第3話 未知の世界/龍崎音巴
外に出たニールは、あまりの明るさに思わずサングラス越しに腕で目を隠す。
反射で瞼を強く閉じたニールだったが、あまりの目の痛さに瞼の隙間から涙をこぼす。
少し経って痛みが引き、恐る恐る目を開けたニールの視界に映ったのは――
『未知の世界』。彼にとって、そうとしか形容できない光景だった。
レンガ屋根の家々や綺麗に舗装された歩道、それからニールの目の前を通る、ニールにとって奇抜な服装をした大勢の歩行者だった。
あまりの情報量の多さにニールは額に脂汗を滲ませ、さらに過呼吸になってその場に倒れ込む。
(確かにドギマギさせろとは言ったが……やり過ぎだ! 僕が最後に外で見た物は……広大な草原に、転々と藁の家があるだけの風景だったんだぞ!?)
右手を震えるほど力強く握り込み、何度も何度も深く息を吐く。
(いや、進化した世界を知ることを恐れるな! ニール・レオンハート! 獅子の心は、こんな苦難など物ともしない!)
どうにか自力で過呼吸を治したニールは、両手を地面について勢いよく立ち上がる。
(ここまで文明が進んでると、僕の古すぎる価値観や物事の尺度は通じないだろう。多くの苦難に見舞われる覚悟を、決めなくっちゃあな)
額の汗をコートの袖で拭い、ひとまず鉄塊が進んでいる方向へ向かうことにしたニール。
(……そういえば僕、今一文無しだよな。何をするにも金が必要だが、本土では15歳未満を従業員として雇えない法があると教わったことがある。ふむ……)
顎に手を置いて思いを巡らせていると――
「嫌や! こっち来んといて!」
突然、ニールはそんな女性の大声を耳にする。
(今の声、あの建物と建物の間から聞こえたな。出所したばかりでこういう事に介入するのは避けたいが……まあ、行くか)
ニールは溜息をつき、路地裏に入っていった。
向かった先では筋肉質な男が帽子を被った女性に詰め寄っており、女性は嫌そうな表情で目の前にいる男を両手で押しのけようとしている。
「勘弁してや、ウチには待ち人がおんねん! タイミングが良きゃ付きおうてもかまへんかったけど、今はダメなんや!」
「べつに良いだろ待ち人の事なんかよ。俺達なら、そいつらより良い思いをさせてやれるぜ?」
「関係あらへん、その子はもうすぐここを通りがかるはずや! 早うどいてってば、見つけられんくなる……!」
女性は押す力を強めるも、男の体はびくともしない。
「諦めろ。俺は普段から体を鍛えてるんだ、女のお前にどかせるはずがない」
「……あぁもう、自分からどく気はあらへんのやな。ならしゃあない――」
女性は右手を離し、ポケットから金色の懐中時計を取り出す。
(ば、馬鹿な! 『契約機』だと!? 門外不出の技術を、どうしてあいつが!?)
「一般人に力を振るうのは本意やないけど、急を要する事態やから振るわせて貰うで。「
懐中時計のボタンを押すと、女性の左手が紫色のオーラに包まれ、直後にオーラは爆発する。すると辺り一帯に爆風が吹き荒れ、目の前の男達と女性が被っていた帽子を吹き飛ばす。
背中から地面に落ちて呻く男達をよそに、女性は空を見上げて帽子に向け手を伸ばす。
「おーい! 早う落ちてきて! 屋根に引っかかるんだけは
「痛てて……この女、人が下手に出てりゃいい気になりやがって! そっちがその気なら俺達だって――」
立ち上がった男が拳を固めたのを見て、入り口で見ていたニールは時計を手に持ち路地に一歩足を踏み入れる。
「そこまでだ」
ニールが時計のボタンを押すと、どこからともなく鎖が飛び出し、男を簀巻きにして地面に倒す。
「なんだこのガキ! どっから沸いて出た!」
「うるさい。気道を太い鎖で塞がれたくなきゃ静かにしな」
男は歯を食いしばりながらも、怒鳴ることなくジッとしている。
そんな男の傍を通り過ぎ、ニールは丁度帽子をキャッチした女性に近づく。
黒の革ジャンに白いシャツを身につけ、そしてジーパンをはいている、胸の大きな茶髪の女性。女性はキャッチした帽子を頭に被せ、ニールに向き直る。
「危ない危ない、手ぇ上げられるとこやったわ。ありが……えぇっ!?」
「何を驚いてるんだ、アンタも同じ力を使ってただろ? 待ち人との用事が終わったら、その時計について色々聞かせて貰うからな」
「そうやなくて……こんな偶然あるんやなってビックリしてん。ウチが言ってた待ち人言うんは、他でもない君のことや」
目を見開き、呆気にとられるニール。
「……なんで僕を? というか、どうやって僕が出てくるって情報を掴んだんだ?」
「フフ、それは歩きながら話すわ。でもその前に自己紹介せなな。ウチは
首をかしげるニールを余所に、音巴はニールの前に出て歩き始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます