監禁してくるヤンデレ幼馴染vs本音を言えば出来たら一生外に出たくない俺
稲荷竜
第1話 幼馴染に監禁される
がちゃん。
とても丈夫な錠が閉ざされる音で目が覚める。
うめきながらあたりを見回せば、うすぼんやりとした明かりしかない部屋、中央の猛獣用ケージに入れられていた。
「は? なんで檻の中に入れられてんの?」
「あ、目が覚めちゃったんだ……?」
女の声に振り向くと、そこにいたのは、幼馴染のヒマワリがいた。
太陽のように明るい笑顔が特徴的なはずの彼女だったが、今浮かべている笑顔はどこか薄暗さがある。
「ヒマワリ……? この状況は……?」
「あなたが悪いんだよ」
「え? ごめん……」
「だって、あなたが色んな子に笑いかけて……色んな子を勘違いさせて……あなたは私のなのに……二歳のころに結婚の約束だってしたじゃない。なのに、私のこと全然見てくれないし……生徒会のあいつと仲良くしてばっかりだし、だから……!」
なんてことだ。
あの明るくて天真爛漫で小動物系で、暗い部分なんか全然ないみたいだったヒマワリが、こんなに思い詰めてたなんて……
でも謝って損したかもしれない。俺、悪くないじゃん。
でも今のヒマワリを刺激するのはまずい。
とにかく落ち着かせてみよう……
「ヒマワリ、それは勘違いだよ。俺は別に、生徒会のあいつと仲良くしてばっかりじゃ……ところで『生徒会のあいつ』って誰?」
「生徒会長と、副会長と、書記と、会計と、顧問の先生だよ! あるでしょ!? 覚え!」
「まあ生徒会フルメンバーなので……」
「あなた以外全員女子なの、なんて言われてるか知ってる!? 『あいつの生徒会、恋愛ゲームみたいだな』って言われてるんだよ!」
「それは言ったヤツが悪いよ。男女平等参画生徒会だから能力と人望で選ばれた結果そういう男女比になっただけだって」
「言い訳しないで!」
どうしよう、テンションを揃えることがなかなか難しい。
おかしいな、思い詰めた表情の幼馴染に監禁されているの、結構危機的状況だと思うんだけど。危機感がまったくわいてこない。
あ。
そうだ、俺……
できたら誰かに監禁してもらいたかったんだ。
俺は外面がいい。勉強も運動もできる。人当たりだっていいし、傍目に見たら『女の子と仲良くしてる』ように見えるんだろう。
でも、内心ではいつも『だるぅ……めんどくさぁ……』と思っている。
できればコミュニケーションなんかとりたくないし、運動も勉強も頑張りたくない。
人の目とか評価が過剰に気になってしまうから、頑張らずにはいられなくて、困ってたんだ。
けど、もしも、監禁してお世話してもらえるなら?
それは俺のせいではなく、一生、引きこもってダラダラできるっていうことなんじゃないか?
ヒマワリに養われて檻の中で生きていく。……想像してみたら、すごくいい。俺の将来の夢、本当は『金持ちの犬』だったんだ。
このまま幼馴染の飼い犬になれるなら、それは、いい話なんじゃないか?
よし、じゃあ、素直に『一生お世話になりますワン』って言おう。
「あなたは」
「ん?」
「大きくなるにつれて、どんどん素敵になっていったよね。勉強も、運動もがんばって。成績もよくなったし、服だって、気を遣うようになって……」
だぶん性徴期を過ぎたあたりから急に『周囲の評価』が気になるようになり始めたから、それだと思う。
それまでの俺は母さんに買ってもらって服を着て、お菓子もジュースもモリモリ食べて、勉強もしない、眉毛も整えない、そういう子供だった。
でも急に人の視線が気になり始めて、それで身だしなみとかを整えるようになったんだ。
「あなたが素敵になるごとに、ずっとずっと、思ってたの。『どうして、この人はこんなに素敵なんだろう』『どうして、私以外と仲良くするんだろう』『私の幼馴染なのに』って……! ねぇ、私が全部やってあげる……あなたのこと養って、一生お世話してあげるから……だからこのまま、私だけを見ててよ……!」
「ああ、でも……」
それは偽装だったんだ、本当はぐうたらしたかったんだよ。
……と、言おうとして、気付いてしまった。
ヒマワリが好きなのって、『外面』の俺なんじゃないか?
だとしたら、本性を表したら……監禁してもらえなくなる!?
うわああああ!? まずい!?
どうにかしてこの『監禁』という最高の状況を維持しなきゃ!
そのために、『外面』を維持しなきゃいけない!?
ええと、『外面』の俺が言いそうなことは……
「……でも、何? 言い訳なんか、もう、聞きたくない。あなたは私だけのモノなの……!」
「………………でも、こんなことするなんて、間違ってる。ヒマワリ、思い出してくれ。俺の幼馴染はもっと明るくて、それで……もっと人のことを思いやれるいい子だったよ」
「………………」
「どうやって俺をここまで運んだのかは知らないけど……今ならまだ、なかったことにできる。それで、やり直そう。な?」
「…………でも、どうせまた、私を見なくなる。私より素敵な人のところに、行っちゃうんだ」
「大丈夫。俺はいつでも、ヒマワリを見てるよ」
「…………本当?」
「本当」
「…………うん。わかった」
「え? わかった?」
「こんなことして、ごめんなさい。そうだよね、間違ってた。私、なんてひどいことを……」
「あ、え? え? あ、いや、もしかして俺を解放する気?」
「え? うん」
「いやでもさ、考えてみてほしいんだよ、ヒマワリ」
「う、うん?」
「監禁しちゃうほど思い詰めたわけだろ? だったら俺は……お前の悩みを聞くまで、ここから出るわけにはいかない」
「でも今、『なかったことにできる。やり直そう』って……」
「なかったことにはできるけど、今なら落ち着いて話し合うチャンスだし、もうちょっと粘ってみないか?」
「え? え? ど、どういうこと?」
「話し合おう。それで気持ちも変わるかもしれないし。吐き出してくれよ! お前の想い!」
幼馴染がヤンデレかと思ったらヤンデレが浅くて一瞬で解放されかけてしまった。
根はいい子なんだよ。
どうにか軌道修正できたけど、このままじゃあっさりと檻から出されてしまう……
会話を振って、俺を監禁する方向で話をまとめないと。
「どうして、俺を監禁しようとしたのか、そのきっかけを聞かせてくれないか?」
時間稼ぎをしよう。
お前が、俺を出すのを忘れるまで。
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