第3話 誰が呼んだか日陰の第三王子。又の名を、闇王子たぁ俺の事よ。

 

 

 この国には現時点で王子が四人居るとされている。


 国民に一番人気があるのは第一王子。まず何より見た目が良い。隣国から嫁いできた正妻(公爵家の長女)が美人。跡取り候補の息子も生まれてその立場上、盤石かつ絶好調と言えよう。


 二番目が第二王子。武に長けておりワイルド系イケメン。噂では婚約中の同僚騎士(侯爵家次女)との結婚が発表間近とか。


 三番目が第四王子。他の王子とは年が離れておりまだ幼いが、非常に可愛らしく一部の女性達にはやたらと支持されている。


 ここでサッパリ話の出てこない第三王子。王都民ですらどんな顔なのか知っているものは少ないという。


 あまりにもの知名度の無さに正妃から疎まれているのではとも囁かれ、公式行事にも滅多に顔を出さない所から『日陰の第三王子』と揶揄されていたりもする。


 本人も酷い言われようなのは把握してはいるが、性格的にも状況的にも全く気にしておらず、寧ろその存在がどんどん薄まれば良いとすら思っていたりもしている。


 彼の第三王子の名は、アシェイド・ヘザラ・モナ・カイオス。


 人々がこの名を呼ぶ事はおろか、当人ですら滅多に口にする機会は少ない。


 何せ現在彼のこなしている業務内容が特異だからである。


 ある時は国主導で秘密裏に運営されている闇銀行の運営責任者。


 ある時は様々な地下組織との関わりも多い第三王子直轄の特殊部隊部隊長。


 ある時は周辺諸国にふらっと姿を現す神出鬼没の冒険者、アラ・ハザン。


 ある時は限られた顧客としか商売をしない代わりに変人と名高い蒐集家大貴族をも満足させる珍品・奇品を取り扱う謎の商人。


 そして今この酒場兼食堂のカウンターで白髪のシスター風メイドを相手にしている、印象の薄い容姿の推定人族(性別不明)。


 そりゃ他の人気取り王子達の様に公務オモテで愛想を振りまく暇なんざ有る訳が無いだろうよ、と日陰の第三王子の異名の一因を作った国王オヤジが居るであろう王都の方向へ視線を向け、そこに住んでいる口さがない国民達へと少しの笑みを向けてやった。



 世の中、知らないでいた方が幸せな事ばかりなり。不要に真実を暴こうとすると、不必要な不幸が不意に襲い掛かるものなのである。よう知らんけど。

 

 

 

 

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