第2話 幼馴染に悩みを打ち明けられる

「あなたはいつでも、優しかった。

 ねえ、覚えてる? 私、昔、太ってて、みんなにブスってからかわれてたの。

 いつもあなたが助けてくれたよね。


 嬉しかった。

 ……でも、すごく、嫌だった。


 あなたに助けられる自分が。

 だから私も頑張って、それで、ようやく、あなたに助けられなくてもいいぐらいに……


 あなたの横にいてもいいぐらいに、なったのに。

 ……それなのに。


 あなたは私が弱くなくなったら、私以外の弱い誰かを助けてた。


 気付いちゃったんだ。

 あなたは『いい人』で。

『いい人』は、私だからじゃなくて、『困ってる人だから』助けたんだって。


 じゃあ、また、あなたに助けてもらえるぐらい、弱くなればよかった?


 違うよね。


 あなたは『弱い人』を助けるだけで、それが『誰か』なんて気にしない。


 あなたに認めてもらうには、強くならなきゃいけない。

 あなたに見てもらうには、弱くなくちゃいけない。


 ……どうしたらよかったの?


 いつも困ってて、いつも助けてもらえて、でも『私』だって見てもらえない、弱い私になるか……

 それとも、あなたと並べるぐらい強くなって、でも、こっちに見向きもしてもらえない、強い私になるか……


 あなたぐらいなんでもできたら、もっと他に選択肢があったのかなあ?


 わかんない。わかんない。わかんないよ。……いっぱい考えたの。あなたにどうにかして振り向いてもらうには、どうしたらいいかって。考えたよ。考えて、考えて、考えて、考えて……でも、何もわからなくて。

 あなたのことずっと見てたの。でも、あなたが何が好きなのかわからない。あなたがどんな子をタイプにしてるのかがわからない。


 優秀だから、優秀な人がいいの? 生徒会長みたいに?

 それとも大人しくて、でもきちんと支えてくれる人がいいの? 副会長みたいな……

 それか、控えめで後ろをちょこちょこついてくる、書記みたいな子?

 もしくは、年下なのにすごく派手で、あなたに力いっぱい甘える会計の子?

 それとも……落ち着いた大人の女性?


 わかんない。でも……


『私』じゃないのだけは、わかる。だって。こんなにそばにいたのに、あなたは全然、私のことを見てくれないから……


 私のことを! 見てほしいのに! 方法が全然わからないから!


 だから、私は、こうするしかなかったの……


 私を見て。


 私『も』じゃない……私だけを見てよ……

 私だけに優しかったあなたに戻ってよ……

 私を……


 不安にさせないでよ」



 俺の好みのタイプは一生養ってくれる人なんだけど、それを言うと『どんどん素敵になっていった幼馴染幻想』が崩れてしまう。

 しかし『外面』の俺の人格で説得しようとすると、ヒマワリは説き伏せられて監禁を辞めようとしてしまう。


 どうにかないだろうか。俺に幻滅せず、監禁を続行してくれる、いいラインの説得方法は……



「ヒマワリ、俺は……お前だけを見ることはできないよ」

「……やっぱり、そうなんだ」

「それに、俺は、お前の思うほどには、素敵な人じゃないかもしれない」

「そんなことない」

「いや。そんなことあるんだ。聞いてくれ、俺は……生徒会の子たちとは、仲良くして見えると思うけど……ああ見えてさ、必死なんだ。必死に、頑張ってる。だって、あんな女の子だらけの環境で、意識しないのは、難しいし」

「……」

「やっぱり『一緒にいる』っていうのは、大きい要素だと思う。それに……『同じ部屋で結構長い時間を過ごす』からさ。同じ空気を吸った仲間感っていうのかな。そういうのも、やっぱりある。あと、『俺のために何かをしてくれる』っていうのは大きいよ。生徒会の仕事の話だけどさ。たまにお弁当とかもくれるし、胃袋を掴むっていうの?」

「……そう、なん、だ」

「ああ。だから……『そういう時間を過ごせる相手』のことはやっぱり、好きになっちゃうかも、しれない」


 今この状況です!

 今この状況で、お前が今後も俺を養ってくれれば、俺、お前のこと好きになっちゃうよ!


 だから続けよう、監禁!

 一緒にいよう! 同じ部屋で長い時間を過ごそう! 食事の世話もしてくれ! そしたら好きになっちゃうよ!

 どうだ! 監禁続行のモチベーション、湧いたろ!?


「……ねぇ、私、間違えちゃったのかな?」


 いや正解だって! 自信もって監禁しろよ!


「……どこで間違えたのかな。監禁したこと? それとも、強くなろうとしたこと? もしかして……幼馴染じゃなければ、あなたも私を見てくれたのかな」

「ヒマワリ……」

「……もう、ダメなんだね」

「なんでそうなるんだよ」


 なんでそうなるんだよ。

 今、いい流れ作ったろ! あきらめんな! 監禁をあきらめんな! そこで終わるな! がんばれ!


「……わかった。もう……あなたを殺して、私も死ぬ」

「落ち着け」


 ええ!? 私、どこで間違えたのかな!?

 いい感じに誘導できたはずなのになんでいきなり心中ルートに!?


 わかんない……ヒマワリのこと、わかんないよ……!


 死にたくはないんだ。俺は金持ちの犬か動物園のパンダになりたい。


「ヒマワリ。落ち着いて聞いてくれ。俺は別にお前のことが嫌いってわけじゃない」

「でも好きでもないんでしょう?」

「正直なところ、戸惑ってる。監禁するほど好かれてると思ってなくて」

「……それは……」

「俺たちの間には、何か誤解があると思うんだ。だから、思い詰める前に、話し合おう。……聞かせてくれないか? お前は俺と、どういう関係になりたいんだ? 俺は……俺は、どうだろう。お前のこと、確かに意識したことはなかったけど……今はすごく、ドキドキしてる」

「それはつり橋効果だよ……!」


 お前がそれを言ったらダメだろ。

 どうしてちょいちょい冷静なんだよお前はァ! 監禁してるんだからもっと正気を失えって!


「ヒマワリ、あのさ。……ちょっと思い出話をしないか? 俺たちの過去を振り返ってさ。俺たちの間にある溝を埋めていこうよ」

「…………うん」


 ヒマワリの監禁メーターを『解放』にも『心中』にもいかないように調整しながら監禁されないといけないから、情報が欲しい。

 あれ、もしかして……


 ヤンデレ幼馴染に監禁され続けるのって、結構、大変?

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