第7話 天音 大地/臆病な隠者

 移動を終えたニールは、自分が暗い森の中に立たされている事に気づく。


(しまった、すっかり夜が更けてしまっている。ただでさえ顔も位置も分からないのに、これじゃあ探しようが無い!)


 当てもなく周りを見渡すニール。すると、ニールは左の奥から白いローブを着た男二人組がこちらへ歩いて来てる事を悟り、咄嗟に近くの茂みに隠れる。


 少し時間が経ち、男達はニールがいる茂みのすぐ傍で立ち止まって話をし始めた。


「兄上、いつまで探さなきゃいけないんですか? ここまで探していなかったらもういませんよ!」

「なりません。彼の者が握りし情報は門外不出の情報。必ず探し出して始末し、教団に安寧をもたらすのです」

「そんなぁ……ん? 兄上、あそこにある石、なんか変じゃないですか?」

「形が変だという話ですか? なら、そのような石は往々にして存在するでしょうに」

「違いますよ! あの石、なんか息してるみたいに小さく上下に伸縮してるんですよ!」

「それは確かに変ですね。探りを入れてみましょうか」

(……何か分からんが、きっとその石の正体が天音なんだろう! 丁度良い、あの石に寄ってきた所をまとめて拘束する!)


 時計を手に持って茂みを飛び出すニール。しかしそんなニールが次に見たのは、『石の事など最初から見なかった』かのように石の前を素通りする二人の男だった。


(な、なんだ? 確かに奴らは……あれ? 僕はいま、何しようとして飛び出したんだっけ?)

「あ、あのー……」

(あぁ、危ない危ない。天音を探しに来たんだったな。忘れちゃいけねぇ)

「もしも~し……」

(捜索再開だ。とはいえ、どこから手を付けた物か――)

「ちょ、ちょっと良いですか!?」

「うぇっ!?」


 突如、背後からした大声に大きく肩を震わせるニール。その声に反応し、さっき前を通り過ぎた二人の男も振り返る。


「いました、アイツです! それに隣に居る奴は……」

「何でも良い、彼の仲間ならまとめて排除するまで!」

「あぁもう! 何が何だかわからんが、ひとまず縛り付ける!」


 ニールが左腕を勢いよく振り下ろすと、男達の全身を鎖で挟むように虚空から鎖を十数本召喚され、縦に張り巡らされて男達の身柄を拘束する。


「なんだこれ……!」

「は、離しなさい! さもないと、龍神様の天罰が下りますよ!!」


 鎖に挟まれた男達に、ポケットに手を突っ込みながら歩み寄るニール。


「龍神? 世界龍のことか? 死体を使った脅しなんか効く訳ねぇだろ。それも、そいつの死因を作った奴相手にさ」

「死因を……まさか貴様、大悪魔『ニール・レオンハート』か!?」

「……この二千年間で、教団は信者数だけでなくセンスまで失ったのか?」

「黙れ! 人が人を支配する暗黒の世を作り出した悪魔め! お前の甘言には乗らんぞ!」


 兄上と呼ばれた男はそう言って呪文を唱え始め、下っ端の男も連なって呪文を唱える。


「ダメだこいつら、話にならねえ」


 呆れ顔で指を鳴らすニール。すると鎖が大きな音を立てて爆発し、その中心にいた男達は口から煙を吐きながら倒れ込む。


「凄い……圧倒しちゃった」

「交わしてきた契約ディールの数が違うからな。それで――」


 ニールは振り返り、背後にいた薄緑髪碧眼の少年と目を合わせる。少年は白シャツにベージュ色のセーター、カーキ色のチェックズボンを着ており、頭には茶色いチェック柄のキャップを被っている。


「アンタが天音だな?」

「は、はい。天音大地あまねだいち、13歳です。えと、影がとっても薄いです」

「あの男達に石と間違われるくらいだ、相当薄いんだろうな」

「えあ、僕のこと、石に見えてたんですか? なるほど、身を潜めてる間、僕はそう見られているのか」

「安否確認も出来た事だし、さっさと帰るぞ。ここは敵地のど真ん中なんだろ? さっき爆音も立てちまったし、増援が来ると面倒だ」

「ちょ、ちょっと待って下さい。仕上げをします」


 天音はキャップを取り、頭の上に乗せていた深緑色の時計を手に取る。


「新しい隠し場所だな……」

「頭の上に何か乗ってると落ち着くんです。それはそれとして、えいっ」


 咄嗟にニールの胸元に時計を押しつけ、時計のボタンを押す天音。するとニールは一瞬めまいを覚え、少しフラつく。


「な、何をした?」

「すみません、あの二人が貴方と僕にあった記憶を消すには、こうする必要があったので」

「これでアイツらは、僕達に出会わなかった事になるわけだな。特殊だが、便利な契約を持ってるな」

「? なんです、その契約っていうのは」

「……違うのか?」

「と、時計の認識について、後ですりあわせをする必要がありそうですね。とりあえず、戻りましょうか」


 ニールは首をかしげつつ、転移するために天音の肩に触れる。


(……細いな。こいつ、本当に男か?)

「ど、どうしました?」

(勘違いだよな。僕に近い年の男なんて、異性とほぼ体つき変わらないだろうし)


 一抹の疑問を胸の内に抱きながら、ニールはボタンを押して天音と共に館に帰るのだった。

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