盗人の共通点
「聞いたんだよ、ここに置いてあるものは高いけど小さいから盗みやすいって。話の流れは思い出せないけど」
「へぇ……誰に」
「それは……あれ? ウチに来た客で……どんなヤツだっけ」
俺の店で窃盗しようと考えたきっかけを聞くと、プランと名乗った子供は困惑をにじませつつ呟いた。
「……チック、誰からこの店のこと聞いたか、覚えてる?」
「………………分かんない」
「ほーん」
二人の言葉に猜疑心丸出しで漏らせば、
「嘘なんかついてない! ホントに覚えてないんだってば! くそっ、なんで……!?」
「…………」
プランは顔を跳ねさせて弁解する一方で、チックは俯いたまま沈黙している。どちらも雰囲気的には絶望そのものだ。そりゃそうだろうな、俺の気分一つで自分の扱いが決まるのに、疑われるような物言いしか出来なけりゃ。
「ふーん……お前らの
「…………」
「…………」
チックだけでなく、プランまで俯いて黙り込んでしまった。まぁ、俺でも同じ立場なら似たような態度になるだろう。本人からしても説明に無理があると自覚してるはず。まるで言い訳になってないしな、誰かから聞いたけどその時のことはぜーんぶ忘れましたーなんて。
「……よし分かった、とりあえずは信じてやる」
「…………へ?」
「…………?」
俺の言葉に二人とも顔を上げて、プランだけが呆けたような声を出した。
「実のところ、お前らだけじゃないんだよ。今までにも何度か、誰かに
他者の記憶から己の姿を消す。それが叶う魔法は、種類だけで言えばいくつか存在している。だから窃盗の犯人たちが言葉通りに、誰かに踊らされてること自体はあり得る話だ。
しかし、その魔法を扱う人間が、この店を狙う理由にはまるで見当がつかない。他人の記憶に干渉する魔法ってのは習得自体がかなり難しいし、それを使ったとしても確実に成功するかは怪しい。いずれもが、今日俺が使った闇魔法のようにどこかしらに欠陥を抱えていたはずだ。
が、窃盗犯に吐かせた情報を総合すれば、魔法の効果を毎回100パーセント発揮している。それが出来る奴は天才で、間違いなく偉大な魔法使いと言えるな。金を稼ぐのに困りはしないだろう。つまり、俺の店に盗人をけしかけて
「まっ、ここに来た経緯自体は分かった。じゃあ次は、お前たち自身のことだ……なんで盗みを働こうと思った?」
黒幕のことは一旦忘れて、最も知るべきことを尋ねる。ぶっちゃけ答えなんて一つしかないようなもんだが一応な。馬鹿馬鹿しい問いなのは受け取りてからしても同じだったか、プランが鼻で笑って答えてくれた。
「ハッ、決まってるだろ……カネがねぇからだよ。やらなきゃメシが食えないんだ。無いからある場所に行って貰うしかない。だろ?」
でしょうね。
「今まではどうしてたんだ。つか、お前らこの街に住んでるのか?」
「……少し前に、外の村から移ってきた。……一応、食えるだけの仕事もあったから、盗みはこれが初めてだよ。嘘じゃねぇぞ!!」
「はーん……」
吠えるプランを流しつつ顎を撫でる。なんか面倒ごとに匂いが漂ってきたなぁ……この先を聞かないって選択肢は無いんだが。
「じゃ、なんで仕事が無くなった?」
「「…………っ」」
二人が同時に息をのんだ。少しばかり逡巡する様子だったが、観念したようにプランが答える。
「……あたしたちが双子だってバレたんだ」
「っ」
プランの言葉に、チックはびくりと肩を震わせた。こちらとしては「あーなるほどねー」くらいの心持ちだが、当人たちにとっては重大な告白に違いない。
俺の知る限りにはなるが、双子ってのはどこでも基本的に忌み嫌われている。不吉の象徴と言っても良いくらいには。
この世界の人間は、例外なく魔力を持って生まれてくる。幼少期には無いも同然だが、一定の年齢になったら誰しもが魔力を扱えるようになるのだ。その上で習得魔法の許容量ってのがほとんどの人間に共通して存在するけれど、双子に生まれるとそれが一般人の平均の半分ほどになってしまう、と言う話がある。
