第2話 女勇者ユウカの下校


【元の世界に戻った女勇者 柚木優花ゆずき ゆうかは、一人のごく普通の女子高生としての生活を満喫していた!】


 そして今日の下校時も、愛しの彼氏である明守あきもりと寄り添いながら、歩いて帰宅するのであった!】


「それで、明守くんは、今どんなアニメとか見てるんだっけ?」

「そうだね、今、面白いのは……」


【異世界にいた5年8ヶ月と15日の月日は、女勇者ユウカの記憶を曖昧にさせるには十分な月日だった!

【当時一緒に見ていたアニメやドラマ小説、漫画まで、ありとあらゆる情報が途中で途切れ、過去の記憶となっていたのだった!】


 また、明守くんと一緒に復習しなくっちゃ!


【そんな取り留めのない日常の会話をする二人。

 しかし背後に危機が迫っていた!

 暴走する脇見運転のトラックが、二人をめがけて突入してきたのだった!!】


「あっ! 危ない!」


【記憶を辿ることに夢中になっていた女勇者ユウカの判断は遅れた!

 いち早く危険を感じたが、彼の手を引こうとするが間に合わない!

 その瞬間、とっさに女勇者が、彼氏を守るように身体を抱きこみ、丸くなる!

 そこにトラックが突っ込むのだった!】


【地面に伝わる振動!

 大きな衝撃音!

 破裂する車体に、突き刺さるガードレール!!

 音鳴り止まないクラクション!!

 そして数秒遅れてからの、周囲の悲鳴!!


 横たわるトラック!


 しかし砂埃の中から現れた女勇者の体は……


 無傷だった!!!


 トラックのフロントは硬い岩が衝突したかのように大きくへこむ。

 周囲には飛び散ったガラス片と、細かな金属の破片】


「う……」

「だ、大丈夫? 明守くん!!?」


「ぁ……ゆ、優花……ちゃん?」

「よかったわ。無事で」


【女勇者の腕の中で意識を取り戻す彼氏に、胸をなでおろすユウカ】


「優花ちゃん? 怪我は?ない?」

「私は全然大丈夫。ギリギリのところで避けれたみたいね」


「びっくりした……」


 あぁ、

 私の明守くんが無事でなにより。

 本当にびっくりした。

 びっくりしたぁ……


 本当に……


 本当にぃ!!


 ほ・ん・と・う・に――!!


 私の明守くんに!!


 なんてことしてくれるのよぉー!!!


【大した怪我もなかった彼氏に安心する女勇者。

 しかし!!

 女勇者の怒りは収まらない!!

 その目には……

 危険な目にあわせた罪の償いを!

 報いを受けさせようとする、怒りの炎が上がっていた!!】


「ちょっと待っててね、明守くん」

「え? 優花ちゃん?」


【女勇者は前面が大きくひしゃげたトラックの前に近寄る。

 そして原型のないドアを素手で、力任せに引き剥がす!

 そしてフレームを広げながら運転席へ!】


「ちょっと、あんたぁ!! なにしてくれてんのよ!!

 明守くんの体に傷一つでもついたら、どうしてくれんのよお!!」


【運転席には一人の中年の男が、押しつぶされたフロント部分に足を挟まれ、作動したエアバックで体が埋もれ、苦しみ悶えていた!!】


「あ……あし、足が、がぁ……」

「足の一本二本折れたくらいでぇ!! 泣いてるんじゃないわよ!!」


【女勇者のパンチでエアバックが吹き飛ぶ! そして、ひしゃげたフロントと座席をこじ開け、運転手を引っこ抜く!】


「あなたも! この潰れたトラックみたいに、してあげましょうかぁ!! ええ!!」

「あ、痛てぇ、あしが、体がぁあ!!」


【痛みに泣きわめく男に、女勇者は回復魔法をかけた!】


「あ、あしが……あ? な、治った?」


【そんな男を、車内から強引に引き出す女勇者!

 そして地面へと投げ捨てる!!】


「ああ? あんた? どう落とし前、つけてくれんのよぉ? ああ!!!?」


【異世界の魔王をもたじろぐ程の、凄みを見せつける女勇者!!】


「す、すんません! すみません!! い、意識が急に!!」

「まさか、居眠り運転!? あんた!このまま永眠させて……!!」


「優花ちゃん? どうしたの?」

「はっ!? 明守くん!?」


「その人は……?」

「あ? え? あっ! 運転手さんよ! 今、救出したところ! 

 別に! その! 特に怪我もなくてよかったわ!!」


「そうなんだ、よかった……」

「さあ! 後は警察に任せて、帰りましょ!! ドラマの時間に間に合わなくなっちゃうから!!」


【何事もなかったかのように、立ち去ろうとする女勇者ユウカ!!

 そして彼女は思うのだった……】


 迂闊だったわ……

 この世界に戻ってきて完全に安心しきってたけれど、

 異世界と同じくらいに危険がつきもの。


 むしろ、この世界の方が危険で溢れているかも!?


 私がちゃんと、明守くんのことを守ってあげないとねっ!


【女勇者ユウカは、彼に対し一層過保護になった!!】

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