に俺を監禁したのがヒマワリだったから、俺は彼女を救いたいと思った。

 でも、俺を監禁したのが幼馴染じゃなくってもたぶん、似たようなことをした気がする。


「ねぇ、私、あなたの『特別な誰か』になれたのかな」

「……ごめん、わからない。あんまりにもいきなりすぎて」

「だよね」

「でも、この件でお前が逮捕されたら気まずいから、どうにかしようとは思ってる」

「……なんで?」

「幼馴染でお隣さんだろ」

「……」

「お前が特別な人かどうかはわからない。でも、お隣さんから逮捕者が出て、これまで仲良かった家族同士に亀裂が入るのは絶対にイヤだ。だから、お前を助けたい。これは間違いなく、俺たちが幼馴染だからで、『お前』が『お前』だからだ」

「…………なんか、すごく、受け止め方に困る理由だね」

「俺だって監禁されて想いの丈をぶちまけられて、受け止め方に困ってるんだ。まず、聞いてほしい。女の子に告白されるのは、嬉しい。でも、監禁されて告白されても、どうしたらいいか、わからない」

「……もしかして、私が間違ったの、シチュエーションなの?」

「それは間違いなくそう。だから、一つ、言わせてほしい」

「何?」

「困ったら相談してくれよ。幼馴染だろ」

「……」

「檻とか買う前に一言言ってくれ」

「でも、もう、買っちゃったよ」

「返品もできる気がするけど……そっちの両親にはなんて言って、檻を買ったんだ?」

「『大きい犬、飼いたい』って……」

「じゃあ、俺たちが最初にやること、決まったな」

「……?」

「犬、飼おう。二人で」

「二人で? ……犬、好きなの?」

「普通。でもさ。生まれたころから世話して、ずっと一緒にいたら、愛着ぐらい湧くよ」

「……」

「大きな犬、育てよう。がんばってバイトして」


 ヒマワリはびっくりした顔で固まっていた。


 でも、すぐに、笑った。

 それか、泣いた。泣き笑いのような、顔だった。


「いきなり監禁してごめんなさい」

「うん」

「でも、やっぱり、そういうところ、すごく不安になるよ」

「うん?」

「だから、これからは、相談させてね。……きっと、思い詰めてこんなことをする前に、あなたに全部話すから。……話していいよね。私、たぶん、すごく重いんだけど……」

「いいよ。相談なんかでいいならいくらでも。生徒会でもメイン業務でやってるぐらいだし」

「……やっぱり不安」


 そう言って、ヒマワリが、錠を持ち上げる。


 がちゃん。


 とても丈夫な音が開く音で、俺たちの会話は終わる。


 さて、あとは……


 飼うべき犬でも、選ぼうか。

 でかくて重い犬、想像してみたら、けっこう好きかもしれないし。

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