生まれつき常人の半分程度の魔力しか持たない双子は、代わりに一つの才能に恵まれていた。それは、「対象から何かを奪う魔法」の習得が容易であることだ。まぁ才能ってのは俺からすれば、って話で。普通の人間から見れば、双子と言うのは生まれながらの盗人であるのだ。他にも双子を忌む俗説はいくらかあるが、個人的に納得できるのはこの辺の理由だな。
「なんでバレたか……はどうでも良いか。それで? 親は」
双子カミングアウトに動じず続ければ、今度はプランだけでなくチックも顔を上げてこちらを見た。目元はパーカーに隠れてるが、それはポジティブな反応に映った。
「……あんた、双子がなんなのか知らないの?」
「知ってるっつの。泥棒、悪魔の子、疫病神……まぁ色々言われてるな。だが個人的にはどうでも良いことだ、少なくとも俺の店にとってなんら脅威にならん訳だしな。そんなことより、お前らの親はこの街に居るのか?」
俺の反応には怪訝そうにしつつも、プランはぽそぽそ答えてくれる。
「……親は、いない。……面倒見てくれてる人は居るけど」
「プラン……」
「しょうがないだろ、もう何言ったって変わんないよ」
保護者の件はタブーだったのか、チックが咎めるようにプランの名前を呟いた。プランは取り合わず、どうにでもなれと開き直っている様子だ。双子って話だが、基本的に主導権と言うか、上下関係はプランに分がありそうだな。プランが姉でチックが妹と見ていいか……姉妹だよな? フードから垂れる髪はそこそこ長いし、声も女の子であるように聞こえるし。姉妹と思っていいだろう。
「この依頼は誰が出した。お前か?」
双子の間で少し険悪なムードが
「そうだよ。カンペキだろ?」
「完璧だったらこんなに早く気づかれると思うか?」
「ぐっ……」
指摘されるまで穴のない出来だと自負していたらしい。地頭が良いって印象だったが、ただの勘違いだったかも知れん。
「で、どんな手品だ。受付の人間に何をした? 一度受理されてるのがおかしいくらいにはなってないぞ、コレ」
「ふん……あたしには凄い力があるんだ。あたまの中で願ったことが本当に起こるんだ! ……ちょっとだけだけど」
「あぁ、そう」
「なんだよその反応! 信じてないのかよ!? 言っとくけどホントだからな!!」
いや別に疑った訳じゃないが。そういう事例はあるしな、それも特に珍しくもないくらいには。
「最初に聞いとくべきだったな。お前ら人間だよな? 歳いくつだ」
「……たぶん、13。ねぇ──面倒見てくれてる人が教えてくれた」
姉ちゃんとでも言いそうになったかな。保護者は女性か? そっちはともかくとして、13か。違和感はない年齢だな。
「勘違いを正しといてやるが、お前はただ念じたことを現実にするような不思議パワーなんて持ってない。13から14歳くらいになると、人間は少しずつ魔力を扱えるようになるもんだ。双子の性質から考えるに、依頼の受付で無意識に相手の思考能力なりを奪おうとしたんだろ。魔法の出来損ないが運よく、上手い具合に働いてくれたんだ」
「まりょく……? あたし、魔法使えるようになったの?」
「そりゃな。……何をどういう風に教えられてきたのか知らんが、生まれつき魔法が使えない人間なんてこの世に存在しないぞ」
13から14歳になると魔力が発現する。その正しい扱いを学ぶために魔法学校に通う。これは世間では普通のことだ。貧しい家の子供だって、条件こそあれど入学するのは難しくない。
人間はだいたい20歳くらいまでにきちんと魔法を覚えなければ、その後永久に魔力が使えなくなるという性質を持っていて、それもあり学校に通わせるのはマストと言える。余談だが、よほどの例外でない限り、親が子供に魔法の使い方を教える、などと言った行為は禁止である。
ともあれ、それらを始めとして様々な理由から、魔力の発現やそれに伴っての魔法学校への入学、魔法の習得までの流れは一般常識の範疇だ。逆に言えば、この子らの生い立ちは普通とは程遠い。以前住んでいた村とやらを見てみたいもんだ。
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