第3話 女勇者ユウカの昼食
【女勇者
それは戦士にとって束の間の休息。
女勇者お手製の弁当を彼に食べさせていたのだった!
昼の心地よい日差しが降り注ぐ、校舎中庭のベンチ。
そこで二人は、人目もはばからず寄り添いながら昼食をとるのであった!】
「優花ちゃん、いつもありがとう」
「いいえ、これくらいのこと」
「でも大変でしょ、毎日二人分のお弁当作るのって」
「そんなことないわよ。おかずも一緒だから、ちょっと多めに作るだけだから」
「いただきます」
「どうぞ」
あぁぁ……
私の作ったお弁当を食べる明守くん。
なんて可愛いのかしらっ!
ひまわりの種を口に入れるハムスターみたい。
あ―― 可愛い、可愛いわぁ……
今すぐ抱きしめたい!!
【女勇者は、弁当を頬張る彼に魅了されていた!!】
「この唐揚げ、一から作ったの? すごく美味しいけど」
「そう、かな? えへへ。
でもちゃんと鶏肉を漬けるところから、仕込んでるけど」
【褒められた女勇者は舞い上がっていた!】
「へー すごいね。美味しいわけだね」
「一からって言っても、さすがに鶏を絞めるところからじゃないけどね」
「ははは。面白いこと言うね。優花ちゃん」
異世界なら森の鳥を捕まえてからさばいていたけど、さすがにこの世界では肉自体はスーパーで購入できるし。
「でも本当なら、獲りたてが一番美味しいのよね」
「とりたて?」
「鳥の獲りたて……よ」
「とりのとりたて?」
「あとね、意外とドラゴンの肉が美味しかったのよねぇ……」
「どらごん?の?にく?」
「……え?」
「…………」
「……今、私、なんて言ったかしら?」
「どら、ごん、とか?」
「……ドラ……猫?」
「ドラねこ!?」
「…………」
「…………」
「な~んてね。ふふふ」
「ははは、びっくりした~」
「ドラゴンとか、異世界じゃないんですから」
「異世界でも、ドラ猫は食べないよね?」
【女勇者は焦っていた!!】
あぶないわ!
異世界での生活が長すぎて、ついうっかり変なこと口走っちゃって。
なんなの?ドラゴンの肉とかって。
馬鹿じゃないの?
「優花ちゃん、この卵焼き、美味しいね」
「……え? あ、ありがとう!」
「僕、甘い卵焼きが好きなんだ」
「わ、私も!」
ま、まさか!
好きだなんて!
こんなところで、なんて大胆なの!!
【女勇者は勘違いしていた!】
「優花ちゃん、卵焼き、巻くのも綺麗だよね」
「そ! そうかしら!」
私のこと、綺麗だなんて!!
今日の明守くん!
なんだか積極的!!
【女勇者は、またしても勘違いしていた!】
「今度、教えてくれるかな? 卵焼きの作り方」
「え? 作り方?」
教えて? 作り方?
……卵?
たまご?
……
……子ども?
子どもの作り方!!?
え?
うそ?
子作り宣言!!!?
【女勇者は大混乱していた!】
「卵は何個、使うの?」
「た、卵だなんて! 何個って? 私たちは卵、産めないわよ! 子どもなら3人以上は欲しいわねっ!!」
「…………え?」
「…………え? 何の話だっけ?」
「卵焼き作るのに必要な卵の数……だったかな?」
「そ、そうだったわね!」
【女勇者は赤っ恥をかいた! マジックポイントが0になった!】
「えっと、その……普通の鶏の卵だと、5個くらいかな」
「結構、使うんだね」
「でも、ドラゴンの卵なら一個で十分だわね」
「……ドラゴン?」
「あれ一個で、目玉焼き4畳くらいの大きさになったかも?
みんなで食べたんだけどね、食べ切れなくて残りを全部エルフに無理やり食べさせて……」
「4畳? えるふ?」
「…………」
「…………」
「今……私……なんて?」
「ドラゴンの卵が4じょう、でエルフが……」
「ど、ドラ猫の、卵が、4個で、セルフで……」
「猫の卵!?」
「…………」
「…………」
「な――んてね、ふふふ!」
「ははは。猫の卵の卵焼きって、面白いね」
【女勇者は痛恨の一撃を食らった!】
ま、まずいわ、この会話の流れは!
ここは気を取り直して……
「今日はね、デザートもあるのよ」
「え? 本当に? 今日は豪華だね」
「普通のリンゴなんだけどね」
「わぁ! すごい! ウサギの形に切ってあるんだ!」
「家にリンゴしか無くてね。本当ならアーレンジが美味しいのよ。
でもこの世界には売ってなくて。明守くんにも食べさせてあげたかったな」
「アーレンジ?」
「そう、向こうの異世界で普通に実ってる果物で、食感はリンゴだけど味がミカンなのよ」
「向こうの異世界?」
「…………え?」
「…………」
「今、私、なんって言った?」
「あーれんじが? 異世界で?」
「…………」
「…………」
「……異世界じゃなくて、居酒屋で普通に売ってるリンゴの形のシャーベットなんだけど、ミカンの味がするデザートのこと…………」
「へー そんなのあるんだ。美味しそうだね」
「え? ええ、そうね!」
「でも、よく居酒屋にあるメニューのこと知ってるんだね」
「まあ、しょっちゅう行ってたからね。ドワーフとか大酒飲みだったし。私もエールなんか……」
「…………居酒屋に? 行ってるの? 優花ちゃん?」
「えっ? いや? 違くて!! 居酒屋には、ど、どわ……ダディーのワイフが! 私もその流れでついて行ってて!!」
「へぇ、そうなんだ」
【女勇者のヒットポイントはゼロに近かった!!】
あ、危ないわ!
脳が……
まだ頭の中は、異世界脳のままだわ。
このままじゃ、明守くんに変な女の子と思われちゃう!?
それだけは避けなくちゃ!
ああ、早くもとの生活に慣れないと……
【女勇者ユウカのリハビリ生活は続くのだった!!】
